歪んだ純愛14 | ナノ


歪んだ純愛 14

この街で起こる非日常な事件も、ネット社会も、今では色褪せて見えてしまう。
臨也は白い布に包んだ静雄と遺骨を抱え、一旦マンションに戻ることにした。
ドアを閉め、鍵とチェーンを掛ける。
長い廊下を歩いていつもの光景が目に入ると、デスク上には既にセルティの首だけがなくなっており、握りつぶされたメモと、札束と、散乱する器機と資料はそのまま残っていた。

「波江のやつ、最後まで意地張るんだから」

足で器機を退けてチェアーまで辿りつくと、痛む身体を預け、布から静雄の頭を解放する。

「見て、シズちゃん。此処から新宿の街並みが良く見えるだろう」

鮮やかな青い空が、夕刻に向かって赤が交じり合っていく。
騒がしい都会では既に街灯が点滅し出していた。

「世話しない世の中だよね。本当、飽きなかったなぁ」

そもそも、それは君がいたからだったのか。

「…つまらない世界だ」

君が居なくなったっていうのに、全く嬉しくない。
ああ、違った、目の前にまだ居るじゃないか。

「遺骨も家族に渡さないとね、あ!俺、君の弟に殺される」

臨也は笑いながら、静雄の前髪を逆撫でにして額を露にする。
両頬を包み込み、臨也の顔と同じ位置まで掲げた。

「…一人にしてごめんな」

夕日が二人を照らす中、臨也は静雄の額に、静かにキスをした。
唇から伝ってくる温かさは本物なのに、もう涙も枯れてしまったのか、臨也は妙に落ち着いた様子でゆっくりと離れる。

すると

「!」

在り得ないことが今、目の前で起ころうとしている。



しゅる…


首からゆらりと流れ出る影が、刃のように臨也の首に纏わりついてきたのだ。

「…シズ、ちゃん?」

影はどんどん臨也を包み込み、首に巻かれた影の質量が増してくる。
セルティの言っていた言葉が脳裏で木霊した。

“影は首自体の生命維持でしかない

(だったら、これは?)



しゅる…しゅるる



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