06
 

あの日から、夜人はよく保健室に顔を出してくれるようになった。僕も今まで先生とずっと一緒にいたからすごく新鮮で、すごく楽しい。

でも夜人はアンチ王道くんのせいで疲れ切っていて、保健室でお昼を一緒に食べてる時もよくため息をはいている。そんな夜人に何かできないかと思ってここ最近僕は夜人のお弁当を作っている。はじめは遠慮していた夜人だけど僕がどうしても夜人の助けがしたいとお願いすると苦笑いをして許してくれた。

今日も保健室で先生と三人一緒にお昼ご飯を食べているんだけど、先生がすごく落ち込んでいる。

「あ〜も〜!!マジでなんなの!あいつ!」

「ど、どうしたんですか?」

きっと、アンチ王道くんの事だろうけど、こういうことは人に話した方が良いので聞いてみる。

「見てよこれ!」

そう言って先生が白衣の内ポケットから出したのはいつも先生が読んでいる文庫本だった。でも本にはところどころ黒いシミがついてしまっている。

「とうとうやられた!俺の机の上にコーヒーぶちまけられた!うー、なんで隣の机がアホホスト教師なんだ!」

話を聞いてみると、職員室の先生の隣の席であるホスト先生がアンチ王道くんの事が大好きで、職員室で好きにさせていたところ(ほかの先生方は何をしているんだろう)ホスト先生の机に置いてあったコーヒーが吹っ飛ばし、隣である先生にもろにかかってしまったらしい。幸いコーヒーは冷め切っていたためやけどはしなかったが白衣にいれていた本が汚れてしまったらしい。

「そんな…先生その本すごく大切にしてたのに…」

先生は僕がこの場所でお世話になる時からあの本を読んでいる。きっと繰り返し読んでいるんだろう。でもあの本を読んでいる時の先生はすごく楽しそうだった。

「う…ん…」

先生はそれっきり下を向いてしまった。

「ねぇ、夜人、その生徒ってなんで怒られないの?」

職員室の事もそうだけど、アンチ王道くんのせいで夜人ひとりでお仕事をしなきゃいけなくなって…

「それは…、副会長とか風紀委員長らが問題をもみ消すんだ。自分の親衛隊とかに後処理を任せたりな。」

「そう、なんだ。」

話してる夜人が悲しい顔をする。

それもそうだよね。前一緒にお仕事してきた仲間が今はそんなことをしてるなんて。

「まぁ、たまに見かけたときとかは声かけたりするけど。基本逃げられるな。このままじゃまずいなんてあいつらがきっと一番よく分かってるはずだ。」

そうやって、平気なふりして、みんなに心配かけないようにしてるの?夜人ひとりが背負わなきゃいけない事なの?
夜人に無理に笑ってなんて欲しくない。
この思い、夜人に届け!

「僕はずっと夜人の味方だからね!これからも毎日お弁当作るし、おしゃべりしよう?僕夜人といるの好きだし、あったかい気持ちになるんだ。最近はすごく体の調子も良くて、【声】が聞こえても違うことに集中すれば聞こえなくなるんだよ!僕、夜人と出逢って、わっ!…夜人?」

途中で夜人に体を強く引かれて胸に抱きしめられた。どうしたのかと思って顔を見ようとするけど、夜人はもっと強く僕を抱きしめる。

夜人の体はやっぱり落ち着く。周りが静かになって、僕と夜人しかいないみたいになる。

この感覚は好きだ。

「…ありがとう春陽。俺も春陽に沢山元気もらってる。よく笑ってくれるようになってるの知ってるか?俺、春陽の笑顔好きだから、お前はずっと笑っていてくれ。」

「ないと…うん。僕にできることなんて少ないけど、夜人がそう言ってくれるなら僕はずっと笑っていることにするね。」

「ちょっとー!お二人さーん」

隣からする声にバっと夜人から離れる。

先生いることすっかり頭から抜けてた!
今の聞かれちゃった!どうしよう恥ずかしい!

「せんせ、あの」

「もう二人とも眼福すぎてしみる!涙出てきそう!」

「あぅ」

「意味の意味のわからない事を言ってないでさっさと昼を食え。」

「対応違くない!?慰めてよー!」



ストレートに想いを伝えたり、すべてさらけ出すのは難しいし、恥ずかしい。

頑張って伝えて返ってきた言葉は、心臓をぶち破るくらいの威力がある。

それが嬉しいことか、悲しいことかは人それぞれだけど、

そのくらい自分の想いが伝わったのかと思うと、心がほんわりあったかくなるね。

だから僕は笑うことにするよ。


でも。













その日から夜人は保健室に来なくなった。



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