07
 


夜人が保健室に来なくなって一週間。
知り合ってからは二日とあけないで保健室に来てくれていたから僕はこの一週間、心にぽっかりと穴が開いてしまったような気分だった。

「先生、夜人元気ですか?…最近忙しいみたいだから…」

いつもと同じく先生とソファーに座ってお昼ご飯を食べている時、思い切って聞いてみた。

「あ〜…そうだね、すごい忙しそうだったけど、もうすぐここに来られるって言ってたよ」

「!!本当ですか!」

先生の言葉に僕の心はたちまち熱くなった。
良かった。僕の事嫌いになったから会いに来ないとかじゃ、ないってことだよね。

アンチ王道くんがまた何かしたのかな。早く、お仕事終わるといいな。
本当は僕にも何か手伝えることがあったらいいのにな。

また夜人とお泊りとか、ゲームとか…色んなことしたい。


早く会いたいよ。








「先生、僕帰りますね。」

「あー!待って送っていくよー!」

先生から夜人の事を聞いてから数日後の放課後、普通の生徒はまだ6時間目の途中あたり。
誰にも会わないような時間に僕は一足先に寮へと帰る。

「大丈夫ですよ。まだ他の人は教室だと思うし、今日は早く家に帰ってやりたいことがあるので早足で帰るので。」

実は今日夜人にお菓子を作ろうかな、と思っている。先生が夜人に届けてくれるって言ってくれたから。

本当は自分で渡したいけどね。

「んー、でも」

ガラっ

「せんせー!ケガしたー!!」

珍しくここの保健室に生徒がやってきたみたいだ。
幸い僕は彼の死角にいたから気付いてないみたい。

どうやらその生徒は指を切ってしまったらしく、ティッシュで指を押さえていた。

『最悪だー!あいつなんでビン割るかなー』

理科の実験か何かかな。

そんな生徒を見て先生はポツリと言葉をこぼした。

「なんでこっちの保健室に来るかな〜」

「は?いいじゃん別に。てかなんでここって来ちゃいけないの?」

あ。

それは、僕がここにいつもいるから…。
先生はこの保健室はあまり使わないよう、それとなく言ってくれているらしい。

とりあえず今は僕ここにいない方が良いよね。もとから帰るつもりだったし。

僕は保健室からそっと抜け出した。



夜人に教えてもらった抜け道を使えば誰にも会わないで寮まで行けるはず。
実はもう何度か、この抜け道にはお世話になっているが本当に誰にも会わない。

本当は少し、この道を使っていれば夜人に会えるかも、とか…思ったりもしている。

今日だって、もうすぐ寮へ着いちゃうけど夜人と一目でも良いから会えないかと期待してる。

ここを曲がればもう寮の目の前。
今日も夜人に会えなかった。

忙しい筈の夜人にあんなに毎日のように会えていたのが凄いことだったのかもしれない。

そうほんの少し肩を落として歩いていると曲がり角の向こうからなにやら騒いでいる声が聞こえてきた。

なんだろう。まだ授業中だよね。というか、この道を知ってる人ってどのくらいいるんだろう。

「ー!!っ、!!!」

曲がり角に近づけば近づくほど大きくなっていく声。
思わず体がビクついてしまう。

喧嘩か何かかと曲がり角の向こうを覗いてみるとそこにはずっと会いたかった、夜人ともう1人、誰かがいた。

夜人だ!!凄い久しぶりだ!
なんて声かけようかな、もう1人の人って誰だろう…

嬉しくって無意識に顔の筋肉が蕩けた。

でも当人たちはなにやら言い争っている様子。
それに近づいたからか、話の内容が聞こえた。

「だからッ!なんで夜人はそうなんだよ!」

「別に、ちゃんとお前と一緒にいてやってるだろ。」

「〜〜!違うだろ!俺たち恋人同士なんだから、き、キスとかっ!!」



え、


あの子、夜人の恋人…?

頭の中を何かでガーンと殴られたような衝撃が僕を襲った。


「はぁ、別にしなくたって恋人だろ、」

夜人が嫌そうな顔しながら言う。
そんな夜人の様子が気に障ったのか彼は、子供のように地団駄を踏む。

「いやだいやだいやだいやだ!!キスしてくんねぇと俺ここから動かねぇから!!」

「っ!ふざけんな、……ッチ仕方ねぇ」

困ったような顔をした夜人の顔がどんどん、少し小さな彼の顔に近づいていく。

あ、

僕の目が離れなかった、彼らから。

近づいた顔は、一瞬ゼロの距離になった。


「…これで満足かよ」

「おう!ありがとな!夜人大好きだぜ!!」

「あーはいはい、サンキュ、…ってもうこんな時間じゃねぇかよ!おい、早く行くぞ!」

夜人は腕時計を確認するとなにやら急いだ様子で寮の方へ彼と共に消えていった。



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