歪んだ純愛3 | ナノ


歪んだ純愛 3
事の変化はその前日に起こった。

「今日こそ息の根止めてやるぜ」
「ほーんと、懲りないんだから。その台詞飽きちゃったんだけど?」

平和島静雄にナイフは刺さらない。
そう判ってはいるが、これは臨也の装備に欠かせない代物となっている。
静雄の拳がボキリと唸った。
こんな都会であるのに、体良く周りにはほとんど誰も居ない。

「だああかああらぁああ、んなもん振り回したところで、なんになるってんだ?テメェは学習能力がねぇのか?ああ!?」

「…モノは使いよう。切れないなら別の方法をとるまでだよ」

「意味判るように言え。…あ、やっぱいーわ。お前もう死ぬから」

相変わらずのやり取りである。
好意など微塵も感じさせない、冷たい視線を互いに交わす。
…少し前までは、だ。

それを感じ取るのに、ものの数秒しか掛からなかった。
静雄が、一つトーンを下げて尋ねてくる。

「おい、テメェは俺が死んでくれたら嬉しいんだよな?」
「判ってるじゃないか。君も然り、だろ?」
「…。判ってんじゃねぇか」

こうしてまた繰り返す。
叶えないくせに、下らないやり取りをつらつらと。
いい加減にしろ、と彼らの中のどこかで別の彼らが呟いている。

「テメェは俺の手で殺す。でもテメェは俺を車で撥ねさせたり警察押し付けたりよぉ…女々しーんだよ!」

どごっ

彼の拳が地面のコンクリートを薙いだ。
まるで刀のように。

(これを人間だなんて誰が思うと?)

「化け物と違って俺は人間なんだからさぁ、対等に素手同士ってわけには行かないで、しょ!」

ビュッ

忍ばせていたナイフを、言葉を口ずさみながら投げつけた。

サクッ

「…!?」
「ッチ…!」

ぱた、た

久しぶりに垣間見る、化け物の血。
きちんと赤くて、人間みたいに少し黒い。

「てぇな!」

首を押えて歯を剥き出しにする彼を見た臨也は、目を大きく見開いた。

「…へぇ?刺さる時もあるんだ」
「知るか!刺して来る奴はテメェだけだからなァ!」

嫌味を言いながら笑う静雄だったが、少しばかり痛そうに見えた。

(何故だ?)

いつもならば、痛みさえ感じない筈なのに。
カランと落ちたナイフには無論のこと静雄の血痕が付着している。
臨也は取り繕った心臓で優雅に拾い上げた。

「…今更人間気取りか」
「俺は化け物なんかじゃねぇ!」
「化け物だよ!」
「違う!」

いつもと違う様子の静雄を、臨也は怪訝な表情で見上げる。

「おい、シズ…」
「…それがテメェの望みなんだな」
「…え?」

小さく呟いた言葉を拾い、静雄の顔をもう一度良く観察する。
やはり様子がおかしい。

「心の準備ってもんがあるからよ、こんな路上じゃなくて、何が起こっても誰もこねぇ場所で、本当にケリつけようぜ」

手の平を返し、自身の拳を確認している。
伏せ目がちに一言一言を紡いでいく姿に、臨也は肩を竦めた。

「怖い怖い、俺を殺した後の証拠隠蔽でも考えてるのかな?今日此 処で良いじゃな」
「臨也」
「…何」

突然名前を呼ばれ、少しだけ心臓が撥ねた。

「俺はなぁ、テメェみてぇに自信過剰でもねぇし、頭も良いとは言えねぇ。でも、気付いちまったからよ。これだけはやり遂げるぜ」
「は…?」

静雄がゆっくり近づいてくる。

「!」
「明日のこの時間、ここに来い。…心配すんな、俺一人だ」

丸くなった紙を直接手に握りこまされた。

「…何考えてるわけ」
「ほっせぇ手だなオイ」
「シズちゃん!」

呼べども静雄はふり返ることはなかった。
臨也の心境を知りもせず、随分な一方的さだ。
触れた指先から言いようのない熱が広がっていくのを、臨也はこの時嗚咽が出そうなほど感じていた。

「何だ、これ」

いつもいつも。

平和島静雄、お前の存在は俺にとって、
煩わしいものでしかないんだ。


―お互い様だろ?


誰かがそう言って嘲笑った。


『それを違う言い方で表すとどうなるか?』

そう、悪友に尋ねられた。
すると、とある頭の良い素敵な情報屋は、意表を突かれたのか、押し黙ったまま口を開かなかったという。

そのとき

『ああ、誰かに後押ししてもらわないと傷つくことさえ出来やしない、ただのクソガキなんだね』

と、悪友は笑って返したそうだ。

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