歪みワールド



「よーし、出発しんこーう!」
「ちょ、エル、走らないの!」

「危ないから、僕たちの後ろをついてきてね」
「はーいっ」


ルルと並んで手を挙げたエル。妹がいたら、こんな感じなのかもしれない、となんだか笑えた。



ジョルジュ
(歪みワールド)




「列車が揺れてる…?
やっぱり何か変だ。ルリ、大丈夫?」
「、大丈夫、ありがとう
ルドガー、平気?」

「あ、あぁ…」


気になるのは、兄さんだろう。私も気になっているのだから。なぜ、クランスピア社で仕事をしているはずの兄さんが、この列車に乗ってアルクノア兵を殺していたの?
なぜ、無差別に人を…?

今朝、兄さんが驚いた理由、なんとなくわかった。私が、この列車に乗ると知って、少し態度が違ったのもこれが理由なのかもしれない。妹に、弟に、人を殺しているところを見られるのが嫌だった。きっと、そう。


「…あの人は?」


上を見上げたジュードに釣られてルドガーと見上げる。あれは、あのコートは、髪は…!


「「っ!」」


ぎゅ、とルドガーの手を掴む。気付いたルドガーはその手を握り返して、小さな声で「大丈夫だ」と笑う。
階段を上がると先程同様、白いコートを来た男…「兄」ユリウスがいた。なんだろう、直感で「違う」と思う自分がいた。


「ナ゛ァ゛―…!」


ユリウスに懐いているルルが、ユリウスに毛を逆立てて鳴いた。威嚇した其れに振り向いたユリウス。


「…ぁ…っ!」


違う、違う。

頭の中で警鐘が鳴る。近付くなと、関わるなと、逃げろ、違う、違う…!
ガタガタと震え出したルリに気付いたジュードは、ルリの肩を叩き、泣きそうな顔をしているルリの頭を撫でた。大丈夫だよ、大丈夫。と優しげに笑うジュードに、安堵したルリは、深呼吸して「ユリウス」を見た。


「来るな!

…全部俺に任せろ」

「何が起こってるのか教えてくれ!」


ユリウスの言葉に、足を止めたルドガーは問う。しかし、ユリウスは「知る必要はない」と突き放す。なんで…!と言いたげなルドガーは一歩、前に出た。



「っ、―…ルド、」


人が変わるとき、何かが変わる。
雰囲気が、目が、口元が、顔が、周りの空気が、変わるのだ。

いつもは優しい、けれど厳しい兄が、違うのだ。兄なのに、違う。

身体は黒く顔には何かの紋様、目は紫色で生気なんてない。纏う気は黒くて、また、身体が震え出す。


「必要ないと…言ってるだろう!」


「ルドガー!」


ルドガーに向かって攻撃をしかけてきたユリウスを、ジュードがナックルで防ぐ。が、ユリウスはルドガーを掴み2階から飛び降り、その間にルドガーの腹部を何度も蹴りつける。


「ぐぅっ…!」

「ルドガー!」
「っ、ルドガー!!」


苦しげに咳込むと、苦痛に顔を歪めながらユリウスを見る。階段から走り降りたジュードがルドガーと目を合わせ頷くと、ルドガーは身体を起こして双剣を構え、ジュードは拳を作ってユリウスを見据えた。


ぺたり、床に座り込んだルリは、ぼぅっとしながらただ剣が弾かれる音、苦痛な声を聴いていた。


なに、これ…?
こんな、こんなことが始まったの?こんな…ひどいこと


「できるの?私に、」


我慢が、覚悟が、前に進むことが。
例え決心しても、兄…自分を大事にしてくれているとわかっている人と、双子の弟が戦うところを、見なきゃならないの?

それを「選択」したから?

ルドガーが…少女、エルのために、覚悟するから?

わからない、わからない。

兄さんの姿をした、兄さんじゃない「何か」。これを知るために、きっとルドガーは進むんだろう。

私も、一緒に行っていいの?
罪のない人を、殺せるの?

色々なことを知る勇気があるの?

背負う覚悟があるの?


「ルドガー…」


ルドガーは、迷わず進むんだろう。一人で抱え込んで。
20年ずっと一緒にいたんだ、彼のことはわかる。彼は優しい人だから、誰も巻き込もうとせずに、一人ででも進むんだ。


「…放っておけるはず、ない」


だって、私の弟だもん。
守ってあげなきゃ、私が。


(歪みワールド)


20121109

次でChapter1が終わります。
続いてリドウですよ!リドウ!リドウ!イラつくリドウ!ちくしょう!

いい声なのにむかつくのでいらいらしてました。