◎歪んだ純愛 14
この街で起こる非日常な事件も、ネット社会も、今では色褪せて見えてしまう。
臨也は白い布に包んだ静雄と遺骨を抱え、一旦マンションに戻ることにした。
ドアを閉め、鍵とチェーンを掛ける。
長い廊下を歩いていつもの光景が目に入ると、デスク上には既にセルティの首だけがなくなっており、握りつぶされたメモと、札束と、散乱する器機と資料はそのまま残っていた。
「波江のやつ、最後まで意地張るんだから」
足で器機を退けてチェアーまで辿りつくと、痛む身体を預け、布から静雄の頭を解放する。
「見て、シズちゃん。此処から新宿の街並みが良く見えるだろう」
鮮やかな青い空が、夕刻に向かって赤が交じり合っていく。
騒がしい都会では既に街灯が点滅し出していた。
「世話しない世の中だよね。本当、飽きなかったなぁ」
そもそも、それは君がいたからだったのか。
「…つまらない世界だ」
君が居なくなったっていうのに、全く嬉しくない。
ああ、違った、目の前にまだ居るじゃないか。
「遺骨も家族に渡さないとね、あ!俺、君の弟に殺される」
臨也は笑いながら、静雄の前髪を逆撫でにして額を露にする。
両頬を包み込み、臨也の顔と同じ位置まで掲げた。
「…一人にしてごめんな」
夕日が二人を照らす中、臨也は静雄の額に、静かにキスをした。
唇から伝ってくる温かさは本物なのに、もう涙も枯れてしまったのか、臨也は妙に落ち着いた様子でゆっくりと離れる。
すると
「!」
在り得ないことが今、目の前で起ころうとしている。
しゅる…
首からゆらりと流れ出る影が、刃のように臨也の首に纏わりついてきたのだ。
「…シズ、ちゃん?」
影はどんどん臨也を包み込み、首に巻かれた影の質量が増してくる。
セルティの言っていた言葉が脳裏で木霊した。
“影は首自体の生命維持でしかない
(だったら、これは?)
しゅる…しゅるる
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