傷つけ愛

※オリジナルにある『傷つけ愛』のエースver.









「優しくしないって言った!」


「ッ、シャルム!!」


「やだやだ!帰ってよ、ひどくしてくれないなら帰って!」


「シャルムっ、落ち着け!わかったよ、わかったから……なぁ、泣くなよ、シャルム」




 シャルムは、4年前初めて出会った時から、どうしようもないマゾヒストだった。

 痛いのが好き。優しくなんかしないで。だって、痛いって感覚が1番敏感で強いんだもの。

 そう言って、シャルムは乱暴にされる事を好み、自分の欲求を満たしてくれる人間にはホイホイ着いて行った。
 現に、2人の出会いは、シャルムがシャツ1枚で鼻から血を流し、身体の至る所に鬱血の跡やどす黒い痣をつくって路地裏に捨てられているのを、偶然通り掛かったエースが発見した事がきっかけだった。

 そんなシャルムの性癖を知り、理解した上で、エースはずっとシャルムに片思いをしている。
 めんどうな奴を好きになったもんだと、自分でも解っている。だが、理屈じゃないのだ。
 同性に、しかもこんなマゾヒストに4年も片思いしているのも、ひどくしてと求める相手に、どうしようもなく優しくしてやりたいのも、他の男に乱暴に抱かれても平気な顔しているコイツに泣きたくなるのも、理屈じゃない。


 好きなのだ。どうしようもなく。

 
 自分の意思とは関係ないところから、俺の身体が、俺の心臓が、俺の魂が、好きだとさけんでいる。

 だがシャルムはマゾヒストで、俺はそんなシャルムにひどくしてやる事などできない。


「シャルム」


 ひくり、と喉を震わせて泣くシャルムを引き寄せる。


「ひぐっ、いやだよう、優しくなんかしないで、ねぇ、エース、ひどくして、ぐちゃぐちゃに抱いてよ。俺の事好きなんでしょ?ねぇ、エース、エース、エース」


 シャルムは胡坐をかいたエースの上に跨がり、ぐりぐりと自分の腰を押し付けた。


「ふっ、はぁ、えーす」


 欲情して潤んだ瞳に見つめられて、エースはシャルムを押し倒し、思い切り口づけた。
 ガチン、と歯と歯がぶつかり、絡めた舌からは鉄の味がする。


「ん、ん、ん」

「…っ、はぁ」

「んくっ、ぁ……えーす?」

「シャルム……」


 口を離して、シャルムの首筋に顔を埋める。


「シャルム……やっぱり無理だ」


 途端、スッとシャルムの顔から表情が消える。


「お前が好きだ。だからキスしてぇしハグしてぇしセックスしてぇ。でも、キスもハグもセックスも、全部、お前にしてやれることは全部、できるだけ優しくしてやりてぇ。お前を傷つけるのも、お前が傷つけられるのを見るのも嫌だ」


 好きなんだ。


 縋るようなエースの声が、寝室に響いた。




 ぐっ、と肩を押され、エースは顔を上げた。


「それこそ無理だよ、エース」


 先程とは打って変わった、無表情なシャルムがそこにはいた。


「俺はね、俺にひどくしてくれる人が好きなんだ。俺に痛みを与えてくれて、生きてるって教えてくれる人が好き。優しくなんてされたくないの」


「シャルム……」


「狂ってるでしょ?おかしいでしょ?俺だって自分の性癖が他人に理解されないことくらい解ってるよ」



 でも、どうしようもないんだもの。



 シャルムは、傷痕の多い身体の中でも特に目立つ、脇腹の大きな傷痕を愛おしそうに撫でながらそう言った。


「なら、なら俺が、お前のことを殴れば、乱暴に抱いてやれば、お前は俺の物になるのかよ。お前を傷つけなきゃ、お前は俺を見てくれないのかよ」


 エースは何かを堪える様に、ぐっと目をつぶった。


「そんなの、違うだろ」








「なら、やめる?」


「…え?」


「俺を好きなの。やめる?エースは俺に優しくしたいけど、俺はひどくされるのをのぞんでて、これはお互い譲れない。だったら、しょうがないんじゃないかなぁ」


「シャルム」


「それにいい機会だよ。こんな狂った変人はやめて、もっと普通の女性を好きになって、普通の恋愛をすればいいじゃない」


「シャルム、やめろ」


「そもそもさ、最初は興味本位だったんでしょ、俺のこと。周りにこんなマゾヒストいないから、」


「シャルム!!」


「可哀相で、同情して、好きになったつもりでい」


「やめろ!!!!」











 ゆらり、とベッドから落ちたシャルムがこちらを見て笑っている


「なんだ、できるじゃない」


 涙が、頬を伝って落ちた。


「ね、エース、好きだよ」


 だから、もっとひどくして?





 















 熱を持った拳が、俺たちの何かを壊してしまった。 

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あとがき
暗い・・・・。
どうしようもないマゾヒストに片思いするエース。





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