ピアス





 あか、あお、きいろ。
 様々な色に輝くそれら。 
 しろ、くろ、むらさき。
 店先に並ぶ小さな輝きは、どれだけ見ていても飽きない。


 「はぁ……」
 

 感嘆の息を吐き出すと、中から店主であろう男が出て来た。


「どれか気に入るものがあったかい」


 人懐こい爽やかな笑顔を浮かべて、喋りかけてきた店主は、男、と言うより、青年、と言った方がしっくりくるかもしれない。
 綺麗に並べられたピアスから目を離し、それに答える。


「どれも綺麗で……、迷ってたとこ」


 それぞれがそれぞれの色で輝き、その魅力を主張している。作りはどれもシンプルなものばかりだが、それがギルの好みにピッタリ嵌まっていた。


「そうだな、君みたいな綺麗な金髪なら、サファイヤやエメラルドが映えると思うよ」


 瞳も綺麗な碧眼だしね。
 そう言ってほほ笑む青年に、ふむ、と納得する。


「これなんかどうだい」


 差し出されたピアスは、深い青と緑が入り混じったような色をし、角度によって様々な表情を見せていた。


「人魚の涙と呼ばれている石でね、光の加減で青の深さが変わるから、海の雫とも呼ばれている」

「海の……?」

 
 言われれば確かに、コロコロと色を変えるそれはまるで海そのもののように思える。


「君にピッタリだと思うよ」


 そう言って、片側の髪を耳にかけられる。
 そこで、あれ、と青年が疑問の声を上げた。


「まだ穴開けてないんだね」


 カァ、と顔が熱くなった。穴も開けていないのに、ピアスを欲しがっていた事がバレて、何となく恥ずかしい気持ちになる。未成年の子供が、無理をして煙草を吸いたがっているような。


「か、家族がうるさくて」


 まだ開けてないんだ、とだんだん声が尻すぼみになってしまった。


「そう。こんなに綺麗な耳だもの。ご家族の気持ちも少しわかるな」

「……んぅっ」


 耳殻をゆっくりなぞられて思わず声が出てしまった。昔から、耳や首筋を触られるのは、むず痒くてどうも苦手だ。
 そんな俺を見て、青年は目を細める。なんだか先程と雰囲気が変わった様に感じるのは気のせいだろうか。


「良かったら僕の店で開けていくかい。普段はピアスの販売だけなんだけど」


 特別にね、と腕を引かれ、それは好都合だと店に入ろうとした時、反対から力強く引き寄せられ、ボスンと何かにぶつかってしまった。顔を上げると、少し怒ったような表情をしたエースがいた。


「エース!何してんだここで」

「ギル、帰るぞ」

「え、ちょ」


 何故だかわからないが不機嫌なエースは、青年を1度だけ睨みつけると、俺を抱えるようにしてズンズンと歩き出した。


「おっ降ろせよエース、俺まだピアス買ってないのに」


 片腕に抱えられたまま後ろへ首をひねると、苦笑いしている青年がひらひらと手を振っていた。それに手を振りかえすと、何だかエースがますます不機嫌になったような気がした。












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