危機感は皆無


「ケイカさん、次はこれお願いします」


ことんと湯気のたつカップを執務机に置いて、渡された書類の束を受け取る。ハロルドとアトワイトのスパルタで覚えさせられた文字は、最近にやっと完璧に覚えることができた。
ハロルドに連れてこられて、入隊してから、今日で1ヶ月。仕事にも慣れたし、魔物の討伐にも少しだけ慣れた。

上官であるシャルティエ少佐とも、普通に話せるようになったし、彼のネガティブ発言も少しだけ減った。(データ採取が本当に嫌らしい)


「わかりました、終わったらまた持って来ますね」
「はい、お願いします」


にっこりと笑えば、にっこりと笑い返してくれる。シャルティエ少佐は、すごく格好いい人で女性隊員からの人気は高い。
というか、ディムロスやカーレル、イクティノスに司令もすごい人気だ。まぁ、あれだけ格好よければ当たり前のような気もするけれど。


「ケイカ中尉」
「え?あ、はいどうしました?」
「今日、飲み会するんですけど中尉も来ませんか?」
「飲み会、ですか」


書類が終わり、シャルティエ少佐の元に持っていこうと歩いていると、同じ隊の男性隊員に話し掛けられて言われた。お酒を飲むのは好きだし、お誘いは有り難い。もっと隊で連携をとれるようにしたいし、これは参加するべき、だろうか?


「悪いが、中尉には先約がある」


聞こえた声の方を向くと、青く長い髪、きりりとした眉に切れ長の瞳。


「ディムロス中将!
こ、今度、さ、誘わせてください」
「え、あ…いっちゃった」


ディムロスの声に肩を揺らし、がちがちになった男性隊員は、すぐに走り去っていた。


「どうしたの、ディムロス」
「お前は少し警戒心を持て」
「なんで?」


ディムロスは思った。
この首を傾けて問うケイカは、危機感がない、警戒心もない、男というものを知らないと。
一般兵よりも剣術は達者ではあるが力はまるでない。一般兵にすら勝つことはできないだろう。
それをもし腕を押さえこまれて動けなくなれば?一人ではなく数人でされたら?
そう考えると、ディムロスは手を堅く握りしめ拳をつくる。


「最近、お前に良からぬ事を考えている輩が多いと聞いた。
シャルティエからあまり離れるな」

「そんな、大丈夫よ
私なんか襲ってくる人いないから!」


くすくすと口元を押さえて、ケイカは花のような笑みを浮かべた。この笑顔に骨抜きにされる男は少なくないのだ。


「私は警告したぞ」
「ん、一応覚えておくわ」


この一ヶ月でシャルティエ少佐以外のソーディアン?メンバーとは仲良くなれた。だから中尉である私が中将である彼を呼び捨てにできるようになったほどだ。

アトワイトとハロルドも私より年上だけど、話しやすいし話も合う。愚痴やご飯の話や、服の話、趣味もだいたいは一緒でお酒好きときた。最近はしょっちゅう3人でお酒を飲むほどだった。

あ、そういえばシャルティエ少佐に書類届けなきゃ。

少佐の執務室に向かうと、またディムロスと遭遇した。ぽん、と頭に手を置かれてぽんぽんと数回優しく叩かれる。


「ディムロス?」
「先程のこと、覚えておくのだな」


ディムロスは言ってすぐに去っていった。首を傾け疑問符を浮かべながら、シャルティエ少佐の執務室の扉をこんこんとノックし、扉を開けた。


「シャルティエ少佐、書類できました」
「あぁ、有難うございます

…あの、ケイカ中尉」
「はい?」

「ディムロス中将から聞きました。
あまり、兵士からの誘いには乗らないでくださいね」
「え、と…それは命令ですか?」

「そうですね、はい、命令ということで」
「わかりました、じゃあシャルティエ少佐が私を呼び捨てにしてくださるなら考えますね」


にっこりと笑っていえば、"え、えええ、いや、あのでも"とごにょごにょと言っていたから、さらに笑みを深くしてポケットからある物を取り出す。


「シャルティエ少佐、」
「はい?」
データ採取ー!
「うわ、や、ぎぃやああぁああ!



危機感は皆無



(わかりました、呼び、ます)
(はいっ)

(ケイカ、…ああぁ!恥ずかしい!)



20111224

数日前から制作してたものをやっとこさ。




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