03
 

夜人と保健室の外へ出た。


どうやらお昼はとっくに過ぎ、今は放課後らしい。


それでもいつも帰る時間より、少し早く、保健室からでてすぐにどこからか話し声が聞こえてきた。


どうしよう、夜人に迷惑かけたくない。でもこのまま寮へと向かっていったら絶対に【声】は聞こえてきてしまうだろう。

きっと夜人に触れたら、【声】は聞えなくなるだろう。ここは友人として、話すべきだろうか。

「な、夜人」

ゆっくりと僕の少し前を歩いていた夜人が立ち止り、振り向く。

これを言ったら引かれてしまうだろうか。

触れて、いいですか。だなんて。

「どうした?」

せかすわけでもなく、聞いてくる夜人。僕はなかなか言いだせずに下を向いてしまった。


すると、一つ、二つ。足音が聞こえたかと思うと夜人の手が僕の右手を握った。

「っ!」

「怖いなら、そう言え。…行くぞ」


「う、うんっ!」


夜人はなんでこんなに優しいんだろう。


僕は結局自分からは何一つ行動できていない。



また今度、言おう。今はこの手があるから、いいよね?


***



道中、夜人はなるべくひと気のない道を選んでくれて、ほとんど人に会うことはなかった。会ったとしても、僕は何も聞こえることはなかった。夜人がずっと手を繋いでくれていたから。



それにしても、あんな裏道があったなんて知らなかったな。後で改めて夜人に聞いてこれから使おう。

寮の建物へ入るとエレベーターに乗った。夜人は迷わず最上階のボタンを押す。

そうか、夜人は生徒会長だったよね。

エレベーターの中でも手を繋いでいてくれる夜人を横目で見ながらぼんやりと思う。

最上階は生徒会役員と風紀委員のフロアになっていて、一般生徒は許可がないと立ち入ることはできない。最上階のボタンは、生徒会役員と風紀委員の持っているカードキーを通さなければ反応しないようになっているから。



―チン

「春陽、行くぞ。」

「うん!」


***



「やっぱり、広いんだね」

「まぁ、そうだな。」



夜人の部屋となっている玄関へ入ると高級ホテルのスイートルームのような景色が広がっていた。

僕の部屋も広いと思っていたけど、これは、規模が違う。

夜人にリビングに通された僕はぼうっと部屋を見回す。

シンプルだけど、ところどころ夜人の趣味や、好みが伝わってくるインテリアに自然と頬がゆるむ。

どうやら意外にも車が好きみたいで、模型などが棚にきれいに並んでいる。

「春陽?今お茶入れるから、ソファに座ってな」

僕は「はーい」と小さく返事をし、部屋を見る作業を再開させた。



コトン コポコポ



夜人のお茶を入れる音だけが部屋に響いてる。

僕はこの部屋を数少ない落ち着くことができる部屋だと認識した

部屋のさまざまな車の模型に見惚れているとソファの前のローテーブルにコトリと暖かいお茶が置かれた。

「ありがとう」

「どういたしまして…何を見ていたんだ?」

僕はふふっと笑って、車、と答えた。


すると夜人は少し恥ずかしそうに、好きなんだ、と言った。

「意外か?」

夜人がそんなこと聞いてくるから、僕はまたふふっと笑った。

「少し、でもわかるよ。僕も車とか、建物とか、見ているの好きだから。」


「俺もだ。一緒だな」


夜人がニコリと笑いながらそう言うから、なんだか照れくさくなって僕も笑った。











***



「ゲームをしよう!春陽!」

「え、」

お茶を飲みながらのんびりと会話をして、僕がトイレを借りて、再びリビングへ帰ってくると、部屋の大きなテレビの前に座りゲーム機をいじる夜人が顔を上げてそう言った。

「その顔だと、ゲームとかしたことないだろう。」

全く、その通りだけど、すごく突然だから僕は今驚いている。

でも次の瞬間には笑顔で「するっ!」と言っていた。

さっきから夜人の意外な一面ばかり見るからいちいち驚いてしまう僕だけど、それが夜人がありのままで接してくれている証拠だって思うとどんなことだって喜びに変わった。

いつものように【声】が聞こえてこないのもあるのかもしれないけど、僕は普通の男子高校生のようにその瞬間瞬間を楽しんでいた。





***



「おい…春陽、本当にやったことないんだよな、ゲーム。」

「う、うん。」

テレビゲームの中でとんでもないことが起こっていた。

夜人が出してくれた沢山のゲームのカセットの中から耳にしたことのあった車で競争をするゲームを選んだ。自分の好きなキャラクターを選び、好きなコースを選択した。

僕は緑の車、夜人は赤い車。

スタートの合図で車は動き出し、僕はコントローラーを握り、よくわからなかったのでがむしゃらにボタンを押し続けた。

するとなんと超レアなアイテムをゲットし、横にいた夜人の赤い車をふっとばし、気付けば一位でゴールしていた。

なんてことが十数回、起こった。

「なんだ…?春陽の運が強いのか?いや、俺が弱いのか…?」


夜人は頭を抱えぶつぶつと何か言っている。

よくわからないにしても、ゲーム未経験者である僕が経験者の夜人に勝ち続け、夜人のゲームへの自信に傷をつけてしまったことはわかった。


「ご、ごめn…「次だ!次はこっちのカセットだ!」…え?」

何やら目をギラギラとさせた夜人に違うカセットを握らされ、困惑しながらも頷いた。



***



「あー!!!なぜだ!あと少しのところで絶対に春陽に逆転される!」



次に始めたのは先程までやっていたゲームのキャラクターのパーティーゲームバージョンで、僕はさっきと同じキャラクターを選択しゲームを始めたんだけど…


何度やっても僕のところへ星が舞い降り、ミニゲームもがむしゃらにコントローラーを動かしていたらいつの間にか一位でゴールに、総合得点でも僕が一位になってしまった。やっている最中何度も夜人の顔を立てようと、手を抜こうと試みたがやり方がいまいちわからない中、何をすれば手を抜くことができるのかわからないし、しまいには手を抜いたことが夜人にバレて、くすぐりの刑というものを執行された。

あれはほんとに笑い死ぬかと思った。

パーティーゲームは一回がそれなりに長く、何度もやった結果、なんともう夜の八時だった。

最後の勝負も僕が勝ち、夜人は今、カーペットに仰向けに寝転び、あーだか、うーだか、言っている。


「夜人―?大丈夫?水飲む?」

一緒にゲームを長時間やった僕らの距離は確実に縮まっていた。


「…頼む。」

てこてことキッチンへ行き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し夜人のところへ持っていく。

夜人はもう寝転んでおらず、ゲーム機を片付けていた。


「もうやらないの?ゲーム」


僕がそう言うと夜人は肩をビクッとさせ、小さな声で、「きょ、今日はもうやめておこう。」と言った。僕はその言葉に、次があることを読み取ると、喜びで満ちた。


「それより、腹空かないか?この時間じゃあ混んでいないだろうし食堂へ行かないか?」

「食堂…」

食堂は沢山の人が集まる場だったから僕は徹底的に避けてきていた。

行ったところで食事どころではなくなってしまうのは目に見えていたから。

「…ちょっと、こわい、な」

僕がそう言うと、夜人は。

「そうか、ちゃんと言えたな。」


「え?」


思ってもみなかった夜人の返事。

「ここへ来る前はそういうことすぐに言えなかっただろ。」

そう、僕は、夜人に迷惑がかかるかもって、まっさきに考えて、言いたかったことを言えないでいた。でも今は迷惑なんて、考えもしなかった。


「遠慮しすぎだったんだよ、春陽は。も少し自己中心的になった方が良い。」

夜人の言葉が胸に染み込む。

自己的になった方がいいなんて初めて言われた。僕は、僕のせいで誰かが不幸になったり、嫌な気持ちになるのが怖くて、自分の事を後回しにし過ぎていたのかな。【声】は真実しか伝えてこないから、僕は知らないうちに随分と臆病者になっていたんだ。


「うん…僕頑張ってみるよ」


せめて、こんな風に言ってくれる夜人の前では。


「ん。…じゃあ夕飯はどうするか、俺がテイクアウトしてきてもいいが。」

「僕が作るよ!…料理は毎日してるから」

夜人に僕の料理を食べてもらいたい!
そう思った。

「本当か!一応冷蔵庫に材料入ってると思うから、それを使ってくれ!たりないものは俺が買って来よう」

そう言う夜人と一緒に冷蔵庫へと向かい中をのぞく。

玉子や、牛乳、お肉や野菜…夜人も最低限の料理くらいはするらしい。


「平気そうか?」

「うん!僕頑張るから、夜人、待っててね!」


「わかった」


おいしいものを作ろう。

大切なことを気付かせてくれるこの優しい彼に



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