「よぉぅし! 先生もこう言っているんだ。早速、役者分担をするぞ!!」
 ホワイトボードに、乱雑な字で文字を書き始める。
 そこに書かれたのは生徒会メンバーの名前と、コスプレ衣装の名称であった。
「何をするつもりだ……」
「何って、あみだくじ」
 秀一の困却しきった顔を見ずに淡々とそう答えると、ペンにふたをして、元の場所に戻す。
「一応、どんな話にするかくらいは考えてあったんですね」
 読みかけの小説を閉じて、ホワイトボードを見つめていた律が言うと、首を傾げていた真里もぱっと凪沙に振り向く。
「あぁ、文明開化の話にしようと思ってな。あの時代ってなんかいいよなぁ。和洋が見事にコラボレーションしてるっていうか」
「江戸時代後期から明治時代初期にかけてのお話ですか?」
「そうそう。そんな劇をしてみたい、なぁ……なんて、言ってみたりなんかしちゃったりして……」
 チラチラと凪沙が若奈の方を見遣る。
 びくりと肩を震わせると、目が合わないように視線を床へ落とす。
「俺、まだアメリカから日本に来たばっかだし、日本文化ってあんま詳しくなくてさー……文系ではあるけど、そういうの書けないっていうかー……」
 若奈に近づき、彼女の両肩をがっしりと掴んで、何度もぽんぽんと叩く。
 急に部屋中の空気が凍りついたのに気づき、凪沙から視線を逸らそうにも、逸らせなくなる。
 自分よりも年上であるにもかかわらず、どこか幼さの残る、キラキラと輝いた蒼穹の瞳に縛られて。
「だから、わかぱい! 脚本はお前だけが頼りだ! いい作品を期待し……くぁwせdrftgyふじこlp;@:」
 随分と大げさな音を立てて、凪沙が倒れる。
 その背後には、拳を振りほどいた秀一が立っている。
「彼女から離れろ。困っているだろ」
「そんじゃあ、お前は脚本書けるのかよー!!」
 殴られた後頭部をさすりながら、秀一に怒声を飛ばす。
 ついに収拾のつかなくなった現場を見た一同が、一斉に安藤に視線を送る。
 やれやれと小さく一息をつくと、取っ組み合いになりそうな二人の間に割って入った。
「そこまでそこまで。顧問であるこの俺が配役と役割を決める。異論は認めない。ただし、両者同意の上での役割の交換は良しとしよう。それでどうだ?」
「先生が決めるなら文句なしですね!」
「……まぁ、結城先輩が決めるよりかは幾分マシか」
 真里と律が口々に声を揃えて同意すると、安藤はホワイトボードの前に立ちはだかり、ペンを手に取る。
 名前と演劇の配役を真っ直ぐな線で繋ぎ、その下に準備の役割を書き殴っている安藤を他所に、全員がホワイトボードを食い入るように見入った。

 結城凪沙……洋装・宣伝
 木野崎秀一……軍服・道具類
 宮瀬律……着物・脚本作成
 高科若奈……涼風高女子制服・衣装作成
 筒寺真里……旧学生服・BGM
 安藤要……放送部の知り合いに照明や音響などの頼み込み。

「文句があるヤツは来い。頭を一発殴って、考え方を改めさせてやる」
 安藤は得意げに笑って見せた。
 その一方で、生徒会のメンバーに動揺というより、安藤への憤慨がよぎる。
 自分だけ楽をしようとしていることに。



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