気の利くリーゼント?2
最近ギルの様子がおかしい。反抗期のせいか、以前よりそっけない態度を取られることが多くなったが、あからさまに避けられるようなことはなかった。ここ数日仕事が忙しかったのもあるが、こうも見事に顔を合わせることがないのは不自然だ。明らかに避けられている。
(だが、理由が分らないよい)
小さく溜息をつき、マルコは飲みかけのコーヒーを机に置いた。
「マールーコーさーん」
「黙れ、サッチ」
せっかく食堂の隅で静かにコーヒーを楽しんでいたというのに、面倒な奴が来た。じとりと睨みつけるが、サッチは頬を緩ませたまま向かいの席に座った。
「で?その後どんな様子よ、ギルちゃんは」
「あ?」
「またまたぁ。とぼけんなって!ぜーんぶ俺様のおかけなんだぜぇ?」
「さっぱり話が見えねぇよい」
そう言うと、目の前のリーゼントはひくりと頬をひきつらせ、もしかして失敗しちゃったか……?などとぶつぶつ呟いている。
「あ、俺、朝飯の片づけしてこねぇと」
と言って席を立とうとするサッチのスカーフを掴み、引き寄せる。
「説明しろよい、サッチ」
「は、はぃ……」
苛立ちを隠しもせずにギルの部屋へ急ぐ。この時間ならまだ2度寝を楽しんでいる頃だろう。
それにしても、余計なことをしてくれたサッチには腹が立つ。俺がギルを放って女に現を抜かすだと?馬鹿馬鹿しい。ここの所ナースと話し込んでいたのも、親父の新しい治療薬についてだ。
最近ナースと話している時に感じた妙な視線はもしかしてギルだったのかと今更ながらに気付く。
ギルが本気で俺を嫌がって避けているならしょうがないと暫く様子を見ることもできるが、こんなくだらない勘違いで避けられているのなら話は別だ。
小さくノックをするが、予想通り返事は来ず、そっと扉を開けて中に入る(何度言っても鍵を掛けない癖は治らない)。
毛布に包まり小さく寝息を立てる姿を見つけて、自然と今までの苛立ちが収まる。
ベッドに腰掛け、手の甲でその頬を撫でると、自身と同じ金色の睫毛が微かに震えた。
「ギル」
静かに呼び掛けると、まだ覚めきっていない虚ろな瞳がこちらを見つめた。
「にぃ……?」
寝ぼけているのか、昔のままの呼び方に頬が緩む。
必死に瞬きを繰り返しているが、なかなか眠気は収まらないようだ。
「まだ眠いかい…?」
「んぅ」
きゅ、と指先を握られ、毛布の中に引かれる。それに抗う理由もなく、ギルと一緒に毛布に包まり、その身体を抱き寄せた。
「いっしょ、ねる…」
「ああ。そうするよい」
背中を一定のリズムで叩いてやると、小さく喉を鳴らし胸元に擦り寄ってくる。そんなギルを見ていると、こちらまで眠気を誘われる。ギルの髪に顔を埋め、眼を閉じる 。久しぶりの2人の時間だ。今日くらい、こうしてゆっくり眠るのも悪くない。
ふ、と小さく息を吐き出し、本格的に眠りにつこうとした時、ギルがシャツを握りしめ何やらぐずりだした。
「にぃ……おれの、だも……」
耳を澄まさないと聞き取れないほどの小さな寝言に、思わず顔を手で覆う。
(まったく。やってくれるよい)
前髪をかき分け、現れた白い額に唇を寄せると、安心したように再び寝息を立て始める。
「俺はいつだって、」
お前だけだよい。
(ギルー、いい加減起きろー)
(チッ)
(は!?なんでマルコ!?)
(黙れエース。晩飯抜きだよい)
(理不尽!)
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