現実トリップ。3 | ナノ


現実トリップ。3
『いざ、いざやの、指が…ッ』

馬鹿だねぇ、触れてもないのに、俺の名前を呼んでさ。
妄想の中の恋人はどうしたの?
それとも、妄想の中では誰でもないと言っていた君だけれど、それが折原臨也という別の都合の良い俺自身だとしたのなら…

(まったく…救えない化け物だ。淫乱め)

くくく、と喉で笑い、手の平で額を覆う。
開脚椅子はものの見事に破壊され、パーツが飛び散って床を汚していた。

「…」

目の前で繰り広げられる痴態を眺めていて、判ったことがある。
収縮するその後孔が、俺を引き寄せ、誘っているということを。

(誰が化け物なんかの妄想に介入しなくちゃいけないんだ)

俺は視ているのが好きなんだ。
妄想にしか逃げ込めなくて人間の最大の欲を欲している、哀れな化け物を視姦して愉しむというのが。

(シズちゃんは、嘘でも愛を囁けばそれが気持ちの良いセックスになると思い込むタイプだろう。)

喉で笑う。

(…ああ、滑稽だ)

前までは、この手で一度でも触れさえすれば、拒絶と暴力で俺を否定し、更に遠ざけられるだろうと思っていた。
だが、現実は違った。
彼はもう、実際に俺の手で抱いてほしいと、妄想はいらないと…そう言った。

「興醒めだ」

暗くなっていく空を光のない瞳で眺める。

『テメェは…!何とも、ねぇ?のかよ…ッ』

あのとき彼の目は、至極不安そうな様子だった。
道具なんかよりも俺が良いと言った口で、与えたモノを歯で噛み砕く様は粗雑なのに、考えている事はまるで…

「女の子みたいだねぇ」

デスクに肘を立て、臨也は少しうつ伏せになる。
頭を抱えながら小さく呟いた。

「…俺の行動見て気付けって」

臨也自身、別段身体に疾患があるわけではない。
視る事が性癖なだけである。
無論のこと勃起だってするし、その反応は日に日に増して隠せないところにまで来ていたということを、自身が一番強く感じていた。

「手を出せばもう終わりだろうな」

視て視られる、この関係は。

「あいつが、俺に抱かれたい…か」

言葉にするだけで笑いが止まらない。

(精々利用させてもらおうじゃないか、平和島静雄。俺に抱かれたいなんて、それはもう惚れているのと同じ事じゃないか)

あんなに殺したいと嘆いていた相手とのセックスは、どんなに危険で、どんなに気持ちが良いものだろう。

ぞく…

「くっ…、フフ」

首筋に言われようのない快感が走った。
こういった過程を妄想して悦ぶのは、どうやら臨也のようだ。

「…」

顔を上げて、紅い紅い瞳を夕闇に光らせる。




「悔しい」



シズちゃん。
どうやら、


俺も、同じみたい。


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