35.三人目の犠牲者2-3

ミノーから説明を受けた。

ずっと疑っていたこと、ティアの死を否定されて心が晴れた。
2度と会えないが、生きているとわかっただけでも十分だ。

約100年後にここから出られるといわれた。
その時までにティアのことは忘れ、新しい人生を生きていこうと決めた。

牢屋のような部屋から随分と豪華な部屋に連れて行かれた後。

「何かしたいことはあるか?」
「何かって、何故だ?」
「100年の過ごし方。ある程度希望を聞いてあげようと思って。」

100年と言えばかなり長い時間だ。
普通の人間はその時間を感じることもできずに生涯を終える。
その時間を無為に過ごすのも、もったいない話だ。

「修業がしたい」

特に何を考えるでもなく、自然と口から言葉が出た。
改めて考えてみても、これしかないと言える。

力をつけたい。
次に大切なものが出来たときに、自分の身とともに最後まで守り切れるように。

ミノーは少し考える仕草を見せた。

「じゃあ、ちょうどいいかもな」
「ちょうどいい、とは?」
「俺も魔術の練習したかったからさ」
「魔術?」
「俺が後衛でおまえと組んで魔物相手に戦えばちょうどいいだろ。実践に即した訓練になってさ」

意図が分からずオウム返しをする俺にミノーが説明した。
確かに、魔物と戦う時はふつうパーティで戦う。
後衛がいる方が実態に即していると言えるだろう。
ここから出るときもミノーは俺に同行すると言っていたしな。

「それでいい」
「ありがと。あとさ、名前。教えてくれない?」

そういえば俺からは名乗ってすらいなかったのか。

「アドルバートだ」
「アドルバート・・・じゃあアディだな」

いきなり愛称をつけられた。

こうして俺とミノーの修業の日々が始まった。


▽▽


岩に囲まれた広い空間の中、俺とミノーは1体のオーガと相対している。
右手に大剣を持つ巨体。
その膂力を俺は身をもって知っている。

「じゃあ俺から」

後ろでミノーが魔術を行使する気配がした。

「風の弾丸よ敵を打て、エアショット」

抑揚のない詠唱で風の魔術を放った。
それはオーガの胸に当たるが、オーガの堅い皮膚には傷一つつかなかった。

「かったいなぁ」

魔術に挑発されたオーガが、ミノーに向かって歩き出したため、俺はミノーとオーガの間に位置取った。
オーガは俺を邪魔者を認識し、目標を変更して攻撃してきた。

長身からの振りおろし、直撃すれば即死だ。
俺は冷静にその軌道を見極め左手に持っている盾で右側に受け流す。
右手の攻撃は左によければ、左手や足による追撃が出来ないからだ。
俺は右手の片手剣を握りしめ、そのままオーガに攻撃を加える。

オーガの背は高い。
そのままでは急所である心臓や頭に攻撃を当てることは出来ない。
まずは脚を崩すのが定石だ。

俺はオーガの膝を砕こうと切りつけた。

「ちっ、浅いか」

筋肉の薄い関節部を狙ったが、オーガの硬い皮膚に阻まれた。
僅かな出血が見られるが、関節を砕くには足りなかったようだ。

「攻撃来るぞ」

ミノーの注意によりオーガを見ると、体勢を立て直したオーガが大剣を薙ぎ払おうとしていた。
振りおろしでは当たりにくいとみて、面での攻撃に切り替えてきたようだ。
このままでは避けられない。

「水の弾丸よ敵を打て。ウォーターショット」

ミノーの魔術がオーガの顔に直撃した。
怯んだオーガはバランスを崩し、薙ぎ払った大剣が空を切る。

「助かった」

俺は礼を言うと、バランスを崩したオーガの足をまた切りつける。
剣ならあと数度も攻撃すれば足を奪うことが出来るだろう。

今度はオーガが立て直す前に距離をとっておく。

オーガがまた先ほどと同じように薙ぎ払いをしてくるが、俺はそれを後ろに下がることで躱す。

「風の刃よ敵を切り裂け、エアスラッシュ」

いつの間にか移動していたミノーが射線を確保し、オーガの足を魔術で攻撃する。
その攻撃は俺が先ほどまで攻撃していた膝に命中した。

膝が砕かれオーガが悲鳴を上げる。
右膝をつき、頭の位置が下がった

「いまだ!」

俺はオーガの元に飛び込み剣をふるった。
その剣は飛び込みの勢いと合わせて、オーガの首を切り裂くことに成功した。

オーガがまた悲鳴を上げる。
血が噴き出す首を抑えるが、その出血を止めることはかなわず、数秒後に絶命した。

「いや〜、強いねアディ」

ミノーが俺の戦いを見て賞賛の言葉を送ってきた。
様子を見る限り本心なのだろう、少し気恥ずかしい思いが芽生えた。

しかし、ミノーの働きも十分なものだった。
未だ俺の元パーティメンバー程の実力はない。
ただ、後ろを任せられる存在がいるというのは随分と心強いものなのだと感じた。


▽▽


ミノーとともに修業を始めてから数年が経った。
俺たちの前には4体のオーガが並んでいる。
修業の成果として、あのことは1体のみだったオーガだが、今は同時に4体もの相手をできるようになっていた。

「行くぞ、風の刃よ敵を切り裂け、エアスラッシュ」

ミノーが魔術による風の刃で先制攻撃を行う。
数年前は単発で打つのがやっとだった魔術を、今は4体すべてのオーガに弾幕を張れるほどの数を乱射している。
その一発一発の威力も、数年前とは比べ物にならないほど上昇している。

オーガに致命傷を与えるには至らないが、僅かずつながらダメージを与えていく風の刃。
顔に当たってはたまらないと、オーガたちは腕を顔にかざし刃の直撃を防ぐ。

「そこだ!」

他とやや離れている1体のオーガに近づき、その足の腱を一刀のもとに切断する。
オーガが悲鳴を上げて転倒し、悲鳴を聞きつけた他のオーガは助けに入ろうと迫ってきた。

「近づかせないよ、ウォーターショット」

放たれた無数の水弾が、他3体のオーガをその場に押しとどめる。
ミノーはこの数年で、速度に秀でた詠唱省略による魔術行使も会得していた。

ミノーが稼いでくれた時間で、1体目のオーガの首を切断して止めを刺す。

残ったオーガたちは怒りの声を上げ俺に迫ってくる。
俺はそのうち1体の射程範囲のギリギリ内側に入り、攻撃を誘発する。

俺を攻撃しようと振り回してきた大剣を俺が避けると、そのオーガは空振りにより僅かにバランスを崩した。

「荒れ狂う水流よ、敵を切り裂け、ウォーターカッター」

バランスを崩し隙を見せた1体は、ミノーの魔術により首を切り裂かれた。
あと数秒もしないうちに絶命するだろう。

あと2対。

バラバラになっていてはやられるとわかったのだろう、残り2対のオーガは連携して俺に攻撃してきた。
1体が攻撃する間に、もう1体が俺とミノーに対して牽制をしてくる。

そんなやり取りが数合い続くも、決定的な隙がなく俺たちは攻めあぐねていた。

「仕方ない、力押しで行くぞ。ミノー!」
「りょうかい」

攻撃を担当している1体が俺に対し大剣を振り下ろしてきた。

「水の奔流よ、その力にて敵を押し流せ、ウォータキャノン」

大砲と見紛うばかりの水の魔術が、牽制を担当していた1体に炸裂した。
そのオーガは、たまらず後方に吹き飛ばされる。

俺は攻撃直後で隙だらけの1体に駆け寄った。
地面に振り下ろされた大剣を足場に跳び上がり、オーガの首を切り落とした。

着地し、最後の1体を確認すると、ミノーの風の魔術で首を切り裂かれた後だった。

「お疲れ様」
「いや〜つかれたねぇ」

疲労で一杯という顔をしているが、どうせ今夜も無限と思えるような体力で俺を抱くのだろう。

修業を始めてから毎日、日中は魔物相手に修行、夜は優しく抱かれている。
そんな生活を数年続けてきた。
それは情が移るには十分な長さだった。


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