93.帰宅

2週間が経ち、ミノー殿の元から家に帰された私は早朝に家に帰った。
恋しい家族の元へ帰るというのに、私の心は浮き上がらなかった。

街を救って頂いた対価に2週間の奉仕だけで本当に良かったのか。
作り替わった体を持て余すことにならないだろうか。
2週間空けた仕事は問題が起こらなかっただろうか。
妻以外の人に体を開いてしまった。

非日常から現実に引き戻された私は、いろいろな考えが頭の中を錯綜する。
結局家族が起きる前に、準備を済ませ仕事に向かうことにした。

休暇明けの職務は多忙を極めた。
詰所で私を待っていたのは大量の書類で、隊長の私でしか決裁出来ないものが溜まっていた。
副隊長にはミノー殿の元で何をしていたのか聞かれたが、適当にはぐらかした。

溜まった書類は1日で片付く様なものではなく、無理をして夜遅い時間まで続けてしまった。
抱かれ続けた体は男を求めて疼いていたが、仕事に打ち込むことで何とか誤魔化した。


▽▽


「ただいま戻った。遅くなったな」
「あなた、おかえりなさい。遅くまでお仕事お疲れ様」

もう遅い時間だというのに、マリアは起きて待ってくれていた。
テオはとっくに寝ている時間だろう。

「お腹すいたでしょう。ご飯すぐに温めるわね」
「ありがとう、お願いするよ」


2週間ぶりの妻の手料理を食べながら、軽く話をする。
それはテオが私の絵を描いただとか、2週間ぶりの仕事が忙しくて大変だったとか、他愛ない話だ。
マリアは気付いているだろうか、私がこの2週間の話を避けていることに。

「ごちそうさまでした」
「はい、片づけますね」
「すまない、ありがとう」

マリアが食器を片付けて、お茶を入れてくれた。
2人分のお茶をもって、私と向かいのテーブルに着く。

「あなた、話があるの」
「何だ?」

マリアの表情が先程までの柔らかなものから変わった。
何を話そうとしているのか、真剣な表情だ。

「一昨日、ミノーさんが来たの」
「え?」
「それで今回のスタンピードでのことを聞きました。あなたが自分で囮になろうとしたって」
「それは・・・」

私が話さなかったことだ。
あえて心配させる必要もないと思ったから。

「家族もきっとわかってくれるって、言ったそうね」
「ああ・・・」
「分かってくれる・・・ね。そうね、分かってるわ。あなたはいつもまず自分を犠牲にする。そういう優しいあなただから好きになったんだもの。でも・・・」

マリアはお茶を一口飲む。
私は何も言えなかった。

「だからって・・・・。だからって、私たちがそれを許しているだなんて思わないで!」

それは心からの叫びだった。
普段声を荒げることのない妻が必死に訴えかけようとして来る。

「すまない、そうするしかなかったんだ」
「わかってる、分かっているわ!。それが最善だったんだってっ。私達を守るためにそうしてくれたことも!」

マリアの顔を涙が伝う。

「今回のことだけじゃないわ。あなたはいつも自分を後回しにする。それが心配なの。今までも何度怪我をして帰って来たか覚えてる?・・・・お願いだから、二度と帰って来ないかもしれないなんて思わせないで・・・・」
「すまない」
「・・・・あなたが私達に生きてほしいを思うように・・・・私達もあなたに生きていてほしいの。・・・・もっと自分を大切にして。・・・お願いだから・・・生きて帰って来て・・・」
「すまない」

自分を犠牲にしても人を守るのが当然だと思ってきた。
それが仕事だとも。
しかし、それがずっと家族を傷つけて来たのだろう。
泣きながら話す妻に、私は謝ることしかできなかった。

「すまなかった。・・・私は騎士だ。絶対とは言えない・・・でも、これからはもっと自分を大切にすると約束する。・・・自分を犠牲にしなくてもいい方法をまず考える」
「お願い・・・」

私は泣き止むまでマリアの手を握り続けた。


▽▽


「それから・・・」
「何だ?」
「ミノーさんにこの2週間のことを聞いたわ」

何故だか普段とは違う圧力のある笑顔を向けられた。
私が、ミノー殿に抱かれていたことを聞いた?
何故ミノー殿はそんなことを。
いや、何か言い訳をしなくては。
妻以外の人と性交渉をしたなどと。

「いや、それは」
「怒ってはいないわ。嫉妬していないと言えばうそになるけれど。ミノーさんには感謝しているし、あなたが生きていることの対価ですものね」
「しかし」
「それでも、謝られたわ」
「謝られた?」
「少しやりすぎたって。あなたを抱かれないと生きていけない体にしてしまったって」
「なっ」

知られた。
自分から求める程に身体が疼くようになってしまったことを。
自分の妻に。
顔に熱が集まる。

「それで、こんなものをくれたわ」

マリアが見せて来たのは、革で出来た女性下着に張形がくっついたようなものだった。
何の説明もされなくても、それが何に使う物なのか想像がついてしまった。

「いや、君にそんなことをさせるわけには」
「じゃあ、あなたは我慢できるの?」
「・・・・・」

出来るだろうか。
これから先、誰にも抱かれないで我慢することが。
いや、きっとできないだろう。
一度知ってしまった快楽は、もう知らなかった頃には戻れない。
私は誰かに抱かれるしかないのだ。

「それとも、ミノーさんは良くて私は駄目なのかしら」
「そんなことはないっ」
「じゃあいいのね」
「しかし、きっと酷い姿を見せる。君に嫌われたくはないんだ」
「そんな心配は必要ないわ。それがあなたなら、どんな姿でも受け入れる自信があるもの」

マリアに押し通され、私が抱かれることになってしまった。
私は風呂で準備をすると、今のソファに移動する。
寝室にはテオが寝ているからだ。


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