愛☆猫 | ナノ


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Side Hayato



突然現れた犬飼は、よく分からないことを言って去っていった。
……歩が?


隣をにこにこしながら歩く歩を見る。
……可愛い。


そんなことを考えてほのぼのしていると、オレたちのクラスの列に到着した。
クラスは、3年間持ち上がりで同じだから、見知った顔ばっかりだ。


「よ、飯島……と、誰?」


くるっと振り返ったクラスメイトは、オレたちを見て、そして歩の顔を見て、固まった。
歩は、にこっと笑う。


「えーっと、編入してきた三宅 歩です!」


近くにいたクラスのやつらは、一様にこちらを見ていた。
そして、にこにこと笑う歩を凝視する。


…………。


「「「やったああああああ!!!」」」


そして、しばらくの沈黙の後、みんながガッツポーズをとった。
歩は、その声にびくりと震える。


「やべえ!可愛い!」
「つーか、美人!?」


ワイワイ騒ぐ男共。
……ま、いっか。歓迎されてるみたいだし。


「あ、あの・・・」


まだちょっとびくびくしている歩が、オレの服の袖を引っ張った。
……うー・・・可愛いな。


「ん?大丈夫だよ。みんな、歓迎してくれてる」

「ほんと?」

「本当だよお!!」


翔太が、にこにこ笑いながら言った。
それを聞いた歩が、心底ほっとしたように息をつく。


「よろしくお願いします!」







**********


そして、始業式がはじまった。


……けど、ハゲかかった校長の話しなんて誰も聞いていない。
みんなの興味はただ一つ。……この後に行われる、生徒会の挨拶だけだ。


「……生徒会の皆様、お元気かなぁ?」
「お目にかかるの、久々だもんね」


「……あの、颯斗?」

「……ん?」


傍にいた歩が、服の袖を引っ張る。


……ああ。言ってなかったけど、この手の集会は、入学式と卒業式以外は並び順なんてない。
ただ、なんとなーくクラスの列が出来ているから、そこに加わればいいだけなんだ。
未来を担うおぼっちゃま学校がそれでいいのかと思うが、まあ、仕方ない。
どいつもこいつも我が強いから、一直線になんて並ばないんだ。


「あの、さあ・・・。ここって、男子校?」

「え…?あー……たぶん」


オレもたまに自信なくすよ。
なんか女みたいなやついっぱいいるし……。


「確かに、これなら髪もこの長さでいいのかもね」

「……だな」


もっと長かったり、女っぽい髪型のやつはたくさんいるしな。
現に、生徒会会計の市川 雫は、ブロンドヘアをポニーテールみたいに結ってるし。


「……なぁ、」


オレと歩が頷きあっていると、突如真後ろから声が聞こえた。
……なんだ?


ふと後ろを振り向くと……誰?
2人のごつい男が、こちらを見ている。
ネクタイの色から察するに、3年だ。


「え・・・誰?」


歩も、ぽかんとして2人を見ている。
すると、2人の男は、顔を見合わせて頷きあった。


「言っただろ?すげえ可愛いって」

「確かに・・・やべーな」


異変に気がついたのか、前にいた翔と雅も振り返った。


「あの……ここ、2−Dですけど?」


歩を庇うようにして先輩たちのほうに一歩出て、そう言ってみる。
でも、おそらく歩を追いかけてここに来た以上……これしきのことで、引き下がるわけはないな。


「ああ。もちろん、そんなことは分かってるよ」


へらへらと笑う男。
後ろの歩が、眉をしかめた。


「ね、そこの青い目の君?」

「……は、はい?」


と、突然名指しされたことに驚いたのか、歩がびくりと震えて声を上げた。


「……名前は?」

「え・・・あ、」

「あのー、せーんぱいっ?ここ、2年のクラスですよお?先輩方は、戻ったほうがいいんじゃねえのお?」


ぴょん、と歩の前に躍り出てきた翔太が、にこにこと言った。
だけど、眼前の先輩はにやにや笑いを崩すことなく、口を開く。


「たしかに寺岡ちゃんも可愛いんだけどさ、今日はそっちの子に用があるんだよね」

「そうそう。ちょっとどいててくれる?」


にやにやと笑った先輩が、翔太の肩に手を置こうとした瞬間、ぱしっという音がした。


「……は?」


何かと思って見やると、歩が男の手を払い落としている。
……あ、あれ?歩、ほんの数秒前までオレの左後ろにいなかった?
いつの間に、右前方まで移動したんだ……?


「あ、あゆむ・・・?」


翔太も驚いたのか、歩に声をかける。
すると歩は、ちょっと震えて、先輩を見た。


「あ、あの・・・ぼくに、何か用ですか?」

「あ、ああ……」


この人たちも、ちょっと呆気にとられたんだろう。
払い落とされた自分の手を見ながら、ちょっと呆然としている。


でも、目の前に歩が出てきたことが嬉しかったのか、すぐに体勢を立て直した。


「あのさ、俺たちとこれから抜けない?」

「抜ける・・・?」


きょとんと尋ねた歩に、下卑た笑いを見せる。


「ああ。……抜いてやるよ」


そう言ってにやりと笑う3年。
……いやいや。歩は女だから、抜けはしねえよ。


……とか、ツッコミ入れてる場合じゃないな。


「あの・・・もうすぐ生徒会の挨拶はじまりますよ?戻ったほうがいいんじゃないですか?」


見かねた雅が、ちょっとイライラしながら声を出した。
すると、先輩たちが今度は雅に向かって嗤う。


「あー、冴島ちゃん?君も実は美人さんなんだよねえ。そんな顔して誘ってるのか知らないけど、今日はこっちの子に用があるからさ」


言われた瞬間ひくりと震えた雅を庇うようにして、翔太が先輩と雅の間に立った。
そして、2人を睨みつける。


「あのさあ、何なの?さっさと帰れっていってんだけど?」


……翔太、マジでキレてる。
いつもの緩い口調とは大違いの口調で、先輩たちを睨みつける。


「かあわいーねー。そういう強気なやつを組み伏せるのって大好き」

「……あの、本当に・・・」





ざわっ、


オレが、言葉を発しようとした瞬間だった。
講堂の空気が、ぐらりと揺れる。


次いで、キャアアとかうおおおおとかいう、雄たけびの声。





……出てきた。


歩を見ると、ちょっと睨みつけるようにしながら舞台を見ている。





生徒会の、おでましだ。






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