とうとうフラグ成立です
――次の日。
「千夏、あずみ!」
「奈緒!」
「奈緒ちゃんっ!!」
次の日、昇降口からろうかに入った瞬間、心配そうな顔をした奈緒が駆け寄ってくる。 わたしは、片手をあげて「大丈夫」と伝えた。
「警察行ったの?」
「うん。事情説明してきた」
「千夏もあずみも、本当に大丈夫なの・・・?」
今日は朝から、昨日は夜遅くてできなかった事情聴取に行った。一応、当事者ということで、わたしとあずみだけ。 時間は、すでにお昼休み。今日は休んでもよかったんだけど……ねぇ? 唯た・・・唯にも、きちんとお礼を言いたかったし、その……恋を自覚した乙女としては、卒業までになんとかしなきゃっていう焦りもあったりして。
「本当に、不幸中の幸いで助かったから……。大丈夫だよ」
「そっか・・・。よかった……」
「それより、犯人たちのほうがやばいかもなー」
「え? なんで?」
「あずみの彼氏、ぶち切れで、相当無茶苦茶しましたから」
「あらまあ」
「そ、そんなことないよう!」
昨日はパニック状態だったあずみも、雪平くんの支えもあって落ち着きを取り戻したらしい。 でも、あずみが怖かったのって、自分への危害よりわたしに何かあったらっていう思いだったみたい。あずみといい奈緒といい、わたしは本当にいい友達を持ったと思う。
そうこうしているうちに、教室に到着した。 昼休みだし、相変わらずうちのクラスは騒がしいな、なんて思ってドアを開けようとした瞬間、教室から自分の名前が聞こえて、わたしはピタリと手を止めた。
「おかんのタイプは、『爽やかスポーツマン系』でしょ?」
声をあげたのは、おそらくマユだ。 ……ん? え? なんでうちのクラス、わたしのタイプの話なんかしてんのよ?
「ほ、ら・・・。うちのクラスで言うと、一番近いのは的場! ……生田じゃ、ないだろ」
「…………んなの、分かってる」
それから……委員長と、唯の声? いやいやいや! 委員長のばか! 的場はない! 確かに爽やかでちょっと腹黒そうだけど、ちょっと顔が好みとは違うって言うか……。的場、しょうゆ顔だからね。わたし、ちょっと濃い顔が好きなのよ。 そして、なんの話をしてるんだ!!!
「い、生田が……なんで、今日休んでるおかんの弁当持ってんだよ……」
「だ、から・・・朝、ちょっと会って……」
……うーん・・・。なんとなく、読めたような……。 つまり、今朝わたしが渡した弁当がいけなかったらしい。 昨日は結局みんなであずみの家に泊まった。で、今朝、あずみが雪平くんにお弁当作る横で、わたしも唯にお弁当つくったんだよね。 結局そのままわたしは警察に行ったんだけど、確かにまずかったなー。今日いないわたしの手作り弁当を、唯が持っているなんておかしな話だから。 昨日のことは、事件も事件だから先生には公表を控えてもらっていたし、唯だってそのことを言うつもりはないんだろう。だから、今朝あずみの家にいた詳細を言えず、言葉を濁すような形になってしまっている。 ……まあそれが、わたしのタイプの話とどう関わっているのかは分からないけど……。
「あー、委員長、とうとう爆発したかー」
「ほえ!? 委員長も?」
「あずみ、気づかなかった? すごい分かりやすく、千夏と生田に絡んでたじゃん」
奈緒とあずみがこそこそと会話をしているけど……。正直、わたしはそれどころの騒ぎじゃない。 たかが弁当一つで、どんな騒動だ!
「べ、別に生田とおかん、つきあってないんだろ!?」
「……っ、うん」
「じゃあ、そろそろ弁当もやめとけよ。笹川だって、受験生だし……」
ぎゃーっ! 委員長のばかっ!! わたしと唯の弁当タイムを邪魔すんなーっ!!
「それに・・・生田だって、おかんとつき合えるなんて思ってないんだろ!?」
「……ん、なこと・・・」
「生田、おかんより背も低いし。さっきも言ったけど、おかんのタイプは……えっと、『爽やかスポーツマン系』なんだからな!」
「…………」
「少なくとも、生田はおかんにとって恋愛対象じゃない! おかんのタイプは……」
「……唯だよ」
もう、わたし抜きで、わたしの好みの話すんな。 わたしは、委員長の発言を遮るように、口を挟んだ。
「お、おかん・・・?」
「笹川! だ、大丈夫か!?」
「おはよ、唯。もう大丈夫だよー。昨日、本当にありがとね」
扉を開けた瞬間、驚いたようにわたしを見る委員長と、心配そうに声をかけてくる唯。 わたしは唯に向かって笑顔で片手をあげながら、委員長に向き直った。
「あのね、委員長。たしかにわたしは『爽やかスポーツマンタイプ(腹黒だと尚良し)』が好きだけどね」
「え、な・・・なんでその話……」
「外まで丸聞こえだったから。……とにかく、タイプは一応あるけど……基本は、好きになった人がタイプなわけ」
「え?」
本当は、卒業までかけてじっくり攻め落とそうと思っていたけど……。弁当タイムを邪魔されるなら仕方ない。教室のど真ん中で、愛を叫んじゃいましょうか。
「ってことで、わたしのタイプは生田 唯。好きな人も唯。……OK?」
「え、」
「えぇっ!?」
「千夏ぁっ!」
「急展開!!」
「「「えぇぇぇぇぇええ!!??」」」
告白の瞬間、教室が激震した。そ、そんなに騒がないでください。一応、いたいけな乙女が告白したんですから。
「さ、さが・・・わ・・・?」
「……うん。わたし、唯のこと好きだよ」
「で、も・・・オレ、笹川より身長も低いし、男らしくないし、恋愛経験も少ないし、女顔だし……いいとこなんて、ひとつも・・・な、」
告白されたのにもかかわらず、自分を卑下する言葉を述べる唯に近づいて、唯の唇に人差し指を立てる。それから、にっこりと微笑みかけた。
「唯のいいところも、男らしいところも、わたしが腐るほど知ってるからいいの」
「…………!」
「それより覚悟してね。わたし、本気で唯のこと落としにかかるから」
言いながら、バチンとウインクかましてやる。 なりふりなんか構ってられない。ここまで本気で好きになったのは、はじめてなんだから。
「か、くごなんて・・・とっくにできてる!」
と。 きびすを返しかけたわたしの服を掴んで、唯がわたしを引きとめた。 何事? と思って振り返った瞬間、頬に温かな感触。 次いで、唯の端正な顔が近づいてきて……唇に、柔らかなものが当たった。 あ、あれ・・・? いま、キスした? 白昼夢ってやつですか?
「オレ……ずっと前から、笹川のこと好きだった。だ、だから・・・オレと、付き合ってください!」
真っ赤な顔で、唯がわたしの顔をのぞき見る。 好きだって言ってんのに、不安そうな顔でわたしを見上げる。
…………。 だめだ、もう。
かわいい、かわいい!
「ちょっと、こっち・・・」
「う、わっ!」
「こっち、来て」
わたしは、返事を据え置いて、唯の腕をぐいっと引っ張った。 そのまま窓際の壁に唯を押しやって、白いカーテンで教室と2人をシャットダウンする。 そして――、
「ささ、が・・・っん」
「…………っ、」
唯の両頬を手のひらで包んで、唇を覆う。 柔らかい唇に噛み付くようにキスをして、半開きになった口に舌をねじ込んだ。そのまま、舌先にゆるく噛み付いて、上顎をつーっと舐め取る。 唯は、ひくりと震えながら、わたしのシャツの裾を握り締めた。
可愛い、もう・・・可愛い。 唯にたくさん触りたいし、唯にもたくさん触れて欲しい。
唯は、ずるずるとその場に座り込んだ。わたしもそれを追うように、一緒に床に腰掛ける。 クラス中が驚愕のまなざしで此方を見ていることなんて気にしていられない。わたしの視界は、金色と碧眼でいっぱいだったから。
「ささがわ・・・っ、」
「唯。……わたしも、大好きだよ。よろしくお願いします」
恋を自覚した、翌日。 わたしと唯は、無事、結ばれることとなりました。
|
|