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デートじゃなかった


「デートの場所って・・・ここ?」

「デート・・・というのは、なんの話でしょう? 早く入りましょう、永瀬くん」

「え、えー? うわーん、リッちゃんってば全然甘くないー!」


放課後、リッちゃんがウキウキ気分のオレを連れて来たのは……図書館でした。
図書館・・・図書館だって、奥さん。デートっぽい甘酸っぱさの欠片もないよぅ。図書館デートとか健全すぎて……あれ? 新鮮でちょっといいかも?


「リッちゃん、図書館になんのご用なの? オレ、図書館なんてほとんど来たことないから、何したらいいのかわかんないよぅ?」

「図書館には、自習広場というものがあるんです」

「じしゅうひろば?」


こじんまりとした図書館の中央まで足を進めると……確かに。小さな看板に「自習スペース―おしゃべりはやめようね―」とかかれたスペースに出た。
おしゃべり禁止・・・?


「ここ、おしゃべりダメなの?」

「そうですよ。周囲の方のご迷惑になるので、やめてくださいね?」

「えぇー? オレ、リッちゃんとお話したいよぅ。聞きたいこともあったのにぃー」


大体、喋れないのにどうやってデートするのさ。
……もしかして、そういうプレイが好きとか・・・? 声出しちゃダメ的な??
オレ、そっち方面はふつーが一番なタイプだけど・・・リッちゃんがそういうのが好きなら頑張るよぅ!


「さて、はじめましょう」

「う、うん! オレ頑張るよ!」

「やる気満々ですね? では、教科書を出してください」

「やる気満々だよぅ! じゃあ、教科書……教科書??」

「えぇ、まずは数学からはじめましょう」

「オレ、教科書は全部ガッコに置いてきちゃった、……じゃなくてっ!」


話がおかしな方向にいっているのがわかって、オレは思わず机をバンッと叩いて立ち上がった。周囲の人が、怪訝そうな顔でこちらを見ているのがわかる。
けれど、リッちゃんはオレの真意がわからないのか、不思議そうにオレを見上げた。
なんだか、進ちゃんの気持ちがすっごーくわかってしまう。


「どうされたのですか?」

「リッちゃん・・・図書館に来た目的って、もしかして……」

「勉強するためですが……」

「べんきょ!」


全然甘くないぃー!
リッちゃんってば本当に女の子ですか! きゃぴきゃぴさの欠片もないんですけど!!


「今日、ガッコ行ったのに今からべんきょするの!?」

「えぇ。……すみません、わたし言っていませんでしたか?」

「言っていませんでしたよぅ! うわーん、デートがいいよーう!」

「し、しーっ! 他の利用者のご迷惑になりますから、音量を下げてください」


リッちゃんは、自分の唇に人差し指を押し当てながら言う。
むぅ。リッちゃんべっぴんさんだけど、騙されないもん! ……何も騙してないかもしれないけど、騙されないんだからっ!


「うぅ・・・。オレ、リッちゃんとお話したいよぅ。オレとリッちゃん、まだ出会って2日目だよ? もっと仲良くなりたいじゃんー」


声のトーンを落としつつ泣き言を言うと、リッちゃんはちょっとだけ驚いたような顔をして見せた。
それから、ちょっとだけ・・・ほんのちょっとだけ表情を柔らかくすると、姿勢を正してオレに向き直る。


「……先ほど、ひとつ質問があるとおっしゃってましたね。何でしょうか?」

「ほへ?」

「声のトーンは落としてください。……お話、するんですよね? 勉強はそれが終わったらにしましょう」

「う、うん! えーと、質問・・・質問だよねっ!」


リッちゃんがどうして心変わりしてくれたのかはわかんないけど・・・これってチャンスかも!
そういえば、オレさっき「聞きたいことがあった」とか言った気がするなぁ。リッちゃんが言う「質問」ってそのことなんだろう。
でもねでもね、あれほとんど何も考えずに言ったことだったんだよぅ。


「永瀬くん……?」

「質問ね・・・えっとぉー」

「なんでしょう??」

「う、うーんと、……あ! あのさあのさ、リッちゃんって進ちゃんにはタメ口だよね? なんでオレと話すときって敬語っぽくなるの? オレたち同い年でしょう?」

「あ、言葉遣い・・・ですか?」

「うん!」


なんとかひねり出した・・・けど……。でもでも、言ってたら本当に気になり始めた。
そだよ。なんか、リッちゃんのキャラっつーか見た目的に敬語がマッチしてたからあんまり気にならなかったけど、今日進ちゃんとふつーに話してるのを聞いてちょっと違和感あったんだよねぇー。


「今日ちょっと聞いてたんだけど、リッちゃんって進ちゃんとは普通にしゃべってるよね? なんでオレには敬語なの?」

「そういえば・・・そうですね。意識していたわけではないのですが……」

「えぇー? じゃあ、オレとも普通にしゃべろうよぅ。なんか他人みたいじゃんー」


そう言うと、リッちゃんはパチパチとまばたきをしてオレを見た。それから、口元に手を当てて、なにやら考え始める。


「あ、そ・・・そうですね。……いえ、でも……」

「リッちゃーん?」

「す、すみません。それは・・・難しいですね」

「え、えぇ!? なんでぇ!?」

「な、何故でしょう?」

「知らないよぅ、そんなの!」


結局、リッちゃんはオレに対して言葉遣いを崩してはくれなかった。むぅ・・・。

そして、リッちゃんの必死の指導にも関わらず、オレの頭脳は出ていなかった1か月分の授業を理解することができなかった。……うわぁん!






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