「城阪さん、お時間よろしいでしょうか。ご報告が」
「今日は一体、何!」

手にしていた書類を机に叩きつける。
ただ私を呼びに来ただけの罪もない部下は、びくりと肩を跳ね上げてから報告を続けた。

「碧棺左馬刻が拘留されました……」
「アホなの?あいつは」

はぁ、と大きく息を吐きながら頭を抱えて数秒、それから立ち上がる。

「わかった。ちょっと話してくる」

何をかと言われたらわからないが、この横浜の地で何度も問題を起こすあいつを放っておけるわけもない。どうせ、このままでも入間がまた解き放つのだろう。


「碧棺」
「あ?なんでてめえが来るんだよ」

背もたれに寄りかかり脚を開いていかにも横柄な態度で座っていた碧棺左馬刻も、私が部屋に入るなり状態を起こして眉を顰める。流石に取り調べやなんやは私の仕事になることはない。それを知っているからなおさら私が来た理由がわからないのだろう。

「今度は何したの?」
「てめえに言う必要はねぇだろ」
「暴行罪です」

碧棺左馬刻が反抗的な態度をとり続けるので、同席していた部下が代わりに答える。
それもまた不満だったのだろう。わかりやすく舌打ちをする。

「入間銃兎はどうしたんだよ。あいつを呼んだはずだろ」
「それとは関係なく私は警告に来たの、そもそも簡単に釈放されるのが普通になってるのがおかしいのよ……」

正直に言って、簡単に釈放することに関してはこっちの問題であるので、そこはまた別に注意をしなけれならない。頭痛のしそうな頭を押さえながら続ける。

「いい歳して性懲りもない。いい加減、身の振り方を考えなさい!」

確か私のほうが年上だった……はず。その記憶と警察という立場から注意喚起する。
ビシッと決めたつもりだったのに、左馬刻の表情はまったく変わらずに何も響いてなさそうだった。

「……性懲りもねえのはお前もだろ」

低い声で呟く。

「……なんのことかしら」
「銃兎」

間髪入れずに放った一言に私が動揺する。それを見逃さなかったらしい、ハッと嘲るように笑ってから続けられる。

「随分とご執心みたいじゃねえか、警部補様よォ」

勝ち誇ったような顔でこちらを見る。見上げられているはずなのに、見下されているような気分になる。
なんで私がこいつに見下されなきゃならないのよ。その気持ちできつく睨み返すが、こんなものでビビるような相手でもない。
両者ともに黙ったために静寂が訪れる。部下もどうしたらいいのかわからず、私と左馬刻と交互に見る。先に静寂を破ったのは私だった。

「……意味が分からないわ。じゃあ、警告はしたから」

部下もいる前でこれ以上、左馬刻が何を言ってくるかもわからない。せめても信頼度の高い部下を連れていてよかった。余計な噂を署内に吹聴されても困るので、さっさと会話も切り上げるのが得策だろう。部下にもちゃんと言い聞かせておこう。

「逃げんのかよ」
「逃げてなんかないわよ!」

自分でも思ってた以上の声が出てしまった。左馬刻の面を食らったような表情になっているをチラリと確認しながら、勢いよくドアを閉めた。

「城阪さん……」部下が小声で呼びかけるのも無視して、廊下にヒールの音を響かせて進んだ。
あいつに私の何が分かるっていうのよ。
自分でもよくわからなくなっていることまで左馬刻にはわかっているようで、それが悔しい反面、怖くもあって、さっさと立ち去りたかった。

これじゃあ、逃げてるのとかわらないじゃない。
脳裏にはしっかりあいつの言葉と表情が焼き付いてしまった。


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