「なんでこんなところに……」

鬱蒼とした森。横浜にもこんな場所あるんだな、と思いながらハンドルにもたれ掛かる。
こんなところに連れていけと言った入間本人は、道ならざる道を突き進んでもう見えなくなってしまった。ついてくるかと聞かれたが、ここまで連れてこられたのだって不服だという空気を出してきたのだから、ほいほいとついて行く訳にいかないだろう。

本当は上司としても何をしているのか聞くべきだし、個人的にも何をしているのか気になっている。でもあいつに興味を持っていると思われるのが癪で、何も聞けない。

「タバコ臭いな、もう」

いくら窓を開けていたとはいえ、まだ車内に残る煙のにおい。
服につくのが嫌で、再び窓を開けてみるもなんだか虫が入ってきそうですぐに閉める。空調はバッテリーがあがってしまいそうだし、今度からは芳香剤でも置こうかな。でも変にきつい匂いのものを置いたらあいつが嫌がるか……。いや、いやいや、なんであいつのこと中心に考えてるのよ。

勢いよくシートに倒れこんでから目を瞑る。
視界を遮断されて残された聴覚は木々の音、嗅覚はよりタバコにおいを伝える。それはただのタバコのにおいでもあり、入間銃兎のにおいでもある。
やっぱり芳香剤置くのやめようかな。自分の意志の弱さに辟易としながらも、午後の木漏れ日に身を任せた。


しばらくしてしつこいノック音に目を開ける。

「勤務中に堂々と昼寝ですか」
「寝てない……用は済んだの?」

ドアの鍵を開けると、乗り込みつつ開口一番に嫌味を言われた。
意識はあったので寝てはいない、つもりだ。

「ええ、ありがとうございました」

後部座席で優雅に脚を組む。それをGOサインと捉えて車を出す。

「こんなところで何してたの」
「それは……ちょっと言えないですね」
「上司にも?」

バックミラー越しに睨むも、向こうは視線を合わせようともしない。

「業務には含まれないので」
「業務時間中に堂々と何してんのよ」
「それは警部補も一緒にドライブをしたので同罪ですよ」

そんな言葉にすらちょっとうれしくなって、何も言えない私は本当に単純だと思った。


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