昔のふたり1-2








「瀬名、」


煙草の匂いが鼻を掠めたかと思うと、
店長の雪見がすぐ後ろに立っていた


「アイツの、そろそろ作ってやってくれ」

アイツ、というのはもちろん彼のことだ


「今日寒いからな、何か暖かいもの、簡単なのでいいぞ」


「あ、はい。そうですね・・・野菜が余ってるんで、スープとか」


「いいな。七海、自分じゃ絶対野菜なんて食べないだろうし」


そう言って、店長は彼の所に行ってしまった






彼・・・七海、さん

は、店長の学生時代の後輩らしい



七海さんは、店長とほんの少し話すと、またぼんやりと外を眺めていた



いつもああやって、何を見ているのだろう

今日はもう何も書かないのだろうか


一口大に切った野菜を鍋に入れながら、そんなことばかり考える


いつも何か書いているから、きっと作家さんなのだろう

若く見えるが、学生という感じはしない

学生特有の雰囲気、子供ではないが完全な大人でもない

同じような人間に囲まれて、集団の中で生きているような、

将来、あるいはもっと身近なものに対する期待と不安と、

そんなどことなく浮ついたものを、彼からは感じられない


感じ取れるのは、それとは正反対の



彼は"一人"なんだということ



漠然としているが
恐らくこれは当たっている







出来上がったスープを皿に移し、少し冷めるまで待つ


彼はカフェラテもミルクティーも(稀にココアも)、出されてからしばらくは口を付けない


(彼は猫舌。そのくせ、真夏でもホットしか頼まない)


スープと、それに付けるパンも、他のお客さんに出す時と比べて少なめだ


(彼は少食。たったこれだけで身体は大丈夫だろうか)





タイミング良く店長がキッチンに戻ってくる


「お。サンキューな、瀬名」


彼の元まで運ぶのは店長の役目だ



彼が最初のひと口を口に運ぶのを見届けて、奥に戻る











ほとんど毎日顔を合わせて、
何時間も同じ空間にいるのに、

僕はまだ、彼の声を聞いたことがない






「七海、さん…」





あなたと、話がしてみたい





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