05
 




朝起きると、視界いっぱいに整った顔があった。
普通にびっくりして数秒固まった後、あぁ、そういえば昨日は夜人の部屋に泊まったんだと思い出した。

楽しかった。夜人と2人でゲームして、ご飯食べて、話も沢山して、一緒に笑えた。

また、一緒に遊びたいなぁ。

「っ、…ん」

夜人の瞼が震えて、目が少し開いた。次第に開かれていく目は僕を捉えると、一瞬動いが止まった。

「え…はる、ひ?……」

どうやら僕と同じでびっくりしているらしい。

「…あ。あー。…おはよ」

「ふふ、おはよう」

思い出したらしい。ちょっと間抜けな夜人、可愛いな。

さっき時計を見たけど、いつも僕が起きる時間より30分くらい早かった。やっぱり自分の部屋じゃないからかな。

夜人はもうすっかり目が覚めたみたいで、上体を起こし、携帯を見ていた。すると、寝起きのまったりした顔からどんどん眉間に皺が寄っていって、すっかりしかめっ面になってしまった。

なにか、良くない知らせだったのだろうか。

気になるけど、メールの内容とかって人に知られたくないって事もあるよね。

「ん?…保険医からのメール。お前を迎えに来るってよ」

「あ、え、そうなんだ…」

びっくりした…夜人ってエスパー?僕みたいに人の考えてることが分かるのかなってたまに思う。
でも、そうだとしたら夜人はちゃんと僕に言ってくれると思う。

「20分後に来るってよ。朝飯食べる時間はあるな。朝は俺が作るから、顔洗ってこいよ。」

20分後か…先生を待たしちゃ悪いし、顔洗って来よう。

「ありがとう!」

洗面所に行こうとベッドから足を下ろすと、そういえば靴下を脱いでいたことを思い出した。

靴下、靴下…あった。

ベッドの下に置いておいた僕のカーディガンと靴下をつかみ、床に座って靴下を履く。

「ん?」

視界の端に何かが映った。

ベッドの下になんかある。

「なんだろう」

そう思い手を伸ばすが、夜人は朝ごはんを作ると言って今はリビングのキッチンだ。

「勝手に見るのは良くないよね。」

少し気になったけど、人の持ち物を勝手に見ることは良くないことだと思い直し、カーディガンを羽織り部屋を出た。


***

フライパンに二つの玉子を落とし、空いている場所にベーコンを二枚置く。一応一通り家事はできるため簡単なものなら作ることができる。

春陽は朝はあまり食べないタイプだろうか。一応トーストを4枚焼いてあるが、一枚だけでよさそうだったら自分が食べれば良い話だ。

ーカチャリ

音のした方を見ると春陽がカーディガンを羽織り寝室から出てきた。

キョロキョロとしているので、洗面所の場所を教えてやると、寝起きのポヤポヤとした顔でありがとうと言って、洗面所へ向かって行った。

「…可愛いな。」

弟にしたい可愛さだ。
いや、ペットでもいいかもしれない。

春陽といると癒されるな。

「あ、」

ベッドサイドに携帯忘れた。
保険医から連絡が来るかもしれないから手元に置いておいた方がいいだろう。

あー。もう少し一緒に居たかったな。また部屋に呼ぼう。溜まった仕事にひと段落ついたら保険医に言ってまた遊びに来させよう。

そんなことを考えながら寝室へ向かう。お目当ての携帯は思っていた通りベッドサイドに置いあった。

「ふー…ん?…っ!!」

ベッドの下から見えるものに俺は驚愕した。

音速でソレを蹴ってベッドの奥へと移動させる。
こめかみを伝う汗…冷や汗だ。

あれは男子高生なら持っているソレだ。親に男子高なんかに入れられた俺だが、ホモになり下がったりしていない。
断然ノーマルだ。これくらい許せ。

そんな俺が何故こんなに焦っているかというと、ソレを春陽に見られた可能性があるからだ。
春陽なんてああいった俗物に触れたことすらなさそうだ。

見られてないと、自己解決させようとしていると後ろのドアがカチャリと開いた。そこから春陽がひょこっと顔を出すものだから、なんだか可愛くて笑ってしまう。

「なんで笑うんだ…」

ムスリと膨れる春陽がさらにおかしくて、また笑うと「もう!」と言いながら扉を閉めてしまったので慌てて部屋から出ると途中だった朝食の支度をしてくれる春陽にまた笑顔になった。


***


ぴんぽーん

春陽と朝食を食べながらゆるやかに会話を楽しんでいると間延びしたチャイムが鳴った。

「先生かな」

「そうだろうな。支度大丈夫か?」

「うん。もともとカバンしか持ってきてなかったから。」

そう言ってカバンをもって立ちあがり、玄関へと向かう春陽の後ろをついていく。
まだ学校に向かうには早すぎるし、支度をしていないので俺は見送りだけだ。

「また来いよ。」

後ろから靴を履く春陽に言うとポカンと固まってしまった。

大丈夫か?と声を掛けると覚醒したように慌てだした。

「え…あ、うん!!」

もちろん!と言って笑った春陽の笑顔。ああもう。なんでこんなに可愛いんだ。

1人心の中で葛藤していると靴を履き終えた春陽が玄関のドアを開けた。

するとそこには昨日も見た顔。

「おはよー。ちゃんといい子してたかい?」

朝だというのにもう白衣を着てニヤつく保健医。

「こ、子供じゃないです!」

春陽とそんなに背が変わらない保険医ははたから見ると兄弟のようだ。

からかわれて顔を赤くした春陽を保険医が笑う。

「会長ー、ありがとね」

「いや、こっちも楽しかったし、またこういうことあったら言ってくれ」

春陽の様ないい奴と友人になれて良かった。

「おぉ!!!なに!!!なんかあったの!?!?」

朝のほのぼのとした空気が一変、保険医によって騒がしくなった。
いつもの事だが、今は状況が違う。ここは生徒の寮だ。誰か来たりしたら 春陽が辛いだろう。

「うるせぇぞ。」

「友達になったんです。」

俺の隣で笑顔でそう言う春陽。
なにこれ、めっちゃ嬉しいんだけど!

友達だなんて言われて喜んだのは初めてな気がする。

「ほほー」

「ほら、余計な詮索してねぇで早く行けよ。他の奴出てくるぞ。」

廊下に出ると、朝早いからだからだが、静かな廊下だった。

「じゃあな、春陽」

「うん、またね。」

手を振る春陽に振り返して見送った。

春陽と保険医が見えなくなると顔の横で上げていた手がなんだか照れくさくって急いで部屋に入った。



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