俺の声は彼のもの | ナノ

8 紺side

紺side

食堂から部屋に戻ると日和ちゃんは自分の部屋へ入っていってしまった。少し前だったら二人でリビングでのんびりするのに。

日和ちゃんが今どんな状況にいるのか、僕は詳しく知らない。游洛先輩達も相手が手強いと言っていた。

僕も自室へ入り、約束した通り電話を掛けた。

ぼーっと部屋の所どころにあるBL本を眺めながら、電話の主が出るのを待った。

数コールの後、もしもし?という声に視線を手元に戻した。

『……どうだった?』

「うん。ちゃんと聞いてたし、何か考え込んでる感じだったよ。」

先ほどまでいた食堂の事を思いだしながら答える。
僕の言葉をゆっくりかみしめるように考え込んだ遊洛先輩。

先輩がこのことを話してきたのは今日の放課後だった。LHRが終わってすぐ教室を出て行ってしまった日和ちゃんを見送り、自分も用も無いし寮に帰ってBL本でも読もうと席から立ち上がった時、游洛先輩が来たのだ。





「あれ?游洛先輩、どうしたんですか?というかなんだか久しぶりな感じしますねー」

いつものようにへらへらと笑いながら近づくと游洛先輩の顔が真剣だったのですぐに日和ちゃん関係の事だと悟った。

「ちょっとついてきてくれるか?」

こんなセリフ言われても可愛い子はついていっちゃだめだよ!俺は游洛先輩だから付いて行くんだから!そもそも僕は可愛くない。(紺は普通に可愛いです)
こんなセリフいつもだったら萌えの材料にして騒ぐとこだけど、大切な親友が関わっていることだからそんなことはしないよ!
僕は一つ頷いて游洛先輩の後に付いていった。そしてついた場所は風紀室だった。いつも倒した加害者などを連行してくる時はドアの所までしか入らない。事情徴収もその場で話してしまうので中に入ったことはない。
游洛先輩はノックもせずに扉を開け、中に入っていってしまった。僕も一瞬止まりはしたけど、小さな声で失礼しまーすと言って中に入って行った。

中は僕が読んできたBL小説で想像していたようなつくりをしていて、流石にちょっと興奮した。
游洛先輩は風紀室中央にある来客用のソファに座っていた。その向かいには風紀委員長の上条先輩が座っていた。人払いをしたのかほかの人は誰もいなかった。

「よう。体育祭以来だな。」

そう言ってきたのは委員長。僕は適当に挨拶をすると游洛先輩の隣に座った。

「んで、ここにお前呼んだのは何でだかわかるか?」

「日和ちゃんの事でしょ。なにか分かったの?」

游洛先輩が聞いてくるから答えたけど、なんだか二人は顔を見合わせて驚いているみたいだ。

「お前、日和の事となると本当敏感だよな。」

「決まってんじゃん。日和ちゃんの事、大好きなんだからさ」

そう、日和ちゃんは僕の親友。僕の趣味も引かないで(?)ずっとそばにいてくれる。勿論日和ちゃん以外にも友達はいる。でも、趣味のこととか、部屋に大量にBL本があるなんて言っていないから。

「二人だって好きなんでしょ?」

そんな日和ちゃんに想いを寄せているであろうこの二人。委員長の方は体育祭からっぽいけど游洛先輩は前から何かと日和ちゃんに構っていたのですぐにわかる。でもいまいち日和ちゃんには伝わっていない。それは日和ちゃんが鈍感なのもあるけど、言葉が足りないのだ。

キスや、抱きしめただけじゃ、気持ちは伝わらない。

「まぁ」

「そうだな」

認めた!あーもう、この人達これからどんどんアピールするんだろうな。
こういうのって口にしたら最後、気持ちがどんどん溢れていくもんだし(BL小説から学んだ)

「だから僕なんでもするから。なんでも言って、でも絶対日和ちゃんを助けてよ…」

前のように、普段はつっけんどんだけど、ふとした時にふんわり笑う日和ちゃんが見たいんだ。

ギュッと固く握ったこぶしを太ももに押し付ける。そうしていたら頭の上にふわりと何かが乗った。一瞬何かと思ったけどそれは机を挟んで向かいに座っている委員長の手だと分かった。
そして数回ぽんぽんと頭を優しく叩かれた。

「よし、約束してやるよ。ぜってぇ助けてやる。」

うわ…

「イケメンだ…」

「…っははっ!今頃気付いたのか!お前面白いやつだな!」

思わず口から出てしまった言葉を拾われてしまい赤面してしまう。

だってなんか絵に描いたようなイケメンなんだもんよ。こりゃ部屋の前に行列ができるわけだよ。納得納得。

なんだかこの流れがいやだったので游洛先輩にそれで?と言って話を戻す事にした。

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