95.王都のギルド


「ミノーさん、皆さんをギルド長がお呼びです。お会いいただけますか?」
「はい、良いですよ」
「ありがとうございます。ご案内いたします。」

2週間ぶりに王都に戻って来たので、ギルドに帰還報告をしたら奥へと呼び出される。
応接室に行って待っていると、後からギルド長がエリンさんを連れて入って来た。
そして、俺達と向かい合うようにソファに座る。

「スタンピードの件は礼を言う。おかげで多くの人が命を救われた」
「俺一人の力ではありませんから」
「謙遜するな。大活躍だったそうじゃないか」
「では、素直に受け取っておきましょう」
「二つ名も新しく着いたようだな。なにやら”氷嵐”とか」
「本当ですか!?」
「おう・・・すごい食いついたな」

遂に俺にも二つ名が着いたのか。
調教師とか言うふざけた二つ名じゃなく、普通に格好良いのが。

「いやぁ、良いことを聞かせてもらいました」
「まあ、ミノーの実力は多くの冒険者にとって未知だったからな。それが広まったら二つ名ができるのも自然なことだ」
「それでもうれしいもので」
「そんなことより、お前さんたちを呼び出したのは報酬を渡すためだ」
「報酬ですか」
「額が額だからな、人の目がない所で渡そうと思ってな」

ギルド長が合図すると、エリンさんが盆に乗って布のかかった塊を俺の前の机に置いた。
布を取り去ると、そこには輝く硬貨が綺麗に積まれていた。

「俺の見間違いですかね、大量の白金貨が見えるんですが」
「そりゃあ、見間違いじゃあねぇな」
「多すぎません?」

現代に例えるなら、アタッシュケースいっぱいの札束を目の前に出されたようなものだ。
1回の依頼で稼ぐような額ではないだろう。

「妥当だ。お前さんたちが倒した魔物が多すぎてな、その魔石の売価を加えるとそうなる。特にワイバーンの魔石は滅多に市場に出回らん分高価でな。ちなみにワイバーンの魔石のは7割がミノー1人に割り当てられている。」
「俺一人が7割もらっていいんですか?」
「そこは騎士団と冒険者を総動員したが、貢献度を勘案した結果そうなった」
「そうですか、じゃあありがたく」

金には困っていなかったんだが、期せずして大金が手に入ってしまった。
まあ、金はある分には困らないし良いか。

「ギルドに預けていくか?」
「そうですね、お願いします」

こんな大金持っててもすぐ使うわけじゃないし、ギルドに預けていた方が安全だろう。

「用件は以上ですか?」
「ああ、時間を取らせたな」
「いえいえ。あ、お見送りは結構です。せっかくだから依頼を受けていこうと思うので」

エリンさんが見送ろうとしているのを断って、ロビーに向かった。


▽▽


ミノーとギルド長の話し合いの後、俺達は依頼が貼りだされている掲示板の前にいた。
皆思い思いの依頼書を持っていく中、気になる依頼を見つけた。

ゴブリンの巣の駆除。

王都から一日ほど離れた小さな村の近くに、ゴブリンが巣を作ったようだ。
俺はその依頼書を掲示板から剥した。

「エリック。この依頼、俺と組まないか」
「グレン?」

掲示板に向き合って依頼を選んでいるエリックに声を掛ける。
振り返る彼に依頼書を見せると、手に持って読み始めた。

「ゴブリンの巣の駆除かこれを受けるのか?」
「ああ、小さな村だ。ゴブリンが増えれば危険だし、困っているだろう」
「なんで俺?」
「ゴブリンを漏らさずに討伐する為に範囲攻撃があった方が良いからな。ミノーも魔術が得意だが討伐依頼は好まないだろう」
「そうだな。良いぜ、一緒に受けようか」
「助かる」

エリックの了承を受けると、ギルドの受付に行き二人で依頼を受注した。


▽▽


目的の村は王都から徒歩で1日程度のところにあった。
森に囲まれ、魔物よけの柵に覆われた小さな村だ。
殆ど自給自足の生活をしており、畑を荒らすゴブリンの数が増えて困っているらしい。
これ以上数が増えると村人の安全も脅かされることになるだろう。
夜に村に着いた俺達は、村長の家に泊めて貰い翌朝にゴブリンの巣の駆除に向かった。

早朝から森に入り、ゴブリンの足跡を探す。
余程数が増えているのだろう、足跡はすぐに見つかった。
森の側へと続くそれを辿っていくと、一つの洞窟に行きつく。

「中に入ろう」
「ああ」

俺達は松明を片手に洞窟の中へと進んでいく。
暗い洞窟の中は意外なことに湿り気もなく、入り口に向けて風が吹いている。
きっと他にも入り口があり、そこから風が流れ込んでいるのであろう。

地面を見ればゴブリンの足跡が無数にあり、それなりの規模の巣であることが分かる。
静まり返った洞窟内をエリックと二人奥へと歩いていく。
10分ほど進んだあたりで俺は足を止めた。

「妙だな」
「なにが?」
「エリックはゴブリンの巣の駆除は初めてか。痕跡があるのに肝心のゴブリンがいまだに出てこない。これだけ進めば既に何体も出てきておかしくない筈だ。」

ゴブリンの巣の駆除程度なら何度も経験したことがある。
しかし、何か想定外の事態が起きている可能性。

「エリック、一度撤退するぞ。もっと入念に調査をする」
「ああ、分かった」

踵を返し洞窟への出口へと向かおうとすると、後ろからドサリと何かが落ちる音が聞こえた。
振り返ると、そこにはエリックが力なく横たわっていた。

「エリック!」
「グ・・・レン・・・・」
「どうした!?」
「体に・・・・力が・・・」

まずい。
何か異常が起きている。
急いで離脱しなくては。

「・・・!?・・・・・ぐ、・・・これ・・は・・・」

エリックを背負い、出口へと向けて歩き出した俺の脚がガクリと折れた。
そのまま前のめりに倒れこむ俺達。
どんなに動こうとしても、俺の体はピクリとも動かない。

「やっと効いて来たか」

俺とエリックが倒れてすぐに、洞窟内に声が響いた。
洞窟の奥から近づいてくる複数人の足音が聞こえる。

「だれ・・・だ・・・」

現れた者たちの脚が視界の端に移るが、その姿は見えない。
俺の問いかけは無視され、肩を掴まれた。
そのまま仰向けにひっくり返される。
エリックも同様にされたようだ。

「報告通り、偉く小綺麗なのが引っ掛かったな」
「・・・盗賊・・か?」
「あたりだ。お前らにとっちゃ不幸なことにな」

仰向けになり開けた視界に移ったのは、5人の男達だった。
全員が剣を腰に差しているのは、戦闘を生業にしているからだろう。
冒険者と違うのは纏う空気が、裏家業の人間のそれであることだろう。

「俺達に、何をした・・・」
「この洞窟、風が入口に向かって流れてるだろ?そこに強力な痺れ薬を散布しておけば、どんな屈強な男でも気付かないうちにバタンよ」

盗賊の中の一人が得意げに答えた。
その言葉に俺は歯噛みする。

目の前の男達は大した実力者には見えない。
俺は長い修行を経てそれなりに強くなった自負があった。
それがどうだ。
絡め手を使われてはこの通りだ。
この程度のやつらに地に伏している自分が悔しくて仕方がない。
折角外に出て、これからだというのにこんなところで俺は死ぬのだろうか。

もしも俺たち二人だけでなく、仲間たちがそろっていたらこんなことにはならなかった筈だ。
レイヴンがいれば薬に倒れる前に気付いただろう。
ダグラスがいれば薬に倒れても麻痺を直すことができただろう。
ミノーがいればどうとでも乗り切っただろう。

運が悪かった。
そんな言葉では片づけられない結果が恐らくこの後待っている。



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