ハッピーエンドだお☆
――ハロウィン当日
委員長と的場の前には、わたし手作りのチョコレートケーキ。おそるおそる・・・といった調子でケーキを口に運んだ2人は、何度か咀嚼して、目を丸くした。
「……オイシイデス」
「本当だー、うめぇ。おかん、すげえ練習したんだなー」
「ほらみろ」
口々に感想を言う2人に向かって、あからさまにどや顔をしてやる。
へへーん。ざまーみろ。練習したんだからね。
完膚なきまでにたたきのめしてやったぜ! と思って委員長の顔を見ると、委員長はなにやらふてくされたような顔をしていた。
「……なによ、委員長」
「…………チョコレートケーキって生田の好物かなんか?」
「よくわかったねー。でも、唯はもっと甘いのが好きなの。だから別に作ってあるんだよー。ほーら、唯おいでー」
クラス用につくったケーキは、男子でも食べられるように甘さを控えている。でも、唯は甘いの大好きなんだよね。
だからわたしは、唯用に小さなチョコレートケーキを作ってきていた。
つきあう前の約束ではあったけれど「楽しみにしてていい?」って言われていたしね。
「え? 笹川、オレに作ってきてくれたのか?」
「うん。だって唯は、特別じゃない」
「う、あ、ありがとうっ!」
今日の唯は、魔女っ子……ではなく、うさぎの耳と丸いしっぽをつけている。白うさぎたんです。ちなみに、懐中時計を手にしています。
「ありがと・・・」
「…………」
「あの・・・」
「…………」
「笹川?」
「違うでしょ?」
ケーキに向かって伸びてきた腕をすーっと避けて、唯に向かってにっこり笑いかける。
唯は、いぶかしげにわたしをのぞき込んだ。
「『笹川』じゃ、ないでしょ?」
「…………!」
「いつも言ってるじゃない。笹川じゃなくて『千夏』でしょ?」
ゴンッ
…………?
そんなこんなで唯とたわむれていると、真後ろから鈍い音がした。
じゃれあうのをやめて、後ろを振り返ると……委員長が、机につっぷしていました。
「え? なにしてんの、委員長?」
「あー、放っておいてあげてくれ。傷心中のところ、さらに傷口えぐられただけだから」
「なに? 委員長、なんかイヤなことでもあったの?」
「……千夏、それは聞いてやんなよ」
「千夏、人気者だねー」
机に突っ伏して男泣きをする委員長に言葉をかけていると、あきれたような顔をした奈緒と、にこにこ笑顔のあずみが近づいてきた。
あずみは、アリスのコスプレ。もちろん、ドレス着せてひとりだけ本格的な衣装ですけどなにか? わたしが取り寄せましたけど何か?
それから、奈緒はチェシャ猫のコスプレ。しましま模様のしっぽが萌える。可愛いっ!
……あ。ちなみにわたしは、ハートの女王ね。おまけに篠崎もチェシャ猫(奈緒と勝手にふたご設定)、雪平くんは帽子屋ことマッドハッター、柴崎は陪審員、美姫ちゃんはトランプの精。周りに、これでもかってほど美男美女がいるんだもん。やりたい放題しちゃいました。
「ほら、委員長。傷心しないの。クラスが委員長の帰りを待ってるよ」
「うぅっ・・・」
「委員長がいないと、進行役がいないよう?」
「ぐすっ」
「なんでもいいから、プログラム進行して!」
仁王立ちした奈緒が、委員長の腕をぐいっと引っ張る。あずみも、慌てたように逆側の腕を引っ張った。
おー、両手に華じゃん。やったね、委員長。
「……さ、笹川?」
「ん?」
「ケーキ・・・」
「ああ、そうか」
委員長の奇行で忘れてた。
わたしは、小さなホールケーキを皿に出して、唯に向かってにっこりと笑いかけた。
「はい。……呼んで?」
「っ、うぅ・・・」
「わたしだけ唯のこと名前で呼んでるの、寂しいじゃん。……ね?」
フォークにチョコレートケーキのかけらを乗せて、にっこりと微笑みかける。すると、唯は、大きく息を吸い込んで、真剣な瞳でわたしを見つめた。
ふわり、と、温かい感触が頬を掠める。
唯の端正な顔が、ゆっくりわたしに近づいてきて……唯の唇が、わたしの耳元に触れた。
ちゅっと言うりっぷ音が、耳元で聞こえる。
え、え、え……?
「千夏、」
紡がれたのは、わたしの名前。
耳元でささやかれた声は、いつもより低く、色気をはらんでいて……。
ちょっと、勘弁して! からだの芯が、ぞくぞくした!
「…………っ、! 唯・・・それ、反則、だからっ・・・!」
「へへっ。ドキドキした?」
わたしの頬から手を離さないまま、唯がわたしの顔をのぞき込む。
「……した」
「やった!」
肯定すると、うれしそうに頬をゆるませる唯。
……どうしよう、この子。可愛いんだけど、あなどれない……!
笹川千夏、高校3年生。
彼氏は、金髪碧眼の美少年。
最近、趣味が増えました。
・可愛い子を観察すること
・可愛い子に可愛いことさせること
・可愛い友達の世話を焼くこと
・彼氏と一緒にいること←new!
・彼氏をからかって遊ぶこと←new!
・彼氏の成長にドキドキすること←new!
かわいい彼氏は、実は誰よりも男らしくて、カッコいい性格の持ち主。
可愛いところも、カッコいいところも、男らしいところも、ちょっと情けないところも……。
全部が魅力的な唯の表情を、余すところなく見られればいいなって、思うんだ。
願わくば、ずっと唯の隣で。
誰かを守ろうとして、恐怖心とか涙をこらえる必要なんてねーんだ。……オレが、全部受け止めるから。
はじめから、わたしを1人の
女の子として見てくれるのは
唯だけだったんだね。
End.
⇒次のページに、唯&千夏登場のあとがきがあります。よろしければ…