Side Hayato
生徒会の連中が現れても、この先輩らは引かなかった。 むしろ、現れて騒がしくなったのに乗じて、より一層歩に迫ってくる。
「ねーねー。俺たちが気持ちよくしてやるからさあ?」
「つーか、本当に美人だね。会計と張るか、それ以上じゃねえの?」
好き勝手言う2人。 ……ああ、もう!
「本当に、戻ってください。ここは、先輩の来る場所じゃありません」
「そうだよお。マジで、帰れ」
翔太くーん?そんな挑発しないでくれるかなー?
「はあ?てめえら、ちょっと顔いいからって調子乗ってんなよ?」
「そーそー。寺岡ちゃんも、可愛い顔だからって調子乗ってると、痛い目見るよ?」
へらへらしていた2人が、顔に青筋を立てる。 ……まずいな。
「つーかさ、寺岡ちゃんも連れてく?」
「あー、いいかも。あいつら喜ぶだろ」
あいつ、ら。 やっぱり、歩を連れてどこかに移動して……回すつもり、なんだろう。 ……最悪。
「ありえねーから、消えて」
思わず、声を荒げる。 敬語?知るかそんなもん。 つか、今まで使ってたのがすごすぎるって。
「はあ?」
「やーだねー。正義の味方ぶって」
講堂は、生徒会会計が1学期の心得とやらを話していた。 それによって、むっさい男共の「うおおおお」とかいう声が響いているし、周りのやつは少しでも目立とうと飛び跳ねたり手を振ったりしている。 ……つまり、この辺、全然目立たないってこと。
「ほら、来いよ」
「…やっ・・・!?」
と、2人のうちガタイのいい男が、歩の腕を引っ張った。 マジかよ・・・!
「寺岡ちゃんも、混じりたいならおいでー?」
「行かねーよ!つか歩離せ!」
翔太が飛び掛って歩を引っ張るが、見かけどおりすごい力であろう男に突き飛ばされて、ぺたんと尻もちをついてしまう。
「いて、・・・」
「翔太!?」
歩が、男の手を振りはらって、翔太に駆け寄ろうとする。 そんな歩の片腕を、男が慌てたように両手で掴んだ。
「あ、あぶね。コイツ、細腕の割りに力つえーな・・・」
「連れてくぞ」
「ああ。……ほら、こっち来、」
『こっち来いよ』 たぶん、そう言おうと思ったんだと思う。 でも、男は歩の顔を見た瞬間、固まってしまった。
……なんかよく分かんないけど、チャンス?
そう思ったオレは、歩を男の腕から救うべく、歩のもとに走ろうとした。 ……けど、歩の腕を掴んでなかったほうの男に、腕を取られてしまう。
「……!離せよ」
「離さないよーん。ほら、何してるんだ、行くぞ」
「ちょっと、マジで歩に手出すな!!」
吼えるように言うと、男はふんっと鼻で笑って、オレを見下ろした。
「なんだよ。学園の人気者とあろうお方が。……なに?昨日早速食っちゃったの?いーねー。どうだった、この子、締まり具合よかった?」
「し、てねえよ!!」
ありえない言い草に、キレて男に殴りかかろうとした。 ……うん、しただけ。
なぜって……。
さっき、犬飼がオレに囁いた言葉を思い出す。
『あのさ、あゆって、自分より他人を優先するって聞いたでしょー?』
頷いたオレに、犬飼は続けた。
『それってつまりね、自分へ加えられた危害より、他人に危害が与えられることに怒るんだよねえ』
へらりと笑った犬飼は、一呼吸置くと、きゅっと口角を上げた。
『あゆ、自分以外の人に多大な危害が与えられると……キレちゃうから』
キレたあゆは、死ぬほど怖いから。 だから、絶対にあゆをキレさせないで?
犬飼は、そう続けた。 ……確かに、そう言っていたんだ。
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