最期のことば | ナノ



最期の笑顔


一旦家に帰った俺は、電話を取って震えている母ちゃんを見て、嫌な予感で胸がいっぱいになった。
「母ちゃん?」と問いかけると、「茜ちゃんが・・・」とぼろぼろ泣く母ちゃん。


電話は、病院からだった。
茜の容態が急変して、一刻を争う状態という連絡だった。
おばさんも、おじさんも、茜の親戚もみんな、病院にいるらしい。
おばさんは、茜の意志を汲んで、その瞬間に俺が立ち会うことを許してくれた。
俺は、母ちゃんの車に乗って、震えながら病院に向かった。








「茜・・・!」


病室に入って目に入ったのは、おじさん、おばさん、茜のおじいちゃんとおばあちゃん、お医者さんが数名。
それから、ベッドに横たわる茜だった。
俺の姿を認識した瞬間、おばさんが手招きで俺を呼ぶ。


俺は、ふらふらと茜に近づいた。


「……明人、くん・・・茜と、話してやって・・・」


ぼろぼろと涙をこぼす茜の母ちゃん。
俺は、泣きそうになるのを堪えて、茜に顔を近づけた。


「……茜、」


名前を呼ぶと、茜はぴくりと動いた。
それから、うっすらと目を開く。


「……あ、き・・・く、」


掠れた声で、俺の名前を呼ぶ茜。
さっきまで……さっき会ったときは、普通に会話をしていたのに・・・!
ほんの、3時間前のことなのに……!


「茜、茜……」


堪えきれず、涙がこぼれる。
冷たい茜の手を掴んで、何度も名前を呼んだ。


いなくならないで、置いていかないで……!
神様、こいつを連れて行かないでくれよ……!!
なんでもするから、俺、なんでもするからっ!!!


「アキくん・・・最期のお願い、」


泣き喚く俺に、茜は言った。
最期のお願い……さっき茜に言われた、「笑ってほしい」という言葉を思い出す。


「笑えね、っ・・・茜……」

「アキくん・・・」


茜の目じりから、一筋の涙がこぼれる。
…………っ。


「あかね・・・」


笑えないよ、笑えない。
でも、茜の最期の望みだ、願いなんだ。


こぼれる涙は仕方ない。
でも……俺は、必死に口角を上げた。


「……アキくん・・・」

「茜、茜……俺、笑ってるよな?」


笑えてる?茜。
俺、笑えてるかな……?


俺の顔を見て、茜はくしゃりと顔をゆがめた。
それから、こくんと少しだけ頷く。


少しだけ握り返された茜の手。
俺は、すがるようにその手を握り締めて、茜の名前を呼んだ。


「茜、好きだよ・・・俺、茜が好きだよ……」

「アキ、くん・・・」

「ずっと愛してた。茜……愛してるよ、俺」


想いがこみ上げてきて、俺は茜にそう言った。
もっと早く言えればよかったんだ。
こんな状況で、「愛してる」なんて言いたくなかったんだよ、茜。


「茜、好きだよ、愛してるよ。俺、ずっと茜が……」

「…………っ、」

「愛してる、茜」


茜の目をまっすぐ見て、俺は何度も告げた。
すると、茜の口がゆっくり開く。
茜の言葉を逃したくなくて、俺は茜に顔を近づけた。


茜は、唇を開いて……そして、掠れた声で、言った。





「ありがとう」





それから、茜はゆっくりと笑ったんだ。
辛いはずなのに、苦しいはずなのに……俺に向かって、茜は笑ったんだ。








それが、最期の言葉だった。
俺と茜が交わした、最期の……。





母ちゃんに引っ張られて、俺はおじさんやおばさんと場所を変わった。
茜は、2人にも一言二言、言葉を告げたらしい。











――その日、茜は星になった。






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