女王様と不良君 | ナノ



本物に会いました


電車に乗って、一駅。


電車の中でも、あたしとゆずはそれはそれはジロジロ見られて……。
あたしが見られるのは別にいいんだけど、ゆずが見られるのは、なんか嫌。
ゆずに嫌な思いさせちゃうのなんて、申し訳ないもの。
ゆずもすごい髪の色してるから目立つほうだとは思うけど、あたしのせいでさらに目立っちゃってる。


「ごめんなさいね?」

「え?」


電車の中で、突然口を開いたあたしに、ゆずが不思議そうな視線を投げかける。
あたしは、はあとため息をついた。


「あの・・・いろいろな人に見られちゃってるの……」

「え、・・・ああ」


そう言うと、ゆずはふわりと笑った。


「別に・・・美姫さんいれば、いいから……」


そんなことを言いながら、目を細めるゆず。
あたしは、カーッと顔が熱くなるのが分かった。


……なによ、これ!
あたし、この間からおかしいわよ!?


「バ、バカみたいなこと、言ってんじゃないわよっ・・・」

「あ、うん……ごめんな?」

「べ、別に謝ってほしいわけじゃ……」

「でも、オレが変なこと言ったから……」

「ちがっ…別に、嫌じゃなかったし…」

「あ、あの・・・」



あん、もう。
完全に悪循環だわ。


まあ、元はと言えばあたしが悪いのかもしれないけど……。


あたしは、ゆずの唇に人差し指を押し付けた。


「む・・・?」

「……もう、この話はおしまいっ」


そう言って笑いかけると、周囲がざわりと揺れた。
ゆずは、頬を赤く染めて、こくんとうなずく。


……ん。よかった。





駅のホームに電車が滑り込む。
ゆずの隣を歩きながら、初めて向かうゆずの家に心躍らせた。











「へ・・・?ここ?」

「あ、ああ……」


こくんと頷いたゆずは、あたしの顔をチラッと見て、うつむいてしまう。


「えっと・・・もしかして、1人暮らしなの?」

「そう、なんだ。……ごめん、本当に」

「いや・・・。別に、謝るようなことじゃないでしょう?」

「……ん、」


自慢じゃないけど、あたしの家はそれなりにお金持ちなのね。
前にも行ったけど、父が俳優で、母が女優だから。
……まあ、謙遜しないで言うと、大金持ちよ。


だから、「氷野家」っていったら、ご町内で知らない人はいないってくらいの大豪邸。
……あん。謙遜しろとか言わないで。本当のことなんだから、仕方ないでしょう?


それで、ね。
ゆずの家は……あばら家だった。


……ご、ごめんなさい。
違うのよ。あの……。


「すげー安いんだ、ここ。月3万しないの」

「さ・・・さんまん?」


月3万で、人は生活できるのね。


「すごい。ゆず、ものすごい節約家だったのね」

「い、いや・・・。ただ、貧乏なだけ」


ゆずが、とんとんと階段を上がる。
どうやら、ゆずの家は2階にあるみたい。


「えっと・・・お父さんとお母さんは?」


階段を上りながら問いかけると、ゆずはあたしをチラッと見て、ちょっとだけ口角を上げた。


「死んだ」

「……ごめんなさい、」


ああ、もう。
なんであたしって、こうデリカシーがないのかしら。
……そういえば前は、デリカシーがないのもまったく気にしてなかった、わね。


「いや・・・別に、大丈夫だ。で、妹がいるんだけど……」

「妹さん?」

「うん。まだ小さいから、親戚の家にいる。で、オレはここで1人暮らし」


カチャリ、


ゆずが鍵を差し込んで、ドアを開けた。
……月3万でも、鍵はついてるのね。


なんて、すごく失礼なことを考えてしまうあたし。


そして……





ゆずが開けたドアの中。
おずおずと覗き込むと……黒い何かが、突っ込んできた。


「きゃあっ!?」

「あ、!オイ!」


思わず悲鳴を上げてしまう。
と、黒い何かはあたしの足にまとわりつくようにして、すがってくる。


落ち着いて、そのなにかに視線を落とした瞬間。


……あたしの心は、喜びに震えた。


「し・・・し・・・」

「あ。……覚えてんのかな?コイツ」


ゆずがそれを言いながらぽつんと呟いたけど……。
あたしは、ろくに聞いていなかった。





……だって・・・


「柴犬!?」

「ああ。・・・大福っつーんだ」





だ、だいふく・・・!
可愛い!
ゆず、ネーミングセンスいいわ!


「だ、だいちゃん!!!!」





あたしの足にまとわりつく黒い生き物は、あたしが愛してやまない、柴犬だったのだから。






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