戦国(小太佐)
2011/10/09 18:22


「月がさ、見たいんだよね、っと!」

そういって佐助が回し蹴りをする。それを避けた黒い影から、追随を防ぐべく苦無が飛んでくる。佐助はそれを武具である、巨大手裏剣で弾いた。

舞台は、獣も眠る丑三つ時、国境に近い森の中である。月の巡りは三日月で、今日はただでさえ光源が弱い。それを、何者の存在も拒むように、鬱蒼と繁った雑木がかすかな光を遮っている。

そんな中だというのに、どこから光を拾うのか、自分に殺意を向ける赤が、やけに目に焼き付いた。


攻めるに難し、守るに易し。難攻不落と言われる小田原城が、無防備になる夜。だというのに主である北条氏政は、呆れる程に楽観的であった。

こういう夜こそ目を光らせる者がいるのだ。歳老いて、身体も器量も小さくなった主は忘れてしまったのだろうか。案の定、大丈夫だと聞かない氏政が寝静まったあと、見回りをすると、迷彩の装束を纏った忍を見つけた。


「ほんとにさー、ちょーっと様子を見に来ただけなんだって」

「……」

「だからさ、おねがいだよ伝説の忍、」

「……」

「見逃して?…ってうぉっ!」





印を組んだ忍が文字通り、風になった。鋭い刃が飛んでくる。言わずもがな、それが答えなのだろう。

「あっぶねーの」

いくつか佐助を掠めたそれは、やがてまた人の形に戻った。


「話は戻るけどさ、月がね、みたいっていったんだよ、旦那が」

「ああ、旦那ってのは、俺の主さんなんだけどね、っと」

「次の満月がさ、見たいんだって」

速い。野分の様な強い風は、通り過ぎる、と思った頃には無数の刃が放たれた頃である。

おまけに両足にまで対刀を持ち替えて斬撃を繰り出すから、その攻撃パターンが読みにくいのだ。多少の無茶な動きも、鍛え上げたらしい体がフォローする。

口を閉ざして迎撃に集中したい、というのが本音だが、これが対風魔の突破口だと踏んだのは自分だ。

「旦那が、あんまりしつこく言うもんだから、俺も、思うんだ」

自分の中に、忍はこうであれ、と縛り付ける何かを持っているんだろうか。伝説に恥じぬための何か、風魔の名を汚さぬための何か。

きっと、そんな奴にしてみたら、俺はたいそう異端に見えるんだろう。赦せないんだろう。

「あそこに帰らなきゃ、って」

だからなんだろう。佐助が言葉を重ねるたびに、少しずつ、でも確実に、風魔の攻撃は粗くなっている。


(……ここだ)


「だからね、っと!」

攻撃が単調になってきた風魔を見切るのは、難しいことではなかった。風魔が佐助の懐に飛び込む。それをかわして体勢を崩した風魔に斬りこんだ。

頭を使う分、多少攻撃力は劣るが、心理戦は佐助が有利だ。トータルしてみれば、これで佐助にも勝機が生まれる。

「……!」

「(……浅かったか)」





**


たまには戦ってみようと思った
終わりは決めたのに、書いてるうちにそこに辿り着けなくなったという



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