現実トリップ。2 | ナノ


現実トリップ。2
見ているのが好きな彼は、何故、平和島静雄の指を彼自身の指だと思えだなんて言ったのでしょう。





『さて、今日も見せてもらうとしよう』



仕事帰りで疲れている最中、この身体は勝手に臨也のマンションに向かっていた。
ドアの向こうの彼は酷く劣情的で来るのを待っていたかのように感じたが、それはきっと自分の願望なのだろうと後から気付くことになる。

「邪魔するぜ」
「どうぞ」

日々注がれる『視線』だけで、既に従順な獣と化していることが見て取れるだろう。
…全く持って笑えない現実である。

そして、静雄は最近、妄想することが少なくなった。
なぜならば、毎日臨也に実際に見てもらい、現実に慰めているから。

でも、空しくて、やっぱり時々は妄想してしまう。
相手役はただの影から臨也へ変貌し、妄想の中での臨也は静雄に優しく触れ、辛辣に貶し、最後にはきちんと気持ち良くしてくれる。

その蜜を静雄自身が作り上げ、そして静雄自身で叶えている。

でも、もう。
もう…

本物の臨也からそれを与えてもらいたいと、欲していると、気付いてしまった。

きっと言ってしまえば拒絶されるだろう。
見ることが好きだと言っている臨也にそんなことを強要すれば、この関係さえなくなり、見てもらうことも出来ずに全てが終わってしまう。

…それだけは嫌だった。


臨也は、チェアーに腰掛けながらデスクに肘を突き、背中を夕日に向けて静雄を見ている。
逆光で真っ黒になっている臨也に、静雄は己のどす黒い欲望と重ね合わせた。

「んん…」

ああ、目の前にご馳走があるのに。

「…んーっ」

こうしてずっと我慢しているということは、今の静雄にとって拷問でしかないというのに。
ああ、ぽたりぽたりと唾液が口端から垂れてみっともないったらありゃしない。

「ぐ…っ」
「ふぅん、今日はギャグボール噛ませられてるんだ。まぁ、布だと直ぐに引き千切っちゃうもんね?化け物はパターンが飽きなくて良いなぁ」
「ッふぅ…」

臨也が用意していたのか、デスクと向かい合わせに設置されていた開脚椅子に座るよう命じられて今に至る。
ギャグボールを選んだのは、触って欲しい欲が勝手に口から出ないためだった。
しかしながら静雄の力では、その遊具も簡単に壊せてしまう。
それが金属製であっても、だ。

手足を括り付けられている時と、ボールを口に咥えされられた時に触れた臨也の手が、静雄を今まさに熱くさせている。
それを本人は分かっているだろうか。

「今日は手足の自由がないから、俺がパールを操ってあげるね」

左手に掴んだ遊具を弄びながら、潤滑剤のボトルを持った右腕を伸ばして掲げ、つと…と垂らせた。

「…ッ」
「うーん、テロテロだ。これは初めてかな?指だけじゃ可哀相だから今日は奥まで付き合ってあげる」

静雄自身でも指でしか慰めた事のない其処へ、細長く玉が連なったおもちゃを宛がわれた。
目を見開いて臨也を見上げると、色のある視線とぶつかった。

「ん、ん?!」

初めてだった。
臨也から行動されるのは。
妄想の過程で手足が縛られているという事実だからといえど、臨也がこうして物理的に静雄へ快楽を与えるということは。
…はじめて、だった。

だが、静雄が喜びに満ちたのは一瞬で、直ぐに我に返って椅子の上で暴れだした。

ガシャンッ

(嫌、だ!)

「ちょっと、せっかく用意してやった椅子壊す気?一人で出来ないだろうから手助けしてあげてるんだろ」
「んんん!」

首を振っても冷たい視線だけが向けられる。
口を開いても唾液が零れるだけで話せない。

がきんっ

静雄は、我慢できずにボールを噛み砕いてしまった。

カシャン…

「おや。流石」
「げほっ…やめろ!…クソッ」
「へぇ、俺にはされたくないって?」
「!」

臨也の指の腹が、静雄の目尻を擦る。

「泣くほど嫌なんだ?」
「…!?」
「目、真っ赤にしちゃって」
「テメェは…!何とも、ねぇ?のかよ…ッ」
「何だって?」

臨也の顔色が変わった。
眉が僅かにぴくりと反応する。

(嫌なんだ。そんなおもちゃなんか。)

奥に欲しいものは、そんなものじゃない。

―まだ、行き着いた事のない、誰も知らない柔らかい其処に。

「へー」

臨也は椅子に乗っかり、静雄の直ぐ目の前にまで覆いかぶさってきた。
呼吸が頬に掛かると、静雄の心拍数が大きく跳ね上がる。

「…御託はもう終わり?」
「いざ…」
「俺がなんだって?シズちゃんのいやらしい痴態を見て興奮しないのかって?」
「そ、ちげぇ!俺は…、!」

また、冷たい視線を投げられる。
もうそんな視線は限界だった。
「テメェのが、イイ…!」

顔を伏せ、消え入るように小さく叫んだ。

「もう、妄想とか、どうでもいい、そんなおもちゃなんか」

自分でも今分かった。
泣いているのだと。
この想いに気付いてから、ずっと引っ掛かっていた腫瘍のような気持ち悪いしこり。

俯いていると、臨也がゆっくりと椅子から離れた。
怖々頭を上げて見上げると、先程よりも濃い夕日を背に、真っ黒な臨也が佇んでいる。

冷ややかな美しい瞳が潤んで映る。
それは冷たくて、残念そうな、瞳だった。

「興醒めだ」
「…!!!!」

低い声で、拒絶の言葉を食らう。


(やっぱり、こうなるよなぁ…)


再び力を失くした首が地に向けられ、口から垂れ下がった唾液が未練がましく床に零れ落ちた。

1/3

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -