Side 悠斗 | ナノ


(12)


――試合当日。今日も、前回の試合と同様、快晴だった。


「……今日の試合は、夏の成果を試す試合だ。んでもって、前回の雪辱戦でもあり、甲子園出場を狙う俺たちにとっては、自分たちの実力のバロメータを量る試合でもある」

「「「オスッ」」」

「絶対、勝つぞ!!!」

「「「おーっ!!!」」」


橘高校は、到着予定時間の5分前に、合宿所外のグランドに入った。その中にはもちろん、因縁の相手(だと俺が勝手に思っている)柳沢もいる。
柳沢の姿を見た瞬間、前回の試合のイメージが頭をよぎって、体がぶるりと震えた。……武者震いってやつ、なんかな。

軽くウォームアップをして、試合開始。
円陣を組むと、みんな闘志に燃えた目をしていた。
気合十分、絶対に勝ってやる!


挨拶をして、試合が始まった。
今回も、前回同様俺たちが表・・・つまり、先制だ。ピッチャーである俺の打順は9番。強豪である橘高校との試合であることを考えると、この回は打順がまわってこない可能性が高い。

ベンチに座って、肩をぐるぐると回しながら待機する。夏の練習を思い出しながら、対柳沢のイメージを練った。


「今日の橘高校は、最初から一軍を使ってくるみたいだね」

「あぁ・・・」


グラウンドを睨みながら意気込んでいると、隣にいる由紀が口を開く。由紀の声も、若干震え気味だ。


「柳沢くんとの対戦は・・・4回くらい、かな」

「そうだなー。……まぁ、柳沢以外のやつも、強敵だけどさ」

「うん。……でも、キャプテンはこの夏、打倒柳沢くんでやってきたもんね。やっぱり、ほかの人とは違うでしょ?」

「おー。……絶対、負けねーよ」


緊張を紛らわすように、にっこりと由紀に笑いかける。由紀は、ボードを握り締めながらこくんと頷いた。
打順は、最低でも3回り。平均としていえば、4回りくらいになるだろうか。
前回は、柳沢が途中交代ということもあって、3回対峙した。そのうち、打たれたのは2回。打率約7割なんて、完敗もいいところだ。


「チェンジ!」

「……っし」

「キャプテン・・・頑張れっ!」


攻守交替。両頬をバチンと叩いてから、グラウンドに向かう。
由紀の声を背に受けて、俺はグラウンドに足を進めた。








**********


一巡目。柳沢に対して、俺はこの夏ずっと練習をしてきた変化球を投げた。うまく内角をついて、ゴロに抑えることができた。
二巡目は、カーブとこん身のストレートを織り交ぜた投球をした。これが、うまいこと三振を奪う結果となる。
その次の回で、自チームの4番がツーベースヒットを放ち、送り出しで1点先制。続く5番打者もいい当たりを打ち、その回は2点を得ることが出来た。

そして……三巡目。一巡目と同じく内角をついた俺の投球は……柳沢に、捉えられた。ギリギリホームランにはならなかったものの、芯を打ち抜いたボールは結果、ツーベースヒットとなる。その後、投球が崩れた俺は、5番バッターの男にもヒットを打たれた。この回、1点を返されて2−1。

その後は、一進一退の攻防。橘高校の猛打をなんとか投球と守備によって防ぎ……2−1のまま、9回の裏を迎えた。





「……ははっ。・・・できすぎ、」


マウンド上で、思わず苦笑いをする。
――現在、2アウト、ランナーは2、3塁。……そして・・・打者は、柳沢。
すごく、わかりやすい図式だ。
俺が、柳沢を抑えれば、勝ち。打たれれば・・・同点か、あるいは負けだ。前回のようにホームランなんぞ打たれたら、4−2で敗退になる。

こんな状況なのに、俺はマウンド上でつい笑ってしまった。
事実は小説よりも奇なり、か。ドラマのようなできごとが、普通に起こるんだもんな。


一息ついて、汗を拭う。
チラリとベンチに目をやると、難しい顔をしている監督と、ボードを折りそうなくらいぎゅうっと握る由紀の姿が見えた。

ボード、折るなよ?
……こんな状況なのに、なんだか馬鹿みたいなことを考えてしまうのは、なんだろうな。





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