俺の声は彼のもの | ナノ

4

部屋に戻った俺はまるで沈むように眠った。考えなくてはいけない事や、やらなくてはいけない事。そのすべてを整理するために。
次に目を覚ました時、俺は最低なやつになるんだ。
もう、大丈夫だ、覚悟はできた。


瞼越しにぼんやりと光が見える。
部屋の電気だろうか。なんで付いているんだろう。

「ん、っ」

なんだこれ、喉が熱い。いや、顔全体に熱風を浴びているような感じ。体もうまく動かない。口から出る息も熱い。
とにかく暑く感じて、重く掛かっていた布団をベットから払い落とす。

「っ!?日和ちゃん!!ちゃんと布団掛けてなきゃ!」

慌てた様子で部屋に入ってきたのは紺。その手には湿布のようなものが握られている。
紺が言っていることがうまく頭に入ってこない。ぼぅっとする。
せかせかと先ほど俺が押しのけ、ベットの下に落ちてしまっている布団を広い俺に掛ける。暑い。

「こ、ん…ぁ…」

「うわぁぁぁぁ!!喘ぎ声!?それ!!じゃなくて!!喉?つらい?今水持ってくるね!」

そう言うと持っていたシップ…冷えピタを俺のおでこに貼ると部屋から出て行った。

忙しいやつ。
そう言えば今は何時だろう。
そう思い、手探りで枕元にある充電器に繋がれた某林檎の会社の俺のスマホを手に取る。
確認すると、俺は半日寝ていただけらしい。午後五時。

「ぁ…」

そういえば上条委員長に南の事伝えないと。本当だったら今日、会うはずだったのだ。
体育祭のときに交換したアドレスをタップしメールを送る。

『例の件ですが、体育祭の後に解決してしまいました。詳しいことはまた学校が始まってからでいいですか?』

送信っと。
こんなこと打ったけれど、本当のことを言う気は無い。
とりあえず適当にからかわれただけで、特に話もしなかったってことで。

piririr...

「わっ!!…上条委員長?」

スマホの画面を見れば上条委員長の文字。
しかも電話だ。
俺は声が出ないことになっているから電話なんてあまりしないからなんか緊張する。

深呼吸を一つして通話ボタンを押した。

「はい」

『あ?なんか声変じゃねぇか?』

開口一番にそれかよ。
と呆れながらも、実は熱が出ているということを話す。

『熱か…。無理しすぎたんだろ。しっかり休めよ。…っと、それとさっきのメールの事なんだけどよ、解決したってどういうことだ?』

「それは…実は遊洛先輩と上条委員長と別れた後、急に引き止められて…それで明日は用ができちゃったからって言われたんでその場で話をしたんです。」

『内容は?』

「えっと、ちょっとからかわれた、だけで、話とかはとくに…」

『…。』

怪しまれてる…よな。

『わかった。南の事はこちらでも引き続き調べてるから、またなんかされたら言えよ』

「ありがとう、ございます…」

『あぁ、それと、游洛がお前を心配してたぞ。言えねぇことがあるのはしょうがねぇけど、可愛がってもらってんだから避けてやるなよ。』

游洛先輩…最後に見た時もすごく心配そうな、悲しそうな顔をしていた気がする。でも駄目なんだ。俺一人で解決させないと。

先輩はちょっと変態だし、言ってることたまに意味わかんないし、声フェチ酷いし、でも、それでも俺がここで触れる事ができるただ一人の人だ。初めて触れた時のあの感覚。今でも覚えている。この人の言うことを聞いていればいいって、思うくらいの安心感。先輩は俺の大事な先輩だ。

「はい。」

『はぁ、なんで俺があいつのためにこんなことを言わなきゃなんねぇんだよ…俺も、俺もお前の事気に入ってるし、心配してんだからな!遊洛に言えねぇことあったら俺に言えよ!お前の力になるから。』

「ありがとうございます…?」

『おう、じゃあ早く元気になれよ。具合悪いのに悪かったな。』

「いえ、じゃあ、また。」

プツリとあっさり切れる通話。どうやら上条先輩も心配してくれているらしい。

俺がしばらくスマホを見つめていると紺が部屋に入ってきた。

「日和ちゃん!風紀委員長に声の事バレたの!?」

聞いてたんかい。

「うん…体育祭のときに小鳥ちゃんとして放送した後に見つかってバレた。」

自分で小鳥ちゃんって言うのなんだか恥ずかしいな。

俺がそう言うと紺は持ってきたと思われるポカリらしきものが入ったコップを置くと、わなわなと震えはじめ、目にも留まらぬ速さで俺のいるベッドまで来ると、顔を上気させ興奮交じりにまた理解できない事を言い始めた。

「風紀委員長×エロ声健気萌えエエエエエっ!何!?遊洛先輩の次は風紀委員長!?しかも聞く限り仲は良好だと思われ!!はぁぁっ!日和ちゃんの美形攻めホイホイ加減にはお手上げだぜぇぇぇ!これで生徒会長も加わったら鬼最強だが生憎彼は霧ヶ峰先輩のものっっ!うわぁんリアルBLはツライ!!」

「こ、紺…」

俺健気じゃないし…あと目血走ってる。怖いな。
あれ?でも…

「紺も、借り物競争の時に上条委員長に担がれたりしてたよね?」

確か、体育着で。

「やめろぉぉお!アレは俺の暗黒歴史だ!!あそこは日和ちゃんを抱きかかえて走る遊洛先輩を見て風紀委員長が『俺の遊洛を取るなんてっ!絶対に許さないんだからなっ』と、日和ちゃんへ嫉妬するところだろ!ちなみに俺の中では遊洛先輩×風紀委員長だ!!あの自由奔放な遊洛先輩に風紀委員長もたじたじ!的な展開求む!しかもあの二人は過去に因縁があるとか!!なにそれ美味!!」

えっと、右側が男役だよな?
え?遊洛先輩、上条委員長の事襲う側??それはヤバくね?

「ハッ!!!あかん!日和ちゃん!早く布団入って!これからまた熱上がるかもしれないから!ほら、ポカリ!」

ベットの上でのたまわっていた紺は急に我に帰ると俺に横になるように促した。

確かにそろそろ起きているのがつらくなってきたかもしれない。

俺は紺の持ってきてくれたポカリを飲むと眠りについた。

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