男は自覚する


ケイカがこの世界にきて4ヶ月程経った頃のこと。



「シャルっ!」
「ケイカ、どうしました?」
「今日の任務、魔物討伐でしょう?」
「そうですよ」
「それ、私も行く」


今朝、ハロルドから聞いた話で2師団は少し遠出して魔物討伐に行くらしい。それには隊長であるシャルも同行。だから戦力は申し分ないらしいけれど、治癒術者がいない。…というかね、治癒術使えるのってハロルドくらいだったらしい。アトワイトはソーディアン?より機能は落ちるけど強力なレンズ?を使って治癒術を使える、と聞いたけど…ハロルドはソーディアンの作成、アトワイトは今重傷の兵士がいるから同行は不可で、治癒が出来ないと危ない。

そこで、だ。
レンズを使わなくても術を使える私が行けばいいのでは?とハロルドに提案されて、こうしてシャルのところまで来てみた。


「…ケイカが、同行?」
「うん、私なら治癒術使えるし他の術も可能でしょ?それに」
「駄目です」


「、なんでよ!」
「…まだ実戦経験がないでしょう。それなのにいきなり遠出の討伐任務は無理だよ」
「やってみなきゃわからないわ!」
「…隊長として、許可できない」


眉を寄せて、シャルティエを睨みつける。だって、治癒術がいないのに。なのに、


「行く、絶対に行く!」
「我儘言わないでください、遊びに行くわけじゃないんだ」
「わかってるわよ、それくらい!」
「わかっているなら言わないはずだ!」


ああいえばこういう。
一向に話は纏まらない。断固として許可しないシャルティエの言っていることは、ケイカはよくわかっている。けれど、治癒術がいないということは、もし怪我をした際、そのままなのだ。グミを使ったとしても、疲れはとれるが血が止まるわけではない。解毒等はできる、けれど怪我は治せない。

もし、もしも隊の人が怪我をして、もしそのまま死んでしまったら。ケイカの頭の中はそのことでいっぱいだった。それに、シャルティエが、心配だったのだ。シャルティエは強い、魔物相手だと普段見せる強さよりもさらに強いと聞いていた。

かといって、100%大丈夫とは言い切れないのだ。


「なんでわかってくれないのよ!」
「ケイカこそ、なぜわかってくれないんだ!
…ケイカ、何故そんなに行きたいんですか、一応、聞きます」


行かせることはないですけど、と小さな声で言ったシャルティエ。けれどケイカは気にしない。自分は隊の人達が、シャルティエが心配なのだ。


「っ、シャルが怪我したら嫌だからに決まってるじゃない、馬鹿!」





「…え、?」
「治癒術がいないのに、もし大きな怪我したら?そのまま感染症とか、大変なことになったら嫌なの!なんで、なんでわかってくれないのよ!」


叫んでいると、頭に血が上ってなのかそれとも悲しいからなのかわからなくて目頭が熱くなる。目の奥が痛くなって、視界が歪む。

ばか、馬鹿。なんで私の気持ちをわかってくれないの、なんで、なんで!



ケイカの叫んだ言葉に、きょとんとした後、シャルティエは顔を真っ赤に染めた。そして今にも泣き出しそうなケイカに慌てる。彼女は、自分を心配してこんなにも譲らなかった。

心臓は、これまでにないくらいドクドクと五月蝿く鳴り、ケイカを抱きしめたい衝動にかられる。


"愛おしい"
自分のためにこんなに必死に、そして泣きそうになる彼女を、シャルティエは。



男は自覚する



(彼女に恋をしていた)



20120222

そんなそぶりとか見せてないのに自覚した男、シャルティエ←

指が勝手に動いてました(笑)



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