37.一人目の犠牲者2-1 (駆け出し冒険者編ースライム姦)

ここに来てから数か月が経っていた。

最初は性奴隷なんてふざけるな、と思っていた。
しかし今となってはこの生活も悪くはないと考えている。

大の男がこんな事言うのもなんだけど、甘やかされる生活というのも悪くない。
毎晩のセックスはちょっと恥ずかしいけど、それに慣れてしまえば後はひたすら気持ちいいものだ。

ただ時々着いていけないときもある。

「リック、修業するぞ。弓を使えるようになれ」
「は?なんで修行?」

性奴隷である俺、エリックに、主人であるミノーが唐突に訳が分からないことを言い出した。

説明を求める俺にミノーが答えた。

どうやら俺は100年後に此処から出られるらしい。
年を取らないとか知らなかった。

「言えよ!そういう大切なことは、もっと早く」

一生ここで生きていくんだと思って、ダラダラ過ごしちまったじゃねーか。

出られるなら修業するのは良いと思うし、出てからもミノーが同行するのは別にかまわない。
でも、他の奴隷は修業始めてるってなんだよ。

「まあ大丈夫だよ。100年のうちの数ヶ月なんて誤差だろ」
「そうかもしんねえけどよ」

俺が一番最初の奴隷なのに、出遅れているとか。
それに、

「なんで弓?」
「パーティバランス。今のところ俺以外は前衛と非戦闘員(補助要員予定)しかいないからな。後衛火力が欲しい」
「パーティって誰だよ。それになんで俺?」
「パーティは同行予定の奴隷たちのことだ。前衛の中でリックが一番経験浅いから。剣やめてもパーティの戦力低下に繋がりにくい」

俺が一番弱いからと言われて悔しいものの、冒険者としては駆け出しだったのは事実だ。

「弓なら一応使えるけど」
「そうなのか?ちょうどよかった。けど、なんで使ってなかったんだ?」
「金銭的に割に合わないから。矢を潰したり、失くしたりしたら下手すりゃ赤字だからな」
「そういうもんか」

俺の弓の修業が始まった。


▽▽


今は四方が岩に囲まれた巨大な洞窟のような部屋にいる。
いつもいる居室にいつの間にか扉が出来ていて、ここにつながっていた。
修業のための空間として、わざわざ作ったらしい。

「まずはこんな感じか」

ミノーが円が何重にも重なった的をつくりだして、弓でこれを射ろと言ってきた。

「まあ、これくらいなら」

キリキリと音を出しながら、矢をつがえた弓が撓る。
よく狙いをつけて矢を放てば、風を切る音を残して的に吸い込まれていった。

「お〜!ど真ん中」
「止まった的程度なら、ずっと練習してきたからな」

冒険者業をするまで、弓を使って鳥を狩るくらいの事はして来た。
あんなに大きな的なら殆ど外さない。

そのまま用意されていた矢を全て射れば、その後には全弾が命中し、ハリネズミのようになった的が残されていた。

「皆中って言うんだったかな」
「なんだそれ?」
「なんでもない」

動かない的が相手では、訓練の意味があまりないということが分かり、別の修業を行うことになった。

「俺が的になる!」
「何言ってんだ」

自分が的になるとか本当に何考えているんだ。
危ないだろう。

「大丈夫だ矢はこれを使う」

渡された矢は先端が潰されて、平らになっていた。
まあこれなら当たっても痣くらいで済むかもしれないが、顔に当たったらどっちにしろ大怪我だぞ。

「まあ、ここでならどんな怪我も治るし、最悪死んでも生き返るし」
「それ本当なのか」
「ああ」
「それでもダンジョンの魔物を連れてくるとかいろいろあるだろ」
「その方法もあるが、一応俺にも考えはある」

ミノーの説明を聞くと、どうやら俺の弓の訓練と同時に自分の回避の訓練をしたいようだ。
射程限界まで離れたミノーが俺に近づいて触れるのが先か、俺がミノーに1発あてるのが先か勝負形式にして修業する、という風にするつもりらしい。

「まあ、それならしょうがないか」

俺は動く的を射る練習ができるし、ミノーは遠距離攻撃を避ける練習ができる。
合理的と言えば合理的だろう。

「よしやるか」



巨大な部屋の中心にいる俺。
手元にはミノーが出した大量の矢。
もちろん先端は潰してある。

目の前には弓が届く限界まで離れたミノー。
上半身には革鎧。
この矢を防ぐには十分だろう。
頭には見たことのない変な防具。
ミノーは”へるめっと”と呼んでいた。革鎧との統一感はない。

俺は合図として、銅貨を上に向かって放り投げた。
銅貨が床に落ちた金属音と同時に訓練が開始された。

俺は手元の弓に矢をつがえ、ミノーは俺に向かって全力で走り出す。

「甘い!」
「痛って!」

俺が射た矢が真っ直ぐミノーに向かった。
ミノーはそれを避ける間もなく左肩に当たった。

「直線でまっすぐ向かってくる人間なんて、俺から見たら動かない的と同じだ。」
「あの距離なら、見てから避けられるかなと思ったんだけどな。矢は見えたけど避けられなかった」
「体がついて行っていないな。全力で走っているときに、いきなり横方向に動くのは難しい。それに遠くなら避けられるというなら、近づいてから射たら当たるだろ」
「まあ、そうだな。次はもう少し近づき方を考えるよ」

ミノーはまた俺から離れていく。

2回目の開始直後。

ミノーは俺に対しジグザグで走って近づいてきた。
方向転換の幅も、やや不規則にして狙い難くしているようだ。

俺はミノーの足を見て方向転換のタイミングを計る。
ジグザグに動くためにブレーキを踏む一瞬、その瞬間に届くように矢を放った。

「うわっ」

放った矢は僅かに山なりに飛んでいき、方向転換の為に勢いを殺した瞬間のミノーにぶち当たった。
今度は鎧部分にあたったため、痛みはなかったようだ。
しかし、矢が当たった衝撃でひっくり返り尻もちをついた。

「また1発かよ」
「今のは上手くいったが、少し危なかった。2、3回に一回は外しそうだった。」
「もう少し、工夫がいるな、次だ」

またミノーが開始位置に戻っていく。

硬貨が地面につき、3回目が開始された。

ミノーは俺が居る方向から見て横方向に走り出した。
そのまま俺との距離を一定に保ちながら円を描くように走る。
そして少しづつ俺との距離を詰めてきた。

これは狙い難い。
先ほどまでとは違い、俺から見て止まることなく的が動いている。
ミノーまでの距離から、着弾までの移動距離を予測して射ることは出来る。
しかし、ミノーもそれを分かっているのか、時々速度を変えながら走っている。

俺は現在の移動速度から計り、当たるであろう位置に矢を放った。
直前でミノーが走る速度を上げたため、矢はミノーの背後を通過した。

難しいな。
今は数を打つしかないだろう。

割り切った俺は、じっくり狙うのをやめて、次々に射ることにした。
その分精度は落ちているが、ミノーも反応しきれないのか何発か当たりそうな矢があった。

これは、的に当てるだけでなく、素早く連続で射る訓練にもなるかもしれない。
矢だってタダじゃない。
普通なら、こんなに外れるのを気にせず撃つことなんてできない。
弓を練習する環境としてはかなり良いのかもしれないな。

走り続けたミノーが近づいてきた。
俺をミノーの距離は最初の3割ほどまでになっている。

走り続けてミノーの体力も減ってきているし、距離が近い程俺も当てやすい。
ここからが勝負だ。
俺は可能な限り短い間隔で射ていく。

「うわっ」

矢がついにミノーに当たりそうになった。
ミノーは速度を変える対応が出来なかったのであろう、走る勢いのままに前に向かって飛び込んだ。

矢はミノーの僅かに上を通り過ぎる。
ミノーは転んで地面と擦れる音を立てながら床を滑る。

まだ終わっていない、転んでもすぐに起き上って走り出されれば挽回される。
俺は油断せずにミノーが起き上がる先に矢を放った。

「あいてっ」

矢はミノーの腰に当たった。

「当たった」

俺は達成感にため息をつく。
いつの間にか、この勝負に随分と熱中していたらしい。

「今のは、結構いい勝負だったかもな」
「そうだな、転んだときにあてられなかったら危なかった」

最初に比べてかなり距離を詰められていた。
距離があるうちは矢を見てから反応されたし、危なかったかもしれない。

「今後は近づいてから、どれだけ避けられるかが課題かな」
「俺は遠くにいるうちに如何に当てるかかな」

走る速度を変えるのだって、常に変え続けられるわけじゃない。
連射の間隔をもっと早められれば、チャンスは作れるかもしれない。

これはお互いを高め合う良い修業になりそうだ。

その後も修業は夕食の時間になるまで続けられた。



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