04
 

「あー!美味しかった!ご馳走様!」

「良かった!…お粗末様です。」

僕は夜人にハンバーグとにんじんスープを作った。にんじんって嫌いな人が多いから、もしかしてって思って夜人に聞いたら全力で嫌いなものは無いと言われた。すごいな。僕ピーマン苦手なんだよね。なんでも食べられるってかっこいい。

「片付けは俺がやるから春陽は休んでな」

空の食器を片付けようと椅子から腰をあげると夜人が手早く皿を重ねてしまった。

「いや、食材使わせて貰ったし、僕が…」

「それこそ、作って貰ったんだ。それに、春陽熱っぽいだろ?」

「え?」

言われて自分の顔を触る。
確かに少し暑い…かも?今日は色々あったから疲れちゃったのかも。

昔からよく夜に微熱を出して、それをこじらせ肺炎になりかけたこともある。

「俺のベッド使っていいから先寝てろよ。」

「えっ!いや、それは大丈夫だよ!夜人が寝るところ無くなっちゃうし、僕はソファとか……」

はぁ、と夜人が少しわざとらしい溜息を吐く。

「遠慮は禁止。それに俺も同じベッドで寝るから、それで良いだろ?」

「あー…う、うん。分かったよ。えと、じゃあ、お邪魔するね。」

「おー、そこの右の扉な。」

最後にコクリと頷いて部屋に向かった。

友達は一緒のベッドに寝てもへんじゃないのかな。

春陽は首を傾げつつも寝室への扉を開いた。

「わぁ…」

広い…大きい…

おそらくキングサイズであろうベッドが壁際に一つ、それと勉強机、部屋にあったのはそれだけだった。

「っわ、」

ふらりと立ち眩みで転びそうになった。…早く寝たほうがいいかも。

僕は来ていたカーディガンと靴下を脱いでキングサイズのベッドへそろりと入った。

…なんか夜人の匂いするかも。

「ふふふ」

「何笑ってんだ?」

「ふぁ!?!」

部屋の入り口に立つ夜人。その顔はにやけていた。

聞かれた!!

「や、あの…」

「はは。俺も風呂入ってから寝るから、先にちゃんと寝てろよー」

夜人は片手に着替えらしきものを持って部屋を出て行った。

はぁ…なんかドキドキしてきちゃった。
ちゃんと寝られるかな?

「んー…………………スー」

寝られました。



***

やらかした。
人付き合いに慣れていない春陽は冗談を冗談と思わず、そのまま受け取ってしまった。

正直、同じベッドは予想外だ。

ーちゃぷん、

「はー」

湯船に浸かり、考える。

この部屋に来てからの春陽は普通の男子高校生と一緒だった。来るまではしきりに周りを伺い、警戒心丸出しの猫のようだったけど。

ゲームして笑って、会話も弾む。

「どうしたものか…」

杉春陽という人物にハマっている自分がいる。しかもどっぷりと。
普段役柄や、見た目のせいで崇拝や敵視の的になっている自分だけど、春陽といるとそういうものから解放される。現にすっかりあの問題のマリモの事をすっかり忘れていた。……あぁ、思い出してしまった。

あのマリモがこの学園に来たのはつい一週間前だ。副会長に迎えに行かせ、ついでに案内や説明も頼んで、帰ってきたら顔が緩みまくっていた。普段氷の女王と呼ばれるあいつが。
それに興味を持った会計や、書記、庶務。俺以外の生徒会が次の日の昼に食堂へ見にいく計画を立てていた。俺はそういうのは性分ではないため断った。

次の日昼。生徒会で仕事をしていると、親衛隊からメールがあった。
そこに書かれていたのは信じられない内容だった。

『生徒会の方々が転入生と接触し食堂が混乱しています。』

「ッチ…行くか。」

面倒起こしやがって。その時はそれくらいに思っていた。


「…おいおい、なんだよこれ。」

面倒くさいと思いながらも食堂へ到着した俺が見たのは中央辺りで1人の生徒を囲むようにして立つ生徒会役員達と、それに対峙するように立つ各親衛隊隊長だった。

ここからでも聞こえるデカイ声を出しているのはマリモの様な頭をした小汚い生徒だ。

「お前らなんなんだよ!!!邪魔すんなよ!!」

「邪魔とかではなく…副会長様、このような人の大勢集まる場所ではこのようなことは…」

「俺を無視すんなよ!!」

ードンっ!

「っ!!」

あー…

「おい、お前何をしている。」

「え!あ!お前かっこいいな!名前教えろよ!!」

「か、会長様…」

「大丈夫か?」

マリモによって後ろへ倒れかけた副会長親衛隊隊長背中を支えていた手を離す。

周囲は俺の登場に驚き、騒ついている。

副会長親衛隊隊長は顔を赤らめありがとうございますと言った。

顔が赤いのは親衛隊隊長である自分が役員に助けられたことを恥じているのだ。うちの親衛隊隊長をよく言っている。
影で好きな人が幸せに過ごすことが出来るようにするのが自分達だと。

「だからっ無視すんなよ!!俺の事無視したらダメなんだからな!!」

うるさい。
風紀は一体どうしているんだ。

後ろにいる会計らはニコニコしながらマリモ見つめている。いや、こりゃ目がハートだ。

「幸(さち)〜会長なんていいから俺たちと遊ぼ〜」

「そうです。美味しいお菓子がありますから行きましょう」

おいおいまさか生徒会室に行くんじゃないよな?

「え!お菓子!食べたい!!」

幸とか言うマリモはぴょんぴょん跳ねて会計達の元へ行く。どうにか俺から興味が無くなったみたいだ。よかった。

役員らは行きましょう行きましょうなんて言いながらマリモの腰を抱き食堂から出て行った。

途端、再びざわざわとし出す食堂。
取り敢えずこれをどうにかしよう。

「あー、すまない。役員が迷惑かけた。注意しておくから食事を再開してくれ。」

今から生徒会室に行くとろくなことが無さそうだから教室へ行くか。途中で風紀にもこの事を報告しておこう。

俺はそんな事を考えながら食堂を去った。


そして、数日後。事態は思ったより最悪な方向に進んでいた。
俺以外の役員の職務放棄加えて生徒会室入り浸り。
風紀委員長もマリモハーレムの一員化。

最悪だ。
今があまり忙しい時期でなくて本当に良かった。
仕事は自分の部屋へ持ち込んでやっている。なんとか1人でまわせている。

そんな事よりも、マリモが俺を見かけるたびに話しかけてきてうるさい。他の役員は睨んでくるし、マリモはひっついてくるし。

「ふー…」

風呂を出たらリビングで少し仕事をしてから寝よう。



***

「ん…ぁれ?」

夜、目が覚めてしまった。喉が酷く乾いている。熱のせいだろうか。

隣を見るとまだ夜人は寝ていない事に気づいた。

今何時だろう。

僕はベッドから降り、リビングへと向かった。
リビングからは光が漏れていた。

ーカチャ

「ん?どうした?」

「ないと…」

夜人の前には沢山の書類。手にはペンが握られていて、その側には判子が置いてあった。

「生徒会のお仕事?」

「まぁな。少しやっておこうと思って。」

ちらりと時計を見るともう日付けが変わろうとしている。お風呂を出て今までやっていたのだろうか。
…それなのに俺だけ寝てた。

「て、てつだう…」

ひょこひょこと夜人に近づき隣の席に座る。

「春陽は熱があるだろ?ちゃんと寝てないと駄目だぞ。」

夜人の大きな手が額に触れる。
冷たくて気持ちい。

「でも…こんな沢山。」

「こんくらい全然平気。…今あったかいミルク淹れるからそれ飲んだら寝るんだ。…分かった?」

夜人は手伝わせてくれそうにない…
邪魔になったら悪いから寝るしかないのかな。

席を立った夜人の目を盗み書類を手に取ってみた。

あれ?会長って会計報告書も作るのかな?僕はそういうのは会計の人がやるんだと思ってた。
隣の書類の束だって…夜人、する必要のない仕事って言ってたけど、もしかして全部1人でやってるのかな…?

「っな、夜人っ!」

思わず少し大きな声を出して顔を上げるとすぐそこにマグカップを持った夜人の顔があった。

わわわ!ち、近いっ

「っと、すまん。…なんだ?」

「これ!…夜人、1人でお仕事全部やってるの?」

書類を指差し言う。
夜人は少し眼を見張るとふわっと優しい顔をした。

「俺は生徒会長だしな。」

「でも!1人で全部って変だよ!夜人倒れちゃうよ!」

最初に保健室であったときだって疲れた顔してた。
アンチ王道くんのせいで生徒会の人もお仕事をしていないと先生は言ってた。そのツケが全部夜人に回ってきてるなんて、そんなの絶対おかしいよ。

夜人は優しいから、他の人の分までちゃんとやってるんだ。本当は全部投げ出したって良いのに。

俺がそう言っても夜人は優しい顔をしたままで僕の話を黙って聞いてた。

「…春陽、」

ふいに名前を呼ばれ返事をしようと思ったら夜人に抱きしめられてしまった。

「…夜人?」

夜人の顔が見えない。

「ありがとう。そんなこと言ってくれるの春陽くらいだ。」

「そんな事ない。夜人は優しいからきっと味方が沢山いるはずだよ。だって生徒会長は選挙なんだから、みんな夜人が好きだからみんな夜人を生徒会長にしたんだよ。」

見えない夜人の顔が悲しみで歪んでいるような気がして必死にまくしたてる。

「ありがとう、でも本当に大丈夫だ。限界が来たら理事長に言ってやる。」

僕もぎゅうっと夜人を抱きしめる。男友達同士でこんなの変かもしれないけど、したいと思った。

「うん…僕、ねつ、さがったら…てつ…だ…」

ゆっくり落ちる瞼。
あったかい夜人の腕の中で眠りの淵に落ちていった。


「…ありがとう。」


***

腕の中で眠る春陽。
そういえば熱が出ていたのを忘れていた。

今日はもう寝よう。
春陽に心配されないように。

俺は俺の寝間着を握りしめる春陽少し微笑みベッドへ向かった。



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