女王様と不良君 | ナノ



女王様は犬が好き


はあい。
氷野美姫です。
通称、「氷の女王」。





さてさて、
自己紹介でも言ったけど、あたし学校で話しかけられることってほとんどないのよね。
なんでって……美しすぎるから?


っていうのは冗談(でもないけど)として。
まあ、あたしの態度が問題なんだとは思うのよね。
直す気はないし、そもそも話しかけられたくないからこんな態度とってんだけど。





「………あ、の」





わかる?
話しかけてくる人なんか、いないの。
……まあ、たまに先生が連絡事項を伝えにくるけど。
それも、極まれ。





「オレ……柴崎 譲(しばさき ゆずる)」





……なのに。
なぜかあたしは今話しかけられている。
現在進行形で。
つか、あんたの名前なんてこれっぽっちも興味がありません。





目の前にいるのは、銀髪の男。ま、ところどころ黒が混じっちゃってるから、たぶん染めているんだろうけど。
目がグレイ。……カラコンかなんかかしら?
耳には無数の(ってことはないわね。7〜8個?)ピアスホール。
指にはごつめの指輪。
身長はおそらく190センチほど。……父が185センチあるんだけど、それより大きい気がする。
目は切れ長で……なに?あたしのこと睨んでるわけ?





「……なにかしら?」

「…………っ、」


ギャラリーが揺れる。
「おお、女王がお言葉を発したぞ!」なんてバカな発言まで聞こえる。
……ああ。そういえば、久々に学校で言葉を口にしたわ。


……あ。
そうなの。聞いてくれる?
さっきあたし、ギャラリーって言ったでしょう?
ここね、昇降口の前なの。
帰ろうとしたら、急にこの不良くんに声をかけられたってわけ。


「あ、あの……」


本当に、何かしら。
まさか、久々に下僕志願?……こいつが?


「オ、オレ……」


見た目にそぐわない男ね。
はっきりしゃべんなさいよ。


「なに?……あたし、帰りたいんだけど」


要領を得ない不良くんに、声をかける。
不良くんは、ちょっとうつむいた後、おずおずとあたしを見上げた。


……あら?


「あの、氷野美姫さん。オレ、ずっと前からあなたのことが好きでした!」


そう言いながら、唇をぎゅっとかみ締めて、強面の顔をうつむかせた。
あ、あらら〜?


「犬みたい……」

「……え?」


あたしが呟いた声が、聞き取れなかったんだろう。
そりゃ、そうだ。
不良くんがあたしに告白した瞬間、ギャラリーがどよどよっと揺れたのだから。


……ああ、あたし、告白されたんだ。
あまりにも予想外すぎて、頭から抜けてたわ。


「おまっ!柴崎!」
「学校一の不良が、女王様に!?」
「やだあ!柴崎くんだけは、女王様になびかないと思ってたのにっ!」


うるさいギャラリー。
こいつも何も、こんなところで告白なんかしなくたっていいのに。


……そういえば、学校の人に、こうやって真正面から告白されたのなんてはじめてだわ。大概が手紙だから。……最近では、それもほとんどが下僕志願のものだったけど。あたし、誰とも付き合わないしね。


あたしは、目の前の不良くんに目を向ける。
不良くんは、その大きなからだをちぢこませて、おろおろとあたしを見ていた。
……「きゅ〜ん」という、犬の鳴き声が聞こえてきそう。


……見た感じ、まんま不良なのに。
見上げてくる目はつぶらで、うっかり頭から耳が生えているようにも見えてしまう。
ああ、犬みたい。それも、あたしが大好きな……


「あなた、名前なんでしたっけ?」

「……え、あ…柴崎、譲……」


しば、柴っ!
そう。まさにこの人は……、あたしが大好きな、柴犬みたいっ!
あたしの大好きな、黒×白の柴犬。
髪の色なんか、黒と白のマーブルで、まさしく柴犬。
切れ長のクセにつぶらっぽい目も、どことなく柴犬。
よく見りゃちょっと八重歯っぽいのも、柴犬。
しぐさは柴犬というか、犬全般っぽい。
そして極めつけ、名前に柴が入ってる!


たぶん、公衆の面前とはいえ、真正面から告白されたのも、きいたんだと思う。
ちょっと……うれしかったから。


あたしは、ちょっと考えた後……。
柴犬くんに、笑いかけた。


「「「キャーッ」」」
「「「うおーっ!」」」


おそらく、皆さま方はじめて目にするであろうあたしの笑顔。
柴犬くんは、かちこーんと固まってしまっている。


「しばけ……いいえ。譲?」

「うえっ!?は、はいっ!」


こうすると決めた以上、名前呼びに限るわ。
だって、あなたペットを苗字で呼ぶ?
……ああ、失礼。ペットではなかったわね。


名前を呼んだ瞬間、びくりとからだを震わせる柴犬くん…もとい譲。
ふるふるとあたしを見上げてくる。
ああ、可愛い。この図体で、柴犬とか。
雨に濡れた、柴犬みたい。
抱き上げて、傘に入れたくなってくる。


「いいわよ?」

「……っ、え!?」


ばっと顔を上げた譲。


「お付き合いしてあげるって言ってるの」

「え、えぇぇえええ!?」


口元を押さえて、驚愕の表情をする譲。
そして、揺れまくるギャラリー。


「じょ、女王が人と付き合う!?」
「しかも、柴崎と!」
「つかやべえっ!笑顔が麗しすぎる!」
「うそだろ!女王と…キ、キスとかするのか!?」





……柴犬がね、飼いたかったの。
でも、母が犬アレルギーだったの。
頼み込んでも、許してもらえなかったの。





手に入れた柴犬に、にこりと笑いかける。
譲は、顔を真っ赤にして、わたわたとうつむいてしまった。





手に入れた。あたしの柴犬。
(……なんかいろいろ間違ってます)






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -