人魚鉢(十八)


カーテンの隙間から、太陽の光が部屋に差し込んできた。
風に煽られて、カーテンがふわりと踊り出す。
光が直接ナルトの顔面に当たる。

眩しくて、手で影を作る。
もう少し眠っていたい。
朝方まで起きていたからだ。

うつ伏せになり、顔を枕に埋める。
暗闇が目の前に広がる。

とろりと眠気がまたやってくる。

ああ、これで落ち着いて眠ることができる。
カーテンの擦れる音を子守唄に、風を揺りかごに、ナルトは寝息を立て始めたそのとき、再び彼を眠りの世界から引きずり出すものが現れた。

ドンドンドン

アパートの扉をけたたましく叩く音。
掛布団を頭の頂点まで引っ張り上げて、耳を遮断する。
しかし聞こえる扉の音。

「だーっ!うるせーっ!」

こっちは寝不足なんだ、とぼやいて、どしどしと床を踏んづけて玄関へ向かう。

ヒナタのことを考えていたら、目がさえて眠れなかったのだ。
目の下にはくっきり隈ができている。

結局、一晩考えて、ヒナタが自分のことをどう思っていようと、告白しようと決めた。
最初から諦めるのは、自分の性分に合わないからだ。

バタンと勢いよく扉を開く。
扉の前に佇む人物に向かって、きっと睨む。

相手は驚いた顔をして、そしてナルトの顔を見て溜息を洩らした。

「なんて顔をしているんだよ」

キバがしょうがない奴だと漏らした。

「寝ていたとこなんだけど」

「もう昼過ぎだぞ、いい加減起きろよ、休みとはいえだらしないぞ」

「うるせー、こっちはいろいろ考えていて寝不足なんだってばよ」

用がないならもう帰れと、扉を閉めようとするナルト。
閉まりかけた扉を、足で止め、キバはナルトの方をギュッと掴んだ。
思いのほか力が入り過ぎたのか、ナルトが顔をゆがめる。
謝り、ゆっくり方から手を放す。
ナルトも扉を閉めるのを止めた。

「なんだよ」

「……おまえ、ヒナタの事、どう思ってんだ?」

「……はあ!?」

寝ぼけていた頭が覚醒した。
突然現れて、何を言い出すのかと思ったら、徹夜して考えていた彼女についてだった。

「ど、どうして、そんなこと、突然…っ。だいたい、オレがヒナタのことどう思っているなんか、キバには関係ないってばよ」

「関係ありなんだよっ!とにかく、どうなんだよ……」

顔を逸らし、キバは声を小さくして尋ねた。
ナルトの声に反応して、両隣の住人の部屋からごそごそと音がした。
玄関先での揉め事は迷惑になる。
ナルトは取り敢えずキバを部屋に招き入れた。

「ヒナタのことだけどさ……オレってば」

「ちなみに、ヒナタは、お前がヒナタのことを好きだって知っているぞ」

「はぁ!?」

本日二度目の素っ頓狂な声を上げた。

「どどど、どうして!?つーか、なんでキバも知っているんだってばよ」

「九尾が教えてくれたんだよ」

(……九喇嘛……)

≪………≫

九喇嘛の顔を恨めし覗きこむと、彼はそっぽを向き口笛を吹いた。
誤魔化そうとしているのは、見て明らかだった。

「ん?ってことは、豆井戸(まめいど)村からヒナタがなんかオレに対してよそよそしいのは、それが原因かってばよ」

「なんだ、お前も気が付いていたのか。ヒナタは恥ずかしがり屋だからな、意識過ぎるあまり、ただの仲間として見ようと必死なんだ」

「い、意識し過ぎるって?」

「はぁ、お前、気が付いていないのか!?ヒナタはお前のことが好きなんだ!不本意ながら」

「はぁ!?」

開いた口がふさがらないのは、このことを言うのだろうか。
突拍子もない事実を告げられて、ナルトは思考停止した。

「そそそそれは嬉しいけどよ、んなら、ヒナタ自身が「好きだ」って言ってくりゃ、いいじゃねぇか」

あのよそよそしい作り笑いは、自分を意識し過ぎるあまりの行為だったのだろうかと思った。
しかし、それではナルトが感じた「自分を “大切な同期”の1人であると見ている」様子が説明できない。
なんの暖かみも感じないヒナタ笑顔は、演技によるものではないと直感で感じていた。
羞恥心からの無意識の行動でもないと、ナルトは思っていた。
その胸をキバに説明すると、キバは「違う」と吠えた。

「だから、ヒナタは極度の恥ずかしがりやなんだって!つーまーりー、お前がここで悩んでいるんじゃなくて、お前から出て行って、告れって言っているんだよ、オレは」

キバは、ヒナタが恥ずかしがり屋だからと言って、ナルトの話を聞こうとしない。

「で、でも、ヒナタからオレのことが好きだって直接聞いたわけでもねぇし、よそよそしいっていのも、どこか完全に飽きられてしまっている感じでもあるし……告白にはタイミングが……」

しどろもどろしているナルトの頭に空手チョップを食らわし、キバは吠えた。
「いいか、ちゃんとけじめ付けろよ」と言い残して、彼は荒々しく部屋を出て行った。

キバが何故、わざわざナルトの部屋にまで来て、ヒナタに告白しろと言いに来た理由が、ナルトにはさっぱり分からなかった。

悶々とする気持ちだけが残されて、ナルトは頭を抱えた。
キバの言う通り、すぐ告白するべきなのか。
それとも、ヒナタに感じたよそよそしい態度の原因を突き止めるのが先か。

ジンと痛む頭を押さえ、ナルトは考えをめぐらせた。




昨日の生気のなさが嘘のように、ヒナタは明るく出掛けていった。

任務の疲れからなのだろう。
昼近くまで、ヒナタは眠りこけていて、なかなか布団から出てこなかった。
熱でも出たのかと心配したコウが、温度計と桶と手拭いを持参してヒナタの部屋に訪れると、彼女は既に起きていて、下へ降りようとしていた。

朝食と昼食が一緒の食事を摂り、ヒナタは二日後のナルトの誕生日のプレゼントを買いに行くと言って、出て行った。
コウが驚いて、ヒナタに「あれはどうなされるのですか」と尋ねた。

ヒナタは首を横に振って、諦め顔で弱々しく微笑んだ。

「だって、間に合いそうにないもの……今年は、市販のものにするわ」

ヒナタの後姿が見えなくなるまで見送った。
こうでもしていないと、彼女が一瞬で消えていなくなってしまいそうだったからだ。
完全に姿が見えなくなって、コウはしばらく屋敷の門前で考え込んだ。

やはり気のせいではなかった。
任務から帰って来たヒナタの様子が、まるで別人になったようであった。
もちろん、彼女の本来の優しさや強さはそのままだと思う。
しかし、彼女からいつも感じるキラキラした雰囲気は、跡形もなく消え去っていた。

「あれ?コウさんじゃね。突っ立ってどうしたんだ?」

白い大きな犬を引き連れて、見慣れた少年―――いや、もう青年と呼ぶべきか―――がこちらに歩いて来た。

「キバくん、か」

「おう、ヒナタの様子が気になって、家から直で来たんだ。本当は、朝一に来たかったんだけどな、寝坊して…」

へへへっと苦笑いするキバの顔を見て、コウはある不安を感じた。

「キバくん、ヒナタ様になにかあったのだろうか」

その瞬間、笑っていたキバの顔が厳しいモノに切り替わった。

「……そのことなんスけど……コウさんから見て、ヒナタに違和感を感じたところを教えてほしいんです」

赤丸も真剣な様子でコウを見る。
只事ではないと感じて、彼は昨日と今日のヒナタの様子を全てキバに話して聞かせた。







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