俺の声は彼のもの | ナノ

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完全復活した俺は放課後、図書室に来ていた。無駄に大きくて、無駄にジャンルが多い。噂によれば18禁すれすれの漫画とかも置いているらしい。司書さんは何をしているんだ。

そんなところに出向いたのには訳がある。

今日の朝、スマホに差出人不明のメールが来た。俺はそれを見て、あぁ、きた。と思った。

南からのメールだった。内容は今日の放課後図書室に来るように。というものだった。

きっとあの事だろうと、気が重くなる。
でも、やらなくてはいけない。と気が引き締まりもした。

指定された図書室の一番奥へ。ここは先生が授業で使うような本ばかりで生徒は滅多に近づかない。実際、俺は来るのは初めてだ。

人気が無いのを再確認しながらそこへ向かう。

この学園にしては埃っぽい空間をドキドキしながら歩いた。




「やぁ」

窓辺に腰掛ける男がそう言った。最初、逆光で誰だか分からなかったけど、足を止めずに歩み寄ればそれが南だと分かった。

「どうも。」

最後に見た時と全く変わらない笑みを浮かべていた。

「ここに、場所のデータが書いてあるからそれを見て盗んできて。パスワードも書いてある。」

南は黒のスラックスのポケットから折りたたまれた一枚の紙を取り出して差し出してきた。俺は素早くそれを受け取ると紙を見た。

そこには言われた通り、生徒の個人情報がある場所と、パスワードが書かれていた。

「…パスワードなんて、なんで知ってるんだよ」

一応この学園はお金持ちばかりだ。だからセキュリティだってかなり厳しくなっているはずだ。まさかプロでも雇ったのだろうか。

「噂があってね。個人情報を管理しているのはここの理事長なんだよ。で、パスワードは理事長の大切な人の生年月日。」

理事長って言ったらあのここに来た時あった人か…紺みたいなことを言っていた。ていうか、生年月日とか不用心過ぎやしないか?王道じゃないか。

「教師みーんな知ってるのに誰一人持ち出さないんだよ。ここの教師はぽやぽやし過ぎ。使えるものは使わないと。」

「…」

初めてこの人の悪らしいところを見た気がする。なんだかんだ言って笑顔だったし。だけど今のは細められた目が凄く鋭かった。あぁ、この人、悪い人だって思った。

「まぁ、それは置いておいて、よろしくね。この前言った通り期限は今度のテスト最終日まで。」

分かってると呟いてその場を立ち去ろうとするが前に現れた男のせいでたちどまることになる。

「柿本…」

目の前に立つのは南の弟である、柿本豪だった。
俺はこいつにまんまと騙され、南のもとへと誘導されたんだ。もう騙されないぞ。

ぎりりと柿本を睨み付けてやる。

「豪を監視に付けるから。他のやつに話したら…わかってるよね?」

いつの間に南が真後ろにいて、たじろぐ。

「監視なんて…俺は人に言ったりしない!」

「まぁ、さ。君の周りには大物が多すぎるんだ。下手に動かれると困るんだよ。」

「兄さんの言うこと聞けよ。ぶっとばすぞ。」

柿本の低い声にせ背中がひやりとする。
二人から距離を置くため後ろに一歩動く。

「言う通りにしてくれれば何もしないからさ。…豪、よろしくね」

南が妖艶な微笑みで柿本に言う。頬を赤く染めながら南にすり寄る柿本。

だいぶ引く。

「じゃ、俺もう帰る。あんまいると怪しいだろ」

そう言い訳残し早足で図書室の出口へ急ぐ。
もし人に見られていたら怖いので、うつむき加減で歩く。すると本棚の陰からにゅっと足が出てきた。
ぶつかる。と思ったがその人は出しかけていた足を引っ込めた。

頭上から聞きなれた声がする。

「無瀬くん!?」

我がクラス委員長土岐くんだ。

「こんなところで珍しいね。探し物かな?」

土岐くんは優しい声尋ねてくる。図書室にいるんだから普通本が目的だと思われるよね。
でも実際は教師の南と密会をしていたなんて知ったら土岐くんはどう思うだろう。

俺はポケットからメモ帳を取り出し筆談をする。

『本が読みたくて。土岐くんのオススメある?』

俺がそう書くと土岐くんは笑顔で頷いて案内してくれた。俺はその後に続いた。

土岐くんが紹介してくれた本はあまり本を読まない俺でも読めそうなコミカルな内容で、ちらりと教えてくれた内容に引かれて借りることにした。

俺が本を手に図書室を後にしようとすると土岐くんは送るといってくれて、そんなの悪いし、大丈夫と断ったが、なぜか両手をワキワキさせ、髪に視線を送ってくる土岐くんに笑顔で否定されて、不本意ながら送ってもらうことにした。

返事ができない俺の隣で俺が風邪で寝込んでいた時の事を色々と話てくれて、自然と笑顔になった。


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