(10)鈴取り合戦、大苦戦



開始の合図とともに、イガとヤイバはナルトから距離を取った。
それぞれ木や茂みの中に隠れ、身を潜めた。

すぐ相手に突撃していくのは、馬鹿がすることだ。

イガはそう思っていた。
まず、相手の出方を伺い、動きの癖、得意とする能力、所持している武器を確認する。
忍びの戦闘では、常識中の常識だ。
相手がどれだけの力量なのか把握せず突っ込む行為は、自殺行為と同様だ。

「…アズキ!?」

少し離れた茂みへ避難したヤイバが、声を漏らした。
何事かとナルトの方を見て、イガはガクッと肩を落とした。

(何をやっているだ!?顔ナシ!)

極度に緊張して反応に遅れたのだろう。
アズキは、ナルトの前に立ちっぱなしだ。
足がガクガク震えている様子は、遠目でも確認できた。

やはり緊張している。

(あいつ、本当の戦闘だったら、真っ先に死ぬな)

忍は一瞬の判断が命運を分ける。
兄から教えられていた。

(俺達はまだハンデを貰っているから、まだマシだよな)

イガは、オリエンテーション後、徹底的にナルトについて調べた。
幼い頃から調べ物の癖をつけていた彼は、既に多くのノートや巻物を自身の部屋に保管していた。
人物、忍術、忍具、地理、歴史・・・・・・。すべて手書きだ。
様々なジャンルに分かれており、整理されていた。
そのうちの一冊を手に取り、ナルトの戦闘スタイルを研究した。
次の日まで半日もない。
それでも、できるだけ情報を得なければならない、そう思った。



そこから、出した結論は、まともに相手をしても敵わない、ということだ。
1人だけでは、攻撃を仕掛ける前に捻じれ伏せられてしまうと感じた。
先程、ナルトが言ったように「3人で力を合わせれば」なんとかなるかもしれない。
だが、イガは彼の言った矛盾に疑問を抱いていた。

なぜ、鈴が2つなのか。
イガ達、部下が一人ずつ鈴を手に入れるには、数が1つ足りないのだ。

つまり、この試験、3人のうち1人落とされることになると考えられた。

(俺は落とされたくない!)

イガはヤイバを横目で見た。
彼は、じっとアズキを見つめているだけだ。

(ここで飛び出すのは得策じゃねぇ。ナルト先生が、あいつに気を取られている間なら…もしかして…?)

もう答えは決めた。
アズキに犠牲になってもらう。
懐から、忍具を取り出し、印を結び、地面に手を付けた。



「わああああ!」

突然の叫び声に、はっと開けた場所を見た。
誰の声かと思った。
しかし、この演習場にいるのは、第七班だけだった。

アズキだった。

逃げ遅れたのなら、とにかく突っ込んでみるしかないと思い立ったのだろうか。
自暴自棄のような、勢いあるような大声を上げていた。
あのウジウジして、地味で、気味の悪い彼女から想像できない、大きな勇気だ、と感じた。
何の技を使うようでも、忍具を使うことでもない様子だった。
ただ、ナルトへ体当たりしていった。

ひらり

さすが、英雄とたたえられているナルトだ。
まるで風にのって受け流すように、滑らかにアズキをかわし、彼女の首根っこを摘み上げた。
まるで、猫を掴むかのように。

ぶらん、ぶらん

揺れるアズキは、まるで肉食動物に捕まった小動物のように、何もできず茫然としている様子だ。
顔は蒼白で冷や汗をかいている。

(馬鹿が…)

溜息を吐いた。
基本もできない忍びが、同じ班にいることに頭を抱えた。
だからこそ、ここで落としておかなければ・・・・・・。

「きゃーーー!?」

悲鳴を上げながら、アズキは掴まれたそのままの状態から、放り投げられた。
綺麗な弧を描き、十メートル先の藪に落ちた。
背中から落ちて行ったようで、草木の上で、亀のように足をジタバタさせていた。
どうやら、草がクッションになったお陰で、怪我はない様子だ。

(今だ!!)

ナルトがアズキの落ちた地点に集中しているところを突こうと、イガはまず陽動の為、手裏剣を投げた。
放たれたそれは一直線にナルトへ向かった。
投げてすぐに、隠れていた場所から離れ、別ポイントへ移る。
手裏剣の軌道を見つつ、ナルトの動きも観察した。

必ず、隙ができるはず。
彼は、まだイガの手裏剣に気が付いていない様子だ。

(いける!)

しかし、別のクナイがイガのそれを弾き飛ばしてしまった。

ナルトではなかった。

ヤイバだ。ヤイバのクナイだった。

どうやら、イガがナルトの様子を伺っている間、ヤイバはナルトではなくイガを観察していたらしい。
まるで、イガがアズキを利用して攻撃の機会を謀っていたと知っていたように。

すかさず、刀を抜き、ナルトの真上へ飛び、狙った。

(上手い!)

ナルトの角度からヤイバを見ると、ちょうど太陽の光で眩しい。
一瞬だろうが、目が眩むはずだ。

自分の手裏剣が打ち落とされたことは、気に食わないが、彼の見事な作戦と実行力に舌を巻いた。
作戦を練れても、実行に移すことはなかなか困難だ。
そこの所だけは、評価した。

(しかし、顔ナシのあの件といい、今の手裏剣の技術といい、あいつ、あんなにも刀以外の忍具の扱いに優れていたっけか?)

ヤイバの忍具の授業の成績は、いつも中の下だったはずだ。

―――手を抜いていた。

ただの刀馬鹿だと思っていたが、それ以外にも特出すべき点があったのだ。

(あいつ、なめがやって…)

手を抜かれていたことに、イガは無性に腹が立ってきた。
クラスで一番の評価を受けて、大喜びしていた自分を、陰で嘲笑っていたと思うと、どうしようもない怒りが湧き立った。



ヤイバの一本刀がナルトの頭上へ振り下ろされた。
きらりと刃先が光った。

外れた。

目の錯覚だろうか。
一瞬、刀の動きが止まったように見えた。

ポンと言う音とを立て、ナルトは丸太に替わり、ヤイバの刀はそのまま丸太に切り込んでしまった。
一時停止したものの、振り下ろした威力は衰えていなかったのだろう。
かなり深く食い込んだようで、引き抜くことに悪戦苦闘している様子だった。
足で木を押さえ、ぐいぐいと引っ張っている。

姿を消したナルトが、ヤイバの背後に現れた。

「よ!中々、いい太刀筋だな」

「あっ…」

アズキと同様に襟首を摘み上げられ、投げ飛ばされた。
ヤイバの悲鳴はレアものだろうな。
と、心の中で呟きながら、イガは再び印を結んだ。

しばしの沈黙。

「よぉ!上手く考えたな」

心臓が飛び跳ねあがった。
ばくばくと心拍数が増え、落ち着きがなくなった。
十メートル以上離れていたはずのナルトが、一瞬にしてイガの背後に回っていた。
震えで、顔を後ろにさえ向けることができない。

ナルトは、ひらひらと数枚の起爆札をひらつかせた。

「オレがアズキとヤイバに気を取られている間に、地中から土遁で札を送り込んでいたんだよな?これはちょっとの衝撃で爆発しちまう代物だ」

揺らしているところから、すでにトラップを解除しているのだろう。

「オレがスピードに自信があることを、鑑みての選択判断。そして、発動しないように緩やかに土を操るチャクラコントロール……お前は、すげぇな、イガ」

ドキン

また心臓が跳ね上がった。
今度は驚きと恐怖からではなかった。
胸が熱くなる。高揚する。

褒められた。
あのうずまきナルトに、褒められた!

兄の様子から、ナルトとはまだ接点が無いようだった。
しかし、自分にはある。
さらに、彼から認められたのだ、兄よりも先に。

背後に回られた危機的状況だと言うのに、イガは慌てるどころか、ナルトに認められたことへの喜びで頭がいっぱいだった。

顔を輝かせた。
意外な反応に、ナルトは戸惑った。

(あ、あれ?調書じゃ、冷静に状況判断できる奴だって、書いてあったような?)

「先生…!」

目を輝かせる部下に、ほんのり罪の意識を感じたが、ナルトは上司としてするべきことを優先した。

「油断大敵ってばよ!」

両手を合わせ、まるで鉄砲のような形を作った。
人差し指と中指を合わせ、ピンと伸ばした。
手を深く引っ込め、力を溜めた。

「必殺!千年殺し〜〜〜〜〜!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!」

イガの断末魔が第三演習場に響き渡った。

――――試験終了まで、あと50分。




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