転生トリップ


オギャア、と赤ん坊の泣く声が響く。一つではなく、二つの泣き声だ。
私は、声を出そうと試みるが決して出ることはなく、変わりに「あー」という声しか、出なかった。



ジョルジュ
(転生トリップ)




私は赤ん坊として、ここエレンピオスに生まれていた。ルリ・ウィル・クルスニクとして生を受け、ルドガーの双子の姉、ユリウスの妹として生きていた。

もちろん、今まで生きてきた世界の知識も思い出も、覚えている。…もう此方に来て20年も経つから、断片的にだけれど。でもノートに書いておいたから、たまに見返して思い出すようにしている。忘れちゃいけないのだ。

そして、此方に来る直前の出来事も覚えている。
新作のゲームを買おうとしたのだ。この世界が舞台となり、双子の弟が軸となる、物語を。

複雑だった。

一緒に育ってきたのだ。
兄に甘え、笑って、泣いて、怒って。苦楽を共にしてきた大事な半身。彼に何かがあると私は直ぐに察したし、彼も私に何かあると直ぐに察していた。
双子という、神秘的な、不思議なもので、私と彼は繋がっていたのだ。


そんな彼を、兄を、友人を…ただのゲームの登場人物だとは思えない。
だって、今、ここで生きているのだから。苦しんで亡くなっている人だっている。この世界が、作られたものだなんて、認めたくなかった。



「ルリ」
「…ルドガー」

「また考え事か?」
「この医療黒匣、どうしようかなって」
「皆、ルリの治療をあてにしてるのが、嫌なのか?」

「うーん…」


隣に座ったルドガーを見て、苦笑する。

一つの、最初の物語が終わっていたんだよ、いつの間にか。

私は人を助けたいと思い病院に勤めた。勉強は好きだったし、色々な人の笑顔が見たかったから。
申請を出して試験を受け、医療黒匣を手にしたとき、精霊を殺していることをわかっていたけれどどうすることもできなかった。

ここには、緑もない。


断界殻が破壊されてリーゼ・マクシアと繋がった一年前。
私は病院を辞めた。医療黒匣を返却する予定だったのに、医療黒匣を渡される人間は限られた人間だけだと言われ、人の治療にあたるよう言われた。
その資格を放棄するのは許さない、と莫大な金を払うなら…と送られてきた書類に愕然として。
私は諦めて医療黒匣を持ちつづけることになったのだ。


たまに怪我をしてくる兄や弟の治療ができたから、悪いことばかりではなかったけど。


「精霊を殺すの、やっぱり嫌だなって」

「…優しいな、ルリは」
「そんなことないよ
ルドガーのほうが、優しい」


はは、と笑い合う。
私とルドガーは繋がっている。互いのいいたいこと、思うことはだいたい同じだし、感じ取る。
だから、ルドガーは言わなくてもわかってくれていた。

あの時泣いた私を、ルドガーは大丈夫だからと抱きしめてくれた。


「ルドガー」
「ん?」

「大好き」


大事な兄弟が、私は大好きなのだ。


(転生トリップ)


20121102
20121110/加筆

変えちゃいました。
初期設定は転生だったんです。
けど話をちゃっちゃか進めたくて歳食いトリップにしたのですが、お話的に、ヒロインの心情的に、これからの話とキャラとの絡ませかたを考えて、やはり初期設定に戻してしまいました。

混乱させてしまったら申し訳ございません。