お料理2
どさり、と買ってきた書物を机におろし、両肩を凝りをほぐすように回した。さすがに買いすぎただろうか。山積みになった本を見ながらマルコは煙草を取り出し火をつけた。
今回の島は世界中から入手しにくい本が集まる大書店があることで有名だったので、弟のギルも上陸を楽しみにしていたのだが如何せん治安が悪かった。船に残るよう言った時は大いに拗ねられたが、町の様子を思い出すと、やはり連れて行かなくて正解だった。自分の傍から離れなければ問題ないが、幼い頃から船の上で育ってきたギルは島に上陸するたび好奇心で目を輝かせ、ほんの少し目を離した隙にどこかに消えているのだ。
「手のかかる弟だよい」
大きく煙を吐き出して、そんな弟のために土産として買ってきた数冊の本を手に取り部屋を出た。
ギルの部屋に向かっている途中、キッチンから騒がしい声がする。
(そういや、船番は4番隊だったない)
キッチンで騒いでちゃ船番の意味がないだろうと扉を開けると、一気に喧騒が大きくなる。
「あ、マルコ隊長おかえりなさい!」
ひとりのクルーがこちらに気づいて声をかけてくると、ほかのクルー達も一斉に振り向いてくる。そいつらが皆して囲んでいる机には、
「クッキー……?」
サッチが作ったんだろうか、それにしては形が歪なものが多い気がする。
「おお、マルコ帰ってきてたのか」
サッチが厨房から出てくる。その手には大きな皿に乗せられた大量のクッキーが。
「なんなんだい、コレ。クルー全員分のクッキーでも焼いてたのかい?」
「おー!それがなぁ、聞いてくれよマルコ!あのギルがな、」
「サッチ!!」
いつにも増して上機嫌に喋るサッチを慌てて遮るように厨房からギルが出てくる。
「ギル、なんだいその恰好」
俺は初めて見る弟の格好に俺は思わず瞬きを繰り返した。
「エプロン……?」
「ち、違っ!これは別に、俺は、そう、ただサッチの手伝いをしようと思って!だから別に俺が作ったわけじゃなくて」
あわあわと言い訳するギルだが、その頬には小麦粉らしき白い粉がついいているし、指には数か所に絆創膏が貼ってある。ニヤニヤしながらギルの肩を抱きクッキーを頬張っているサッチを見る限り、つまりそういうことなんだろう。楽しみにしていた上陸を俺に禁止されて、暇で暇で仕方なく、慣れない、というよりやったこともないお菓子作りをサッチと一緒にやっていた、と。それにしても、
「なんでクッキーを作るだけでこんな怪我してるんだよい」
そう言ってその指を取ると、うっさい、と拗ねたように目を逸らされた。ついでに、その頬についた小麦粉も拭ってやると今度は睨み上げてくる。まったく迫力はないのだが、忙しい奴だ。
「ほら、マルコも食ってみろよ」
そう言ってサッチがひとつクッキーを摘まんで差し出してくる。普段だったら甘ったるい菓子類など滅多に口にしないが、ギルが作ったというなら別だ。なんせこれが初めての料理なのだ、食べないわけにはいかないだろうと、すでに自分より先にお茶を楽しんでいる4番隊を恨めしく思いながら、どれ、と差し出されたそれを受け取る。
「あっ、ダメ!」
しかし、それを口に入れる前に作った張本人に取り上げられてしまう。
「兄貴は食べちゃダメ!」
兄貴は、と限定して拒否されたことに軽くショックを受ける。
何故だ。まさか上陸するのを許さなかったことをまだ根に持っているのか。しかしそれはギルのためであって……ぐるぐると思案していると、サッチが慰めるように肩を叩いてきた。ニマニマと面白がるように笑っている口元が腹立たしい。
「そんな心配すんなよギル。おいしいぞーコレ。初めてとは思えないな」
さすが俺たちの末っ子だのと鼻高々に話しているリーゼントを無視して、なんだそういうことかとこっそり胸をなでおろす。つまり俺に食べて欲しくないわけではなくて、初めて作った料理に自信がないのだろう。そんな心配はしてないとサッチに食って掛かるギルが手にしている大皿の上には、かなり歪ではあるが鳥の形をしているものがいくつかある。ふ、と頬を緩ませて、そのうちのひとつを口に入れると、サク、と軽い歯ごたえの後仄かな甘みが広がった。
「あっ!食べちゃダメだって!」
そう言われてももう遅い。俺はもうひとつ鳥の形をしたものを食べてから、ギルの頭を撫でてやった。
「おいしいよい」
素直にそう言ってやると、ポフンと金色の耳と尻尾が飛び出した。
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あとがき
あんまり反抗期じゃない・・・
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