「ケイカ中尉、俺と付き合って下さい」
セリエルの告白に、シャルティエ以外の兵士はピタリと止まった。セリエル、何を抜け駆けしているんだ、と。ケイカ中尉とシャルティエ隊長は恋人じゃないのか等、兵士は様々な感情が巡る。俺だって、中尉と、中尉に、触れたい。こんなときに不謹慎きわまりないが、仕方なかった。
そして、ケイカの返答に、耳をそばたてた。シャルティエは、心配そうにチラチラと二人を見ている。
「返事、ください」
「…ぁ、あの」
「シャルティエ隊長の前では、言えませんか?」
「…大丈夫よ。
有り難う、セリエルすごく嬉しい」
「、じゃあ」
「けど、貴方の恋人として隣にいることはできない
…友達なら、いいよ」
とても酷いことを言っていると自覚している。けれど、彼女は、ケイカは気付いたのだ。己が誰を思っているか。
セリエルの告白にどきりとしたが、それ以上に、ケイカが胸を高鳴らせるのは誰か。そう、それは
「じゃあ、出発ね」
「…はい」
なんだかスッキリしたような顔のセリエルはわかっていた。まだケイカが自覚していないこと、けれど彼女が誰を想っているか。
ケイカが小走りで向かった先には、自分では到底敵いっこない、自隊長。部下から友達にステップアップしただけでも、良いと思おう。友人として、ケイカを守ろう。セリエルもまた、シャルティエのように自身で誓った。
「シャルティエ」
「ケイカ…いいんですか?」
「なにが?」
「その、セリエルを断って」
目を合わせないシャルティエに、む、と口を尖らせる。
「シャルティエは、告白を受けてほしかったの?」
「っ、違います!」
「…じゃ、いいじゃない」
にっこり、ケイカの笑顔にシャルティエは顔を真っ赤に染め、その顔を見られまいとケイカの腕を引き抱きしめた。
「シャル?」
「顔、見ないでください」
「え?」
「…絶対、いま、赤いから」
ケイカは、さ迷わせていた手をシャルティエの背に回す。するとピク、とシャルティエは肩を揺らした。ケイカ?と呼ぶと、顔を真っ赤にしているケイカ。どくん、となる心臓。恥ずかしそうに、けれどどこか嬉しそうに笑うケイカに、抑えていた何かがプツリ、切れた。
「ケイカ」
「ん?」
「好きです」
「え?…んっ」
おぉ、と兵士達の声。
ケイカは思考が停止していた。
ゆっくりと離れた唇。離れた身体。
ケイカは口元を手で覆いぱちり、ぱちりと瞬きをした。いま、いま、私は…シャルティエと、
「…あ、」
「す、すみません!」
兵士を連れて慌てて歩いていくシャルティエの背中を、見つめるしかなかった。
突然の、キス
20121029
15/18