女王様と不良君 | ナノ



わんこにお友達?


足早に、道を歩く。
学校までの道のりが、なんだか長く感じる。
……早く。
早く、ゆずの顔が見たい。……会いたい。



……頭に浮かぶのは、昨日のゆずの家での出来事。





あの後、なんだか急に恥ずかしくなってしまって、あたしは早々にゆずの家を退散した。
だ、だって・・・ゆずってば、びっくりするくらい男の子だったんだもの!!
キスをしながら、抱きしめてくる手は大きかった。
唇を重ねている最中に見えた目は・・・鋭くて……目があった瞬間、ドキドキしてしまった。


「あっつい・・・」


上目遣いが可愛くて、大きい図体でも優しくて……。
正直、最初は犬としてみていた(……反省してるわ。だから、最悪とか言わないで)。
でも、だんだん惹かれていて……いつの間にか、あたしの心を占拠している。


「なんなのよ・・・。これ……」


ゆずのことを思い浮かべると、心臓が破裂しそうにきゅうって伸縮する。
……やだ。ドキドキする。


独り言を呟いて、ゆずのことを思って。
あたしは、学校に入った。


周囲から、「女王様、おはようございます」という声が聞こえたので、適当に返事をする。
すると、「女王様が返事をしてくれた!」なんていう、おかしな声が聞こえた。


……ああ、そうだわ。
あたし、今までまともに返事をしてなかった。
正直……うっとうしかったんだもの。





小さい頃からちやほやされてきた。
親譲りの容姿を褒められて、財力に男が擦り寄ってきて……。
美人美人ってもてはやされているのにも、だんだんうんざりしていた。
周りとの壁を作って、「あたしは1人でも生きていけるのよ」なんて、周囲の人を下に見ていた。


「性格、わる・・・」


下駄箱から上履きを取って、履き替える。
……ほんっと・・・。性格、悪いわ。


ゆずは「悪くない」って言ってくれた。
でも……分かってるのよ。あたし、可愛くないもの。


周りが何て思ってるのか知らない。
でも、あたしには、ゆずがすっごくまぶしく見えるの。
自己主張はしないし、基本的には一歩引いている。
でも、心は誰よりも優しくて……恥ずかしいと、真っ赤になっちゃうの。
すっごく、可愛いのよ。
……可愛いの。


生憎、あたしは可愛さなんてかけらもない。
容姿どうこうの問題じゃないの。性格が、捻じ曲がってるのよ。





周りはね、「女王様に柴崎なんて釣り合わない」っていうでしょう?
あれ、本当は逆だと思う。
ゆずに、あたしなんか釣り合わないのよ。
あんな優しくて性格もよくて、可愛いゆずに……あたしなんか、釣り合わない。


「可愛く、なりたい・・・」


口の中で、こっそり呟く。
……可愛く、なりたい。
素直に笑える、優しい女の子になりたい。
人の心を、しっかり理解できる人になりたい。





「弱気になっちゃって。・・・どうしたのかしらね、あたし」





でも。
でも、ゆずはあたしのだもの。
……あたしの、ものだもの。
誰にも、渡したくない。





「ゆずに、会いたい・・・」


時計を見ると、始業まではまだ数分あった。
……顔だけ、みたいな。


そう思ったあたしは、2階を素通りして、3年生がいる3階まで階段を駆け上がった。











えーっと・・・ゆずの教室は……確か、3−A。
F組まである南高。階段はF組側にあるから、A組は一番遠い。
「あれ?女王なんでここに・・・?」なんていう周囲の好奇の目をかわしながら、あたしは廊下を歩いた。


A組、A組……。


「あっ、」


……見つけた。
ゆずは、ドアの前にいた。
いたんだけど……ひとりじゃ、なかった。


誰かと、会話をしている。
あたしの、知らない子。
……女の子。





身長は低めで、華奢な体系。
栗毛色のふわふわとした髪。
目は、くりっとしていて、少したれ目だった。
色は白くて、唇は桜色に色づいている。
……すごく、可愛い子だった。


系統は違うけど、容姿だけなら負けない自信がある。
でもね、でも……。
その子、笑っているの。
無邪気に、裏表なんてなさそうな顔で。
……それで、ね。ゆずの、シャツの裾を握り締めていたの。


「・・・ちょ、っと……天使さん、って・・・」


遠くから、女の子の声が聞こえる。
彼女は、こらえきれないとでもいうように、笑っていた。


「柴崎、く・・・おもしろすぎっ・・・!」

「……だって、」


ちょっと膨れながらも、ゆずの目元は柔らかかった。
優しい表情で、女の子を見ている。


「天使さん、紳に会いに来たんだろ?・・・まだ、来てない」

「あは、あははっ!また天使さんって!!雪村でいいよう」

「……雪村、さん」

「『さん』はいらないよー」





……ああ、ピッタリだわ。
あの女の子と、ゆずは。


2人の様子を見ていて、あたしはふいにそう思った。


だって、ゆずは柔らかい顔で笑ってるし……女の子は、すごく可愛いし。
表情だけ見てても分かる。あの女の子、きっと優しい性格をしているんだわ。





「……はりゃ?」


と、女の子が視線を上げた。
ばっちりと、目が合ってしまう。


「あれ?えーと・・・譲くん?」

「あ、なん・・・だ?」

「あの子……」


その言葉と同時に、ゆずも此方に視線を動かした。
あ、と、ゆずの口が開く。





「……ゆ、ず・・・の……」


じり、じり……


ゆっくりと、あたしは後ずさりを始めた。
ゆずが、不思議そうな顔であたしを見ている。


「美姫、さ・・・」

「ゆ、ゆずのばかあっ!!!!」

「え?・・・み、美姫さん!?」





バカは、あたしよ。


あたしは、呆気に取られるゆずを置いて、廊下を逆戻りした。
振り返った瞬間、ゆずの友達だっていう銀髪の美形が目に入ったけど、知らないわ、そんなの。





「ゆず、ゆず・・・」





頭の中、ゆずでいっぱいだったのよ。
ゆずは、あたしだけのものだって、思ってたの。


でも、ゆずにはゆずの世界があって、ゆずを大事に思ってくれる友達までいる。
それに、あんな可愛い・・・女の子までいた。


「いらないじゃない、あたしなんか!」


なんでこんなに自信がなくなっていくんだろう?
前までのあたしは、自分への自信に満ち溢れていた。
でも・・・なんでこんなに、弱くなっちゃったのかしら?





学校なんか、いられるもんですか。
こんな・・・こんな、いやな気持ちでいっぱいなのに!!





まだ、登校したばかりだったけれど……。
あたしは、自宅までの道のりを、猛ダッシュで疾走した。














side Azumi


「み、美姫さ・・・!?」


驚いたような譲くんの顔。
や、やっぱりそうだ。
あの子、譲くんの彼女の、女王様って子だ!
すっごく美人だったなー。


とか思っていたら、譲くんがあたしに視線を落とした。
すっごく、慌てたような顔をしている。


「ご、ごめんな。美姫さん、追いかけなきゃ……」

「あ、うん。行ってらっしゃい!」


譲くんは、言いながら、すごいスピードで女王様って子を追いかけた。
……追いつくといいなー。


昨日ね、千夏の家に遊びに行ってそのまま泊まっちゃったから、紳と一緒にこれなかったんだ。
でも、毎朝会ってるから、なんだか顔見たくなっちゃって……。
それで、A組に来たんだけど、まだ紳は来てなかった。
だけど、紳と仲のいい譲くんがいたから、ちょっとお話してたのね。


そしたら・・・!
譲くん、あたしのこと「天使さん」って呼んだんだよ!
それがツボに入っちゃって・・・。
思わず、大爆笑しちゃったってわけです。


……あ、あたしの事情なんて、そんなに興味ないですよね?
ごめんなさい・・・。
久々にあたしの一人称だから、いろいろ喋らなくちゃって……。


と、目の前から紳が歩いてくるのが見えた。
……なぜか分からないけど、くすくすと笑っている。


「紳、おはよ。……どうしたの?機嫌、いいね?」

「ははっ」


目の前まで来た紳は、あたしの頭にぽんって手を乗せて、堪えきれないとでもいうように笑った。
……なんですか?あたし、何か変なことした?


「しんー?」

「あずみ、お前……。恋愛小説でいうところの、ライバルになってるぞ」

「……へ?」


ライバル?
……え?ライバルって……。
少女マンガとかで、主人公の男の子に近づいて、やたらボディタッチとかする?
なんかちょっと嫌われがちな?


「ら、らいばる・・・?」

「譲をめぐる、な」





……あ!!
さっきのあの子、譲くんの彼女だよね?
もしかして・・・もしかして……!


「や、やな思い、させちゃったのかな!?」

「まあ、たまにはいいんじゃないのか?」


クスクスと笑う紳。
ま、まじですか!!??


「らいばる・・・」

「目の敵にされるんじゃないか?」

「や、やだやだ!ごめんなさい女王様!!」

「ライバル改心か?」

「うるさい紳!笑うなーっ!!!」


久々に出されたと思ったら……。
何、この仕打ち!!


紳のばかーっっ!!!






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