12.三人目の犠牲者1 (彼女持ち冒険者編ー羞恥)


このダンジョンは俺達のパーティが拠点としている町の近くに突然出現した。
試しに探索してみると大層優良なダンジョンだった。

稀に出る金などのレアドロップや宝箱は旨味がある。
ダンジョンの構造からしても、通路が広くパーティで戦いやすい。
魔物に襲われないセーフエリアもあり、安定的に食料がドロップするため、
長期間の探索がしやすい。
パーティはこのダンジョンの探索がメインの活動になった。
そのおかげで、俺達にような中級の冒険者でも、
無理せず安定して稼ぐことが出来ていた。

そう、無理はしていなかった。
自分たちの実力に合った階層で魔物を討伐し、
安全マージンも取っていた。
しかし、俺は今窮地に立たされている。

このダンジョンにも罠はあるが、
即死するような罠は少ない。
それもこのダンジョンの好まれる理由の一つだ。
ただし、一部厄介な罠が設置されていることがある。
発動するまで探知出来ない罠だ。
それらの罠はどんなに探知に長けた者でも見つけることが出来ないのだ。
毒霧や矢などの殺傷力の高い場合もある。
もし出会ってしまったら上級冒険者でも死ぬことがあるだろう。
そんな凶悪な罠でも、
出現頻度の低さから冒険者たちはそれほど問題視していない。
出会ってしまったら「運が悪かったんだな」で片付けられる。

俺達は出会ってしまった。
その凶悪な罠に。
罠は「転移罠」だった。
誰も感知できなかった罠が発動したとき、
罠の魔法陣の上に立っていた俺と仲間のティアだけが
ダンジョン内の別の場所に飛ばされてしまった。
今は他のパーティメンバーと合流すべく進んでいる。

「絶対に生きて戻るぞ」

「ええ、絶対に」

隣にいるティアと誓いあう。

ティアと俺は恋人同士だ。
パーティで共に行動するうちに、
彼女の大らかで優しい心根に惹かれた。
女性の扱いなどよく分からなかったが、
慣れないなりに熱心に口説いて、とうとう心を通じ合わせることが出来た。
彼女とはいつか結婚したいと思っている。
こんな所で死ぬわけにはいかない。

時折現れる魔物を二人だけでなんとか倒していく。
しかし、今目の前の角から出てきてしまった魔物に焦る。

「まずい、オーガが4匹も出るとは」

パーティがそろっていればともかく二人だけで捌ける数ではない。

「逃げるぞ!、ティア」

振り返り駆けだそうとしたが、彼女の言葉に遮られた。

「後ろからも3匹来ています!」

「なんだと!」

7匹のオーガに挟み撃ちにされた。
この状態で戦うには絶望的な戦力差だ。
何とか隙を作って逃げなくては。

「ティア、後ろのオーガたちに攻撃魔術を打つんだ。その隙に脇を走り抜けるぞ」

魔術師の彼女は俺よりずっと魔力がある。
倒すまではいかなくても、隙を作るくらいはできるだろう。

「ファイアーボール!」

三匹のオーガに向かって飛んでいく火球。
それとともに彼女と走り出した。
魔術は防御され大したダメージはないが、
その防御の隙を狙う。

「っく!」

オーガの脇をすり抜けようとしたとき、
横からオーガの攻撃が来ていることに気づき、咄嗟に持っていた盾で防いだ。

「そのまま走り抜けろ!距離を取って援護を頼む!」

「分かりました!」

俺は3匹のオーガ相手に何とか防戦する。

「エアショット」

ティアの魔術による援護が間に合った。
俺に集中していた3匹のオーガが怯む。
離脱しようと彼女の方に走り出す。

「危ない!後ろ!」

「え?」

振り返った俺の目に映ったのは、俺に向かって大剣を振り下ろすオーガだった。
気付かないうちに最初前方にいた4匹が、
すぐ近くに迫っていいたらしい。
オーガの振り下ろし。食らえば致命の一撃となるだろう。
避ける間もなく直撃した。

後ろでティアの悲鳴が聞こえる。

逃げてくれ。
せめて君だけは助かって欲しい。

俺の意識は途切れた。



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