歪んだ純愛5 | ナノ


歪んだ純愛 5



「 」


ナイフ越しに感じたのは、肉に減り込む感覚。
そして、骨。
血管が切れてしまいそうになるくらい、臨也は目を見開いていた。

目の前の男は至極満足そうで、それでいて、痛そうだった。

「さ…」
「刺さったな、ようやく」

刃の三分の一は中に入っているだろう。
静雄の、首に。

高校から十年余り、初めての光景だった。

「声帯は無事だな、良かった…あー、いてぇ」
「なんで」
「どうだ、満足かよ?」
「なんで」

刺さるんだ。

「気付いたから、かもな…」
「何をだよ」

臨也は喉が熱くなるのを感じた。

「俺よぉ…お前の事殺したくて、一ミリも信じて無くて、ずっとテメェなんか死ねば良いと思ってた」
「手、離せ」

抜こうとしても静雄が臨也の両手を掴んでいてナイフを抜き取れない。
静雄の口から血が吹き出た。

「ッ…でも、ずっとよぉ、ずっと…テメェのことばっか考えちまって、どんな傷でも治るってのに、胸のこの傷だけは跡が残ってんだ。執念っつうのか?」

片手でシャツを引き裂くとボタンが飛び散った。
胸元が露になると、丁度鳩尾の少し上辺り、斜め上に十五センチ程の古傷がぱっくりと臨也の眼球に映りこんだ。

「!」
「初めて会った時、テメェの挨拶がこれだったろ。…覚えてねぇとは言わせねぇぜ…?」

(忘れるものか)

「へぇ?そうなんだ」

冷や汗が額を走り落ちる。
また喉の奥が熱くなった。
凄く、凄く痛むのを止めたい。


「…あー、時間がねぇ」

「手を離せ!」

「…なぁ、俺はよ、臨也が好きだぜ」

「 」



今ので折原臨也は、一度死んだのではないかと思う。



言葉にならない。
脂汗かきながら笑顔作られても、何も返す言葉が見当たらない。
ガチガチと歯が震えた。

「あー、言えた。やっと…」

ぐっ、と手首を掴む手の平に力が込められる。
ミシミシと骨が唸った。

「気味悪ィだろ?まぁ、良いんだ、言えただけ…マシだからな」
「シズ、ちゃ」
「だから、テメェが望む俺の死を、やるよ」
「シズちゃん!」
「臨也ァ…最初に素直になった、俺の…勝ちだな」
「シズちゃん!!!!!」
「刺さっても多分、テメェの力じゃ全部は無理だ、でも、俺の手を加えたら、…出来、んだろ」

静雄の両手が臨也の手首と甲を押さえ込むと、ぬぬ、とナイフが横に進んだ。

「良い…か、テメェ、は、俺のこと、絶対に忘れん、な」
「やめ、やめろ、違う、俺は」

歯が震えて上手く話せない。
静雄の表情が、少し柔らかくなったのを、見逃さなかった。

「俺の方が、君を」

血の気の引いた臨也の顔を見て、静雄は満足気な表情を浮かべた。

「んなもん、前から知ってたぜ?」
「!」



好きだって。



静雄は痛みに涙を堪えて、目を閉じた。


何故だろうな、そうだって事、何処か自信があったんだ。
でもよ、心底捻くれてるテメェは、俺がこうでもしねぇと本音言わないだろうが。
なぁ、臨也くんよぉ



「やめろおおおおお!」








『待ちやがれ、クソノミ蟲!』
『毎度同じ手に引っ掛かるなんて馬鹿だなぁ、シズちゃんは』


『どうせテメェの仕業だろ、今日こそぶっ殺してやる!』
『嫌だなぁ、証拠も無く俺を疑うなんて』


『おい、ノミ蟲』
『なぁに、化け物のシズちゃん』
『…チッ、なんでもねぇよ』
『そう、じゃあ殺し合おうか』



―シズちゃん。

4/6

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