快楽を呼ぶ悪魔
09
――……
「うえええ……」
紳の部屋についた瞬間、あたしはソファにばたんって倒れ込んだ。
あのあとお化け屋敷とか、別のジェットコースターとか……。
子供みたいにはしゃぐ紳にどうしても逆らえなくて。
帰ってきたころには、もうふらふらになってしまっていた。
「お前は……。もっと色っぽい声を出せ」
紳の部屋に戻ってきたのは、夜23時を回ったころだった。
最後のナイトパレードまでばっちり見て、それから近くのレストランで夕飯を食べて……。
・・・すっごく、楽しかった。
「紳……ありがと」
ソファから起き上がって、紳に言った。
ほんとに……今まで生きてきて、一番幸せだったかもしれない。
乗り物は、苦手なものばっかりだったけど・・・。
一緒にいられるのが、こんなに幸せだなんて。
「・・・ばか。ふらふらでなに言ってんだ」
紳は、頬を少し赤らめて、言った。
・・・ほんとに、照れ屋さんなんだから。
「お風呂、借りるね」
疲れてはいても、お風呂には入りたい。
走り回ったから汗かいちゃったし。
紳が、あたしに向かってバスタオルを放った。
「入ってこないでよ・・・っ、!!」
「さあな」
紳が笑いながら、言った。
……ゆっくり、お風呂に入りたいんですようっ!!
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あずみがお風呂に言った後、紳はさっきまであずみが寝ていたソファに座った。
それから、宙を見上げる。
『ありがとう』と、あずみは言った。
「・・・こっちのセリフだ。ばか」
宙に向かって、紳は呟いた。
あずみに好きだと言われた瞬間、心臓が止まるほどびっくりした。
そして、自覚した。今まで、正体が不明だったこの気持ちを。
あずみに対する異様な執着心。
触れたくて、どうしようもなかった気持ち。
急にあずみに対して優しくしたくなったり、ほかの男の名前が口から紡がれるたびに、口を塞ぎたくなったり。
全部の答えが、出た。
「好き、なのか。俺は……」
自分で自分が笑える。
人間に恋をした悪魔?
なんの冗談だ、それは……。
紳は手の甲を見つめた。
日付が変わったら、数字は【1】に変わる。
そうしたら……。
「……〜〜〜♪」
耳をすませると、お風呂場から高いソプラノの声が聞こえた。
少し音程を外した歌声。
紳は、それを聞いてクスっと笑った。
――明日が最期だ。
もう、することは決まっている。
紳は目を閉じて、あずみの歌声に耳を傾けた。