(14)2人のナルト



ナルト達は、林から出て、試験を開始した丸太の前まで場所を移した。
1人がイガとヤイバ、両人を脇で抱え上げ、もう1人のナルトがアズキに手を差し伸べて立ち上がらせた。

試験終了の合図に、アズキはほっとした様子だ。
しかし、まだ緊張が解けないのか、眼球がブルブルと震えている様子が、前髪の隙間から覗いて見えた。

気を失っているイガとヤイバを、丸太にくくりつけて、ナルトは何処からともなく弁当を取り出した。
アズキの腹がぐうと鳴った。
昼にはまだ早い。しかし、食べ盛りの子供にとって、朝食を抜く行為は拷問に近かった。
口の中にじわじわと唾が溜まる。

「よし、休憩だってばよ」

ナルトはアズキにだけ弁当箱を渡した。
一人前にしては、少し大きめの箱だった。
ずしりと重みが手から伝わってきて、それだけで相当の量が入っていることがわかった。
開けてみろ、と目で伝えられ、アズキは恐る恐る蓋をとった。

――もしかしたら、これも試験ではないのか。
――開けたら爆発するのではないか。

興奮が収まらず、疑心暗鬼になっていた。

ぱかっと開くと、香しい匂いが鼻をくすぐった。
香ばしい味ご飯に、鶏のから揚げ、野菜の煮物に、ハンバーグ。
それ以外にも、数多くおかずで彩られていた。

ゴクリ…

喉を鳴らし、アズキは食べたくてうずうずし出した。

物が擦れる音がした。
イガが目を覚ましていた。
アズキが手にする弁当箱を凝視していた。
ヤイバも目覚めたようで、同じくアズキの持つそれを見て、口をもぞもぞと動かした。
二人の腹から大きな音が鳴り、ばつが悪そうな、そっぽを向いた。

「休憩前に、ちょっと説教だってばよ」

三人の目が一斉にナルトへ向けられた。
そして、戦慄した。
束の間の安心感が一気に消え去り、体の芯から震え上がった。

ナルトの目は、鋭く、冷たかった。
昨日、オリエンテーションで見せたあの表情だった。
しかし、その表情は一瞬で消え、落胆したものに変わった。

「お前達に言ったよな。――“3人で力を合わせて掛かってくること”って」

隣でポーチからハンカチを見せているナルトが(アズキは分身だと判断していた)が頷いた。
つられてアズキ達もうなずき返す。

「最初の攻撃は、まぁ要領が分かっていないから仕方がないにしても、一度やられたら自分一人だけではなにもできないって、分かるだろう?」

「だから協力したじゃないか」

イガがヤイバをチラ見して、ナルトに刃向った。
自分が丸太に縛られているこの状況が不服なのだろう。
さらに、空腹でイライラしてきているのも合わさって、言葉に棘があった。
彼にしては、冷静な話し方ではないと、アズキは感じた。

「お前の協力は、協力じゃないだろう。人を使っている感じだった」

ヤイバもイライラしているのだろう、いつも以上に感情を表情に出していた。
イガは舌を見せた。

「自分の保身の為に、取引に承諾したお前も、人の事言えないんじゃね?」

「なんだと…」

「2人とも自分のことばかりしか考えてない」

そう言って、アズキは慌てて口を手で覆った。
思わず心の中で考えていたことを声に出してしまった。
イガはアズキを睨んだ。
ヤイバは顔を背けた。ギュッと手を握り締めて、歯も食いしばっていた。

重苦しい雰囲気が、3人の周りに漂った。
その中で、アズキは溜息を吐いた。

「……ごめん。私が一番足手纏いなのに…」

「だったら、何も言うなよ。この裏切り者」

イガが唾を吐き捨てた瞬間、乾いた音が響いた。
頬が赤くならないまでも、頬から伝わる衝撃に、イガは驚き、言葉が出なかった。
アズキもイガもヤイバも、目を丸くし、言葉を失った。

「……同じ第七班の仲間でしょ?なんで、アズキさんの言い分を聞こうとせず、一方的に裏切り者と決めつけるの?」

アズキが分身だと思っていた方のナルトが、イガの頬を叩き、そして手を添えた。
声はナルトのものだったが、話し方は全くの別人だった。
怒ったような強い口調だが、しかし目は悲しそうだった。

居たたまれなくなり、イガは目線を分身ナルトから逸らした。
しかし、すぐに両手で顔を掴まれ、まっすぐ見るように戻されてしまった。

「ちゃんと前を見なさい」

「…っ…あんた、ナルト先生じゃないな…?誰だよ?」

「その前に、私の質問に答えなさい」

「いや、なんか、先生の姿でそのしゃべり方をされると、気持ち悪い…」

顔が引きつり、丸太に縛られていなかったら、一目散にこの場から離れたいとイガは思っていた。

分身の背後で、ナルトが「あちゃー」と頭を抱えた。
アズキは状況が読み込めず、ヤイバに目配せした。
彼も理解できていないようだった。

イガの「気持ち悪い」発言に、分身ナルトは、ハッと驚いて目をキョロキョロさせた。
気まずい空気を作り出していることに、ようやく気が付いたのだろう。
両手を胸の前まで持っていき、片手はそのまま口元に近づけて行った。
その仕草は、まるで女性が困ったときにする様だった。

(オレの姿で、そんな仕草されると…悪い意味で目の毒だってばよ…)

本日何度目になるか分からない溜息を深く吐き、ナルトは分身の肩にそっと手を置いた。

「ヒナタ、フライングだってばよ…」

「……ごめん、ナルトくん」

顔を両手で覆い隠し、しゃがみ込む分身。
唸るその声は、ナルトのものではなく、女性の声に変わっていた。
ポンという音と共に煙が上がり、その中から青紫色の髪の女性が現れた。
ナルトとは似ても似つかぬ美しい女性だった。
顔を赤くして肩を落としている様子は、まだ少女が抜け切れていない感じと受け取れた。

見惚れて声が出ないイガに代わって、アズキが女に尋ねた。

「えっと…どなた…ですか?」

その答えは、彼女ではなく、ナルトが代わりにした。

「お前達の、もう一人の先生だってばよ」







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