快楽を呼ぶ悪魔
06
――あれから、3日。
付き合いだしたって言っても、あたしとヒロ兄の関係はあんまり変わってなくて……。
でも、朝一緒に学校に行ったり、夜少し外で話したり。
メールもしたりする。
ま、まだなにもしてないんだけどね。
そして……。
そのころのあたしは全く知らないことだったんだけど、紳がお父さんに与えられたタイムリミットまで、残すところあと5日、そんな日の、夜だった。
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ヒロ兄と付き合いだしてから、紳は部屋に来ない。
まあ、紳に部屋にいられたら、ヒロ兄に誤解されちゃうし……。
仕方ないことなんだけど、ね。
1か月以上毎日来てたから、なんだか変な気分。
「はあ・・・、」
あたしは、携帯を開いてため息をついた。
ヒロ兄と付き合い始めたことを千夏に言ったら、すっごくびっくりされた。
なんでって聞いたら、千夏まであたしと紳が付き合ってるって思っていたんだって。
そんなわけ、ないのになあ。
ピロリロリン♪
「はりゃ・・・?メールだ」
携帯を見つめていると、着信音が鳴った。
携帯を開けると……ヒロ兄だっ!
あたしは、メールを開いた。
Receive Mail [001/500]
Date 20:10
From 真田比呂
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
よ!
明日学校早く終わるんだろ?
俺も大学早めに終わるんだよな♪
で、俺の部屋来ねえ?
明日は家族いねーんだ。
久々に二人でゆっくり話せるだろ?
……変なこと、考えてねーからな(^^ゞ
ヒロ兄の、部屋……?
確かに、すごく久しぶりだなぁ。
それに、付き合ってから2人っきりでゆっくりいたこと、ないし。
でも、ヒロ兄の部屋って……。
ほんの1か月前だったら、あたしふつうに行ってたと思う。
っていうか、今までだって遊びに行くことあったし・・・。
メールの最後の文、「変なこと」の意味もわからなかっただろうなあ……。
でも、今なら分かることもある。
あたしと、ヒロ兄はお付き合いをしていて・・・。
「首輪、あるし・・・。どうしよう……」
来たメールを眺めながら、うんうん唸っていた。
季節は、6月上旬。
さすがに、そろそろ室内でマフラーは不自然すぎる。
「ヒロ兄、変な子だって思うよね・・・?またタートルネックの着ていこうかな?……でも、」
「大丈夫だ、」
「ひゃわああっ!」
何回同じこと繰り返すんだろ・・・?
耳元で急に声が聞こえて、あたしは変な叫び声をあげた。
案の定紳が、呆れた顔であたしを見ている。
「そろそろ、しつこい」
くくって、紳が笑った。
……3日ぶりだ。紳が笑ったところ見るの。
たった3日間なのに、なんだかすごく久しぶりな気分。
「……どうした?」
あたしが紳を見ていると、紳が首をかしげて言った。
……あたし、なにしてんだろ。
「な、んでもない。……それより、大丈夫ってなにが?」
話をそらしたい気持ちと半々で、あたしは紳に問いかけた。
「首輪の効力があの男に行くのを気にかけているんだろ?大丈夫だ。少なくとも、無理にヤられることはない」
「え・・・?」
なんで紳、知ってるの?
「……言いにくいが、お前に万が一何かあったときのために、飛んでいける範囲で気にはかけている。……プライバシーは守っているつもりだ。悪いな」
「う、ううん・・・」
そっかぁ。
傍にはいなかったけど、気にかけてくれてたんだね。
……メール内容を知ってるのは、プライバシー守ってないんじゃないかって少し思ったけど、黙っとこ。
「えっと、無理やりっていうのは、つまり?」
「お前を今まで襲った男たちのようなことには、ならないってことだ」
「えっと・・・」
つ、つまり、どういうこと?
「・・・お前が選んだ男が、付き合ってる彼女を拘束したり、襲いたいと考えるような男なら、話は別だ。……違うんだろう?」
「うん・・・」
あたしは、頷いた。
17年お隣さんやってきたけど、そんなことはない……と思う。
っていうか、絶対ないでしょ。
「・・・まあ、一般的に付き合っている女を無理やり組み敷こうと考える男は少ない。その首輪は、あくまで対象の人間の欲望を忠実に再現するものだ。今までお前を襲ってきたものは、同意の上でお前を抱くことができなかった。だから、無理やり組み敷いたんだ」
「そ、そっかあ・・・」
あたしは、ほうってため息をついた。
「・・・だが、世間一般の男は、彼女とヤりたいとは思っているだろうな」
「へ?」
紳が……寂しそうに、笑った。
……そんな、寂しそうな顔しないでよ。
「誰もいない部屋で、首輪のついた姿を見せれば……待っているのは、首輪の解除だ」
「それって……」
「あの男と、最後までヤることになるだろうな」
ヒロ兄が、首輪をはずすって、こと?
平穏だったあたしの生活に災いをもたらして、いっぱい辛い思いをさせた・・・この首輪を。
……紳との、唯一の繋がりを。