目的の場所に着くと、討伐予定の魔物が群れを成していた。精鋭小隊といえど、50を超える凶暴な魔物を討伐するとなると腰の引ける者もいた。
魔物の明らかなる殺気に、兵士達も武器を構える。張り詰めた空気。ぴりぴりとした、その空気にケイカも剣を構え、魔物を見据えた。
…―その時、
「っ、きます!」
一体の魔物が、鋭い爪を振りかざしながら兵士に向かってきた。これを合図に、兵士達も魔物に向かい走り出す。一人で何体も相手にしなければならない状況で、皆、果敢に切り付けていく。
「リザレクション」
ふわりと、風。きらきらと光る粒子が兵士に降りかかる。術者であるケイカの足元には、青色に光る譜陣が描かれ、広範囲に広がった。
「ケイカ中尉、有り難うございます!」
「お礼はいいから、戦闘に集中!
…ネガティブゲイト!」
ケイカの晶術で一帯の魔物を倒すと、魔物だった其れはレンズに変わる。見回すと、粗方片付いた魔物の血が、雪を赤黒く汚していた。
「よし、あと一踏ん張りね」
「ケイカ、危ない!」
「…え?」
声のした方を向けば、倒し損ねた魔物が鋭い爪を振り下ろしていた。咄嗟に避けたものの、完璧に避けきることはできず剣を持っているほうの肩を深く切り裂かれた。
「、くぅっ」
「ケイカ、ケイカ!」
静かな、夜の平野に響くザシュ、と切り刻む音。今度こそ絶命させた魔物の血をはらい、シャルティエはケイカに駆け寄った。
最後の一体だったらしいその魔物のレンズを、セリエルが拾い、兵士達は少し遠巻きに二人を見つめる。
「ケイカ!」
「、大丈夫…少し掠っただけよ」
「動かないでください、かなり深く切れてる。もしかしたら、神経も」
「大丈夫よ、いま、治癒を…っ、」
瞼が、落ちる。けれどもし寝てしまえば、ケイカは命を落とすだろう。夜でもはっきりとわかるほどの出血。流しすぎた血は、戻らない。出血多量で、ケイカは、もしかしたら。
「ケイカ、目を開けて。意識を保ってください!」
「…だい、じょぶ」
「治癒、かけれますか?」
「へいき、……あれ、ど…しよ、なんで」
力、入らないや。
あはは、と力無く笑うケイカにシャルティエは苛立ちを隠せなかった。それは自分に。彼女を守ると誓った、自分自身に、だ。
守ると言ったのに。怪我をさせないと誓ったのに。僕は、無力だ。好きな人を守れないなんて、僕は。
「…ケイカ、後で怒ってもかまいませんから」
「え………っ、んん」
シャルティエは、持っていたライフボトルを口移しでケイカに飲ませていく。
ざわり、兵士が驚愕の声をあげながらも二人を見守っていた。ケイカが、シャルティエが、二人の傷が、これ以上大きくならないように。笑っていられるように。兵士達は願わずにはいられなかった。
「シャ、ル」
「…すみません、今はこうするしか」
「うぅん、ありがと
…キュア」
幾分か楽になったケイカは、己の肩に手を翳して治癒術を唱えた。すっかり止まった血に安堵の息を漏らし、よかった、よかった!と喜んだ。
(シャルと、きす、しちゃった)
とくん、とくん。
「ケイカ」
「なぁに?」
「すみません、僕が守るって言ったのに」
「い、いいの!私の不注意なんだから、シャルは気にしないで?」
「でも、」
「いいの、…ね?」
「ケイカ…」
眉を寄せて悲しそうな目をするシャルティエに、そんな顔をさせてしまったケイカは胸が苦しくなる。きゅ、とシャルティエの服の裾を掴むと、シャルティエはケイカを見る。
「…目的は果たしたよね、帰ろ?」
「そう、ですね」
始終見ていた兵士達もはっとして、帰隊準備を始める。セリエルは、ケイカに近付き、彼女の身体を心配する。大丈夫ですか?と声をかけると、ビク、と肩を揺らしてセリエルを見上げた。
「セリエル」
「肩、もう平気ですか?」
「えぇ、もう平気」
「…今、聞くのは、卑怯というか、アレなんですけど」
「え、なぁに?」
「ケイカ中尉、俺と付き合って下さい」
一難去って、また
20121029
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