快楽を呼ぶ悪魔 | ナノ

快楽を呼ぶ悪魔

07


「そ、んな・・・っ」


自分でもわかる。あたし、顔真っ赤だ。
ヒロ兄と、ヤるって…。
ヤるって、所謂……セッ・・・、!


「・・・ははっ。なにを赤くなってる?」


顔を真っ赤にするあたしを見て、紳が、クスって笑った。


「ずっと、好きだったんだろう?……よかったじゃないか」





……………。


あ、れ?なにあたし・・・?
なんだろう。
・・・泣きそう、だ……。



「……そ、だね・・・」


震える声で、なんとか声を絞り出す。
そうだよね。そうだよ・・・。
ほんとに、いつからかわからないくらい、ヒロ兄のこと好きだったんだもん。
本望だよね。……運命、みたいだよね。
首輪も解除できる。好きな人と、繋がれる。
ほんとに、夢見たいな、小説とか漫画の中みたいな展開だ。





「そう、だよねっ」


あたしは、無理やり笑顔をつくって、紳に笑いかけた。
紳も、それに呼応したみたいに、笑った。





「……あずみ」


ぎこちない空気の中、紳が急にまじめな顔をした。


「な、なに?」


神妙な空気。あたしの顔も、無意識にこわばる。





「お別れだ」





ここ最近、あたしが一番恐れいていた言葉が……紳の口から、紡がれた。





「おわ・・・かれ?」


声が震える。
かすれていて、うまく出てたのかもわからない。
でも、紳はこくん、と首を縦に振った。


「・・・ああ。お前の首輪が取れたのを確認したら、行く」

「い、行くって……?」

「魔界に、帰る。お別れだ」


・・・お別れ。
それは、例えば友達が、違う土地に引っ越すとか、そういうことと、同義じゃない。
いつか、また会える。そんなお別れじゃない。
だって、魔界って……地球に、ないんだもん。





「な……んで・・・?」

「なんで?」


あたしの問いかけに、紳は不思議そうに笑った。
そして、目を閉じて言いきった。


「首輪のないお前に、興味がないからだ。・・・わかりきったことだろ?」

「……っ、!」


わかりきった、こと。
そうだよ、わかってたことだ。
紳は、ただきまぐれであたしに首輪をつけた。
そして、その責任から、あたしを守ってくれていた。


魔力がなくなっていく中で、紳がどれほど魔界に帰りたかったのか……。
それでも、責任感で傍にいてくれた。
だから、首輪がなくなったら紳が帰ってしまうのは当たり前のことだ。
首輪のないあたしには、何の価値もないのも……当たり前のことだ。





わかっていた。
わかっていたよ。


わかっていたんだよ。
ヒロ兄と付き合うことを決めた時点で、こうなることは・・・わかってた。


だから・・・悲しく、ない。
辛くなんか、ない。


首輪がはずれるのは・・・喜ばしいことなんだから。





「……っふ・・・」

「……なんで、泣くんだ」


・・・自分の嗚咽と、紳の声で気がつく。
あたしの目からは、いつの間にか涙があふれていた。


「う、っく・・・ひっく……あ、れ・・・?」


気がついた瞬間、涙はもう止まらなくなった。
洪水みたいに、ぼたぼたとあふれ出てくる。


「ひっく、ひっ・・・なん、でえ…?ひっく……」


紳が、困ったみたいにあたしを見ていた。
そりゃあ、わけわかんないよね。
急に泣き出すんだもん。
泣きやまなくっちゃ。





そう、思ってはいたけど……。
なぜか、涙は止まらない。
あたしは、溢れる涙を必死にぬぐいながら、言い訳の言葉を口にした。


「ひ、っく・・・あ、は・・・首輪、はずれると思ったらうれし、・・・ひっく・・・だから……うれし泣き、っ!」


紳が、寂しそうに笑って、頷いた。


「だい、じょうぶだから・・・っ・・・ひっく、う・・・紳は、帰ってへいき、だから・・・っ」


「紳は帰って平気」
その言葉を口にした瞬間、また涙がぼろぼろあふれ出た。


「あ、れえ?・・・ふっ、ひっく・・・」

「……あずみ」


と。
ぴとっと、紳の手があたしの頬に触れた。


「ひっ・・・な、にい?」


嗚咽が止まらない。
あたしは、無理やり笑顔をつくって、紳の方を見た。
泣きながら、歪んだ笑顔をするあたし。さぞ、不細工なんだろうなあ……。


「泣くな、」


顔が近づいてくる。
あたしは・・・反射的に、目を瞑った。





紳の唇が、あたしの頬に触れた。
先生に、襲われたときと同じだ。
紳の唇が、あたしの涙を一滴ずつすくい取る。





「う、わあん・・・っ……」





優しくしないで。
あたしが首輪だけの価値なら……。突き放すなら、最後まで突き放して。
あたしは、紳の服に自分からしがみついて、わんわん泣き始めた。
紳が、あたしの背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。





その体温は・・・やっぱり、冷たい。


「紳の、ばかあっ!なんで、冷たいのお?」


もう、わけわかんない。
あたしは、泣きながら、紳の氷みたいな冷たさを責めた。


「なんで、人間じゃないの?なんで、翼なんか生えてんの・・・?」

「……悪い」

「紳が謝ることじゃない!」

「そうだな。・・・ごめんな」

「あや、まるなぁっ!!・・・ふぅ、冷たいよっ!紳のばかっ!!」


・・・あ、だめだ。
支離滅裂って、こういうことを言うんだね。











その、夜。
あたしは、紳の腕の中で、わんわん喚いて……。


いつの間にか泣き疲れて眠ってしまった。



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