リーさん、告る(前編)
島でも筋トレオタクとして知られる、ロック・リー。
外を歩いていれば、汗を光らせ走る姿を見る。
また、部屋にいても彼の部屋からサンドバッグや掛け声が聞こえて来る。
動作はきびきびしているのだが、落ち着きがなく、兎に角元気一杯なのだ。
その場にいるだけで、存在感溢れる男だった。
彼が落ち着いているところは、誰も見たことがないというほどに。
そんな彼が、ここ一週間、めっきり外に出て来ないのだ。
最初の2、3日は部屋で体を鍛えているのだろう、との話もあったがサンドバッグや筋トレ機器の音もしないのだ。
それが数日経ってくると、また異様に感じてきた。
あのリーが大人しい、不気味でしかたがない。
何があったのか憶測と噂だけが広まり、マンションは只今リーの話で持ちきりだ。
彼の部屋の前に、人が立った。
手を伸ばそうとしては引っ込め、その繰り返しをしている。
回りを見回し、誰かに助けを求めているようだった。
恐る恐る手を伸ばし、また引っ込めようとしたが、誤ってインターホンのボタンを押してしまった。
ピンポンダッシュしても良かったが、彼女の性分、そのようなことが出来なかった。
覚悟しなければならない。
ヒナタはごくりと唾を飲み込んだ。
数十分前。
テンテンがヒナタの部屋を訪ねてきた。
「お願い、隣が静かすぎて、逆に怖いの!ヒナタ、見てきてくれない?」
手を合わせ、テンテンが頭を下げた。
彼女はリーの隣部屋だったはず。
「あ、あの…部屋が廊下の端と端で離れている私より、お隣のテンテンさんの方がご近所さんだから、リーさん、出てくれるのではないでしょうか」
「試したわよっ!でも、インターホン鳴らしても、ちっとも反応なしなのよ?!」
「な、なんで、私なのかな…」
「な、なんとなく…?と、とにかく、お願いね!」
そう言って、テンテンはあっという間に去っていった。
取り残されたヒナタは、どうしようかと途方に暮れた。
サクラに相談しようとしたが、彼女は今の時間バイトしている。
ナルトも部屋を空けており、相談する相手が誰もいなかった。
ヒナタは取り敢えず、リーと会ってみようと、部屋を出た。
ギィと扉が重く開いた。
戸の隙間から、げっそりと痩せこけたリーが顔を覗かした。
きゃっと悲鳴を上げ、廊下の手すりまで下がってしまった。
「……おや…ヒナタさん…どうしましたか…」
明らかに生気のない声に、怖さよりも心配の気持ちが勝った。
「リーさんこそ、どうしたのですか。その顔…」
「これ…は…その…いろいろ…悩み事がありまして……はっ!?ヒナタさん!!」
充血した目をカッと開き、鼻を大きく開け、リーはヒナタの両肩をがっしりと掴んで揺すった。
「そうです!この手がありました!なんて、ボクはラッキーなのでしょう!」
「キャッ!あ…ど…う…意…で…?…ッ…や、止めてください…ッ…!」
獣のような形相でヒナタに迫るリー。
必死に逃げようとしたが、やはり日頃の鍛え方が違うのか、そう簡単にリーの腕から抜け出すことができなかった。
「だ、誰か…た」
助けて、と叫ぼうとしたとき、リーにタックルする影が現れた。
リーはその影に吹き飛ばされ、地面に倒れた。
「何してるんだってばよ!ヒナタが怖がっているじゃねぇか!」
「ハッ…すみません…!」
正気を取り戻したリーは、ひっくり返った体制から身体を起こし、土下座でヒナタに謝った。
ヒナタはナルトに見とれていたため、リーの土下座が目に入らなかった。
リーが思いっきり頭をコンクリートに打ち付けた鈍い音で、ヒナタはようやく彼の姿勢に気づき、謝ってしまった。
「そんな…ヒナタさんが謝る側ではないのに…」
「いえ…土下座までさせてしまって、ごめんなさい」
「いやいや、ヒナタが謝らなくてもいいんだってばよ。それより、ゲジマユ。今のヒナタへの行動といい、一体どうしたんだってばよ?」
まだ顔を上げないリーは、涙をこぼしながら、ぽつり、またぽつりと理由を語っていった。
リーから元気のない理由を聞き出し終わった後、ナルトとヒナタは疲れた様子で彼の部屋から出た。
昼間から話を聴いていたはずが、いつの間にか、夕方になっていた。
「あのゲジマユが恋煩いだったとは、驚いたってばよ。どうする、ヒナタ?勢いで引き受けちまったけれど」
「うん、リーさんが元気になるために、何かしてあげらればいいのだけれど…。何も策がないのに引き受けちゃったね、どうしよう」
「……ヒナタは、結構お人好しなんだな」
「え、あの、ごめんなさい」
しゅんと項垂れるヒナタにナルトは苦笑した。
こつんとヒナタの額を小突いた。
手で突かれたところを抑え、ヒナタはぽかんと口を開けた。
「なんで謝るんだってばよ。褒めてんだぜ?他人のために一生懸命になることって、意外と難しいし。だから、ヒナタはすげぇ奴だってばよ」
ニシシッと笑うナルトの顔は、暗がりでも明るく輝いていた。
日がだんだんと西の空に沈んでいき、空は暗くなってきている。
(ナルトくん…)
ドクドクと高鳴る心臓の音を感じながら、ヒナタは心の中で「ありがとう」と礼を言った。
「さあ、一緒に考えようぜ」
「…うん!」
「ところで、勝算はあるのかってばよ?」
「う、う〜ん」
ヒナタは答えづらく、唸るだけだった。
分かりやすい反応に、ナルトはプッと吹き出してしまった。
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